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記憶に眠る歌

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 これは私がまだ恋の「こ」の字さえも知らない、幼い時分に起きた出来事だ。

 

 その日、私と私の両親は親戚の見舞いで病院を訪れていた。

 けれどその親戚とは新年に数度顔を合わせた程度で、仲が良くも何ともない。おまけに騒ぎたい盛りの男児にとって、病院と言う場所はあまりに退屈過ぎた。


  暇を持て余した私は両親と親戚が話している隙を見て病室を抜け出し、病院内を探検することにした。

 とは言っても病院と言うのが騒いではいけない場所であることは子供ながらに理解していたし、大抵の部屋はさっきと同じ退屈な病室なのも想像が付く。となれば必然、行ける場所は限られていた。

「んしょ、っと……」

 他とは違うガラス戸を見つけ、好奇心から開けてみる。すると、そこは大きな中庭だった。

 普段行くような公園よりも遥かに広い。学校のグラウンドと比較しても負けなさそうな広さにテンションの上がった私は、弾かれるようにその場から駆け出した。

 

「♪……♫……♩……♪……」

「ん……何だろ、この声」

 駆け回っていた私は、何処からか聴こえた声に思わず足を止めた。

 耳を澄ますと、その声は近くの木陰から聴こえていることが分かる。好奇心に駆られて覗き込むと、そこには一人の少女が居た。

「♪……♪……♫……♩……」

 少女はこちらに気付いていない。彼女は私など存在していないかのように、歌声を響かせ続けていた。

 ……邪魔してはいけない。そう、思い込まされる。

 言葉も無く、その歌声に聴き入っていた時――不意にその声が止んで、少女がこちらを振り向いた。

 少女は何も言わない。ただ静かに、水晶玉のように透き通った瞳で幼い私を見つめていた。


 ……あの後、私は何をしたのだったか。

 子供なりに少ない語彙で彼女を称賛したような気もするし、何も言えずに突っ立っていたような気もする。

 ただ、確かなのは。少女は何も言わず、私の横を通り抜けていったこと。そして呆けていた私がいつの間にか車の中に居たこと、それだけだ。


 ……今も音楽を聴くと、彼女のことを思い出す。

 彼女は今も、歌っているのだろうか――そうあることを、切に願うばかりである。

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