プロローグ2.自称、現実的な女 side美羽
ヒロインのココロの一片。
「地味」「平凡」
世の中の女の子達の多くは嫌う言葉だと思う。
人に向かって発したら、悪口と受け止められるかもしれない。
でもあたしはこの言葉が大好きだ。
ついでに言えば、「穏やか」も好きな言葉だ。
「地味」で「平凡」に「穏やか」な人生を送るのは、20歳にして、あたしのテーマとなった。
あたし、林 美羽は、名前こそ平凡ではないものの、容姿はいたって平凡。いや、ちょっとぽっちゃりしてるから、良く言っても中の下だろう。
やたら色が白いため、平凡な容姿は更にぼんやりと人の目に映るらしい。
でもそれは人の印象に残らないんだから良い事だ。
身長だって155cmと、結構な確率で人ごみに埋もれる。ちょっと息苦しいけど
これまた最高だ。
とにかく・・・目立ちたくない。
スポットライトを浴びる人間というのは、もう決められた人間だけなんだ。
なぜそう思うかというと・・・昔から、なぜか人の注目される場面では失敗ばかり
してきたから。
劇に出ると本番で台詞を忘れる。卒業式で証書を取りに前に出ると転ぶ。
とある参観日には、たまたま答えがわかって張り切って手を挙げたら見事に
間違って叔母さんに恥ずかしい思いをさせ、クラスメートの親御さんには笑われた。
叔母さん、というのは幼い頃の火事で亡くなった両親の代わりにあたしと兄を
育ててくれた母の妹の事だ。
叔母さんが結婚する事になった時に離れて暮らす事になったけれど、あたしにとっては
本当にお母さんみたいな存在で、今でも色々心配してくれる。
それに・・・ママのおなかの中で、パパとママの良いところは
全て先に生まれてきたお兄ちゃんに取られてしまったみたいだ。
うちの両親は、プロ野球選手と女子アナという、世間が羨むカップルだったらしい。
長男として産まれたお兄ちゃんは、恵まれた体格と運動神経、健康的な肌の色をパパから。
頭の良さと、回転の早さ、社交的なところと小顔にキレイに配置されたそれぞれの
上品な造りの部品をママからもらったようだ。
・・・叔母の持つ少しの写真と、自分の記憶にうっすら残る面影でしか判断できないけれど・・。
あたしは、肌の白さだけはママ譲りみたいだけど、それ位かな?
きっと、お兄ちゃんはママのおなかの中で、肌の色を悩んだ結果、小麦色を選択したらしい。
この話をすると、あたしに甘いお兄ちゃんは「そんな事ないよ。美羽は料理が
上手じゃないか」って言う。
これは遺伝じゃない。慣れだ。
夏美叔母さんも仕事をしていたし、料理は中学くらいからほぼ毎日作るように
なっていた。
出来すぎた兄を持ち、何かある度に失敗するどんくさいあたしは、人前に立つ事が
大の苦手になり、誰の目にも映らない地味な存在でいることがすごく落ち着くように
なった。
短大に合格したと同時に、結婚して3年になる夏美叔母さんのご主人の転勤が
決まった。
そして、ずーっと一緒だったお兄ちゃんも仕事で海外に行く事になり、1人で暮らす事になった。
1人になってもあたしの毎日は変わらない。
良い意味でも悪い意味でも目立たず、地味に穏やかに生きるのだ。
あたしは自分を、すごく現実的な女だと思う。