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思い出に幸あれ【後編】

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 世界は、静かに止まっていた。

 真っ黒な闇。それは雲に光を隠されただけの陳腐なそれとは全く違い、時や音などのあらゆる情報を包み込んで完全に抹消している。


 呆然と立ち尽くしていると、小さな手が僕の服の裾を引いた。

 見ればいつの間にか、幼い僕が隣に居る。見下ろした僕に彼はふわりと笑いかけ、裾を摘んでいた手を僕の手に移して強く握り締めた。


 手を引かれて、僕は前のめりながら歩き出す。

 奇妙なもので、幼い僕が足を止めるとその正面に美しく光るアトラクションが現れた。しかし、その光はアトラクションの周り以外を全く照らさないと言うのだからこれまた奇妙である。


 僕は、幼い僕がアトラクションで遊ぶ姿を幸福な気持ちで眺めていた。

 気付けば隣には両親達も立っている。彼らもまた、幸福な笑顔で幼い僕を見つめていた。


(――――あれ、何だろう)


 ふと、脳が軋む感じがした。

 何故だろう、この光景に覚えがある。それこそ、僕がずっと幼い時に――――


「……あ」


 そうだ、思い出した。

 あの日も、こんなことがあった。夜の遊園地で、両親と――そして、僕に似た大人と遊んだのだ。

 何故、忘れていたのだろう。そう思っていた時、不意にまた服の裾が引っ張られた。


「……………………」


 見れば、やはり幼い僕がそこに居る。

 彼は寂しげな笑みを浮かべて、小さく静かに手を振った。それはまるで、別れの挨拶のような――


「――――あ」


 ばつん、と世界が途絶える。僕の意識も、そこでぷつりと暗転した。


       ◇


 ……気が付くと、僕は元の遊園地に立っていた。

 周りの人々が怪訝な顔で僕を見ている。どうやら、僕は何もない道で十分以上棒立ちをしていたらしい。


 あれは――あの時間は、一体何だったのだろうか。

 何も分からない。或いは、遊園地という異世界が見せた白昼夢でしか無いのかも知れない。

 ……ただ、不思議と。そんな曖昧な時間だけで、僕は自分の記憶に空いていた孔を感じられなくなっていた。


 あんな、オカルティックな結論が。そんなもので満たされてしまうことが、少し不満ではあったが――僕は、それを受け入れることにした。


 そうしたのは、多分。

 思い出の中に居る僕が、とても幸せそうで……「まぁ、これでも良いか」と、思えてしまったからだろう。

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