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海へ

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 ――――ざざぁん、ざざぁん。

 気紛れに訪れた海は、波音だけを響かせていた。

 さく、さくと砂を踏む音は波に呑まれ、妙な静寂を感じさせる。その空気感はなんとなく、夜の暗闇で時を刻む時計のそれを連想させた。


 歩いていると、不意に波の音が変わる。

 ――――ぱちゃん、ぴちゃん。水が、何かを幾度も優しく打ち付けるような音。

 

 見ると、足元に何かが転がっていた。

 海月、或いはニュウドウカジカのようなブヨブヨとした巨大な物体。それは僅かの身動ぎもせず、波に打たれ続けている。

 

 好奇心から触れてみると、ぐずりと手が沈み込んだ。

 どうやら、ぶよついていた訳ではなく腐り溶けていたらしい。その感触は海月と言うより、ふやけた海藻の塊と類似しているように思えた。


 時間が経つと、潮の香りが秘匿していた塊の臭いが辺りにゆらりと漂い始める。

 つんと、鼻を突くような臭い。嗅いだことは無い筈だが、それが腐敗臭であるとすぐに理解できた。


 それは、人の亡骸であった。

 長く水に浸かり、それを吸い込んだ皮膚はぶくぶくと膨らんでいる。そのせいで衣服を何も纏っていないにも関わらず、男か女かさえも判別が付かない。


 警察を呼ぶべきか――一瞬悩んで、携帯を仕舞った。

 

 ぐい、と亡骸を押す。深みの方へ、手を沈めながらゆっくりと。

 辛うじて骨は硬いままで、それに力を込めればなんとか動かすことができた。


 そして、数分後。亡骸が完全に沈んだところで、私は水中から上がって来る。

 びしょびしょだな――そう思いながら私は海に背を向けて、静かに家路を歩き始めた。


 知っている、この行為は罪である。他者に知れれば間違いなく、私は逮捕されるだろう。

 そう理解した上で、それでも私が亡骸を海に還したのは。


 膨れ上がったそれの顔が、何処か満足気なように見えてしまったからだろう――――。

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