無様で、けれど満ち足りた
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「……見事だ。それが、お前の強さか――――」
体を袈裟に切り裂かれ、俺は大地に倒れ伏した。
走馬灯、と言うのか。これまでの記憶が、洪水の如く頭の中に溢れ出す。
出会った頃は、取るに足らぬ若造だった。
暇潰しにもならない雑魚。普段ならその場で殺していただろうが、奴が瞳に宿す強烈な気迫に興味を抱いてその場は一度見逃した。
次に遭遇したのは、それから数週間後。
未だ弱者ではあったが、触れることすら叶わなかった前回とは違い、奴の刃は確かに俺の皮膚を裂いた。
その成長が面白く、俺は再び奴を生かした。挑むべき強者が消えて幾星霜、奴ならば俺をまた挑戦者に還してくれるのでは無いかと期待したのだ。
そして、それから数ヶ月後。
奴の強さは、以前とは比するべくも無くなっていた。
薄皮一枚裂くことが精一杯だった刃は命に届き得る程に鋭さを増し、金剛石をも断つ俺の刃を辛うじてだが受け止めるようにさえなった。
邪魔が入り、決着は逃したが――それでも、俺はそこで確信することができたのである。
――――奴こそ、我が人生最高の好敵手であると。
それからは、間を置かず幾度も刃を交えた。
奴は戦う度に強さを増し、未だ俺が優勢ではあったがいつ追い越されるかと内心冷や冷やしたものだ。
この時は、殺すと言うよりも教え導く気持ちの方が強かったように思う。俺はこの男に、俺を超えた上で再び俺に超えられて欲しいと考えていた。
――――そして、今。
俺は、この男に敗れた。この男は俺を超え、そして超え返されることなく完全に勝利したのだ。
悔しかった。けれど、不思議と不満は無かった。
死に際の回想を終えて朦朧としていると、遠くから足音が近付いて来る。それは最早聞き慣れた、邪魔者どものそれだった。
(……全く――無粋な)
どうやら、死んでいる間は無いらしい。俺はゆっくりと立ち上がり、奴の前に立ち塞がった。
「……行け。敗者とは、勝者に道を作るものだ」
俺は立ち尽くす奴を背に、邪魔者の群れへと駆け出した。敵を斬り伏せる中、微かに聞こえた走り去る奴の足音に俺は少し安堵する。
負傷、多勢に無勢――雑魚の刃が、胸を貫く。
それは、本来ならば屈辱極まりない最期だったが――今だけは何故か、酷く清々しい気分だった。




