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第2章4.これは夢か幻か

誰もいない。



何もない。



キッチンはうっすらホコリがかぶっていた。




また、俺の世界から色が無くなる。

また、俺の世界からぬくもりが無くなる。

また、俺の世界から・・・・美羽がいなくなる?



何分経ったかわからない。

目の前の光景が信じられなくて、ただ立ち尽くしていた。


その沈黙を破ったのは、ポケットの中の携帯。



美羽かも!?焦って通話ボタンを押す。



「柊?オレだけど」


「・・・けい、すけ。か」


「・・・どうした?なんか、変だけど」


「美羽が・・いないんだけど。」


「オマエ、大丈夫か?」


「え?」


「りんちゃんは、お兄さんがいる台湾に行っただろ。一度戻ってきたけど、

学校退学したのもあるし、事故の後遺症で足悪くしたから、りんちゃんも

一旦帰国してすぐ行ったじゃん。

・・・・オマエ、大丈夫か?」


「うそだ!お兄さんは完治に少し長引いたけど、後遺症なんて無いって。

それで秋に戻ってきただろ!?

こっちでバイト探してただろ!?!?」


「・・・柊!」


うそだ



先週会ったのは誰だ?


あの笑顔は?数日前に、電話で話した声は?



「うそだ!」







気付いたら、俺は自室のベッドだった。




「・・・夢?」



ほっとしたのもつかの間、それは一気に不安に変わる。


夢?本当に?

美羽のマンションが空き家になっていたのが夢?

それとも、1週間前に会ったのが夢?


サイドボードの携帯に手を伸ばす。


発信履歴に、数日前に美羽にかけた証拠が残っていた。

それを見ても、まだ不安は胸の中にしつこく残っていた。



そのまま電話をかけるが・・・・出ない。



どうにもじっとしていられなくて、適当に着替え、車のキーを手に飛び出した。





--------------------------------------------------------




ピンポーン、ピンポン♪



呼び鈴を押し続ける。


本物の美羽を見るまで、安心できない。

今すぐに、会って触れて確かめたかった。



「はい・・?」



少しして、そっとドアが開く。


目の前には、パジャマの上からカーディガンを羽織り、眠そうにした

美羽が現れた。

眠っていたのか、いつも肩のあたりでふわふわしている髪が乱れて顔に少しかかって

それが色っぽくも見えた。


「美羽・・・居たんだ」


本物が目の前に現れて、空き家が夢だったのだとようやく安心できた。


それでも、本物だともっと実感したくて、美羽に向けて手を伸ばす。



「えっ・・・」



起き抜けでまだぼんやりしていた美羽を、一気に抱きしめた。


柔らかさと、暖かさで、冷えた心が一気に熱を持つのがわかった。



自分のモノにしたい。



強く、強く心からそう思った。


「美羽・・・俺、美羽とずっと一緒に居たい。少しでも、離れていたくない。」



腕の中の美羽が、ぴくん。と少し体を強張らせた。



美羽を好きになってから、こんなにのんびり構えていたのは、ひとえに美羽が

恋愛に関して逃げ腰になってるように思えたからだ。

鈍い、というのもあるけれど・・・それ以上に、「レンアイ」というものから

意識して顔を背けているように見えた。


だから、美羽が心を開いてくれるまで、そばで見守ろうと思ってた。



けど。

思った以上に、ハマりこんでたみたいだ。

相手がいないと、生きてけないかもしれない恋なんて。

1年前ならバカにしてた。そんな俺が、あんな夢だけで、身支度とか、時間とか、

そんなの考えてられなかった。

生きるか、死んだようにただ過ごすか、美羽は俺の中でそれ程に大きな存在だった。



美羽の柔らかさに甘えて、更に腕に力をこめる。



「俺・・・ここに引っ越してこようかな」




「悪いが、部屋は空いてないよ」



いきなり冷たい、ナイフのように鋭い声が響いた。




俺より少し高い位置から、見るものを射殺せるんじゃないかって位に鋭く

睨みつける男が、壁に体をもたせかけ、腕を組んで立っていた。




「お。おにーちゃん・・」


美羽が、少し困ったような声色でつぶやく。



これは・・・夢じゃ、ないよな。



シスコンという噂のお兄さんの前に、どうやら俺は最悪の登場の仕方をしたらしい・・・。


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