5. 株式会社 花菱商事
今回からタクマ編のスタートです。
ここはダンジョン【水晶の洞窟】
町の一角に元々あったとある鍾乳洞が突然ダンジョンと化してしまったのがほんの数年前。
ここはダンジョンの中での難易度的には最低ランクに位置するため、初心者用のお手軽ダンジョンとして世間に知れ渡っている。
そのダンジョンの低階層にて、薬草を採取している一人の男性がいた。
男性は慣れた手付きで薬草を採取し、アイテムボックスに収納していく。
アイテムボックスには【株式会社 花菱商事】と書かれている。
【水晶の洞窟】での探索の権利を所有し、このダンジョンで採取できる魔石や素材を加工している会社の名前だ。
男性はこの会社の従業員として働いており、このアイテムボックスは会社からの支給品の様だ。
彼の名前は 石動 タクマ
石動 ヤマトの父親にしてこの物語の冒険者編の主人公である。
◆◆◆◆
……それは、ヤマトがヒロキと【マジカファイト】で対決する数日前の話……
「ふう、もうすぐで今日のノルマは達成だな。一旦休憩するか」
今日のノルマはちょうど10000円。
薬草一つで約100円の利益が出るので、最低でも100個は採取しなければならない。
午前中の作業が思いの外、捗ったため午後の早い時間にはノルマが達成できそうだ。
「おーい!山田君、そっちの調子はどうだい!?そろそろ休憩にしようと思うんだが!?」
「はい、石動さん!こっちは順調です!じゃあお昼休憩にしましょうか!」
基本的にはダンジョンでの作業は安全を考慮して2人1組で行うことになっている。
今日のシフトは山田君とペアとなっている。
山田君は今年新卒で採用されたばかりの新人ではあるが、大学時代、野球部に所属していただけあり運動神経抜群の期待の新人だ。
ちなみに僕は現在38歳、山田君と比べたらかなり年上だ。
とはいっても、半年前に中途採用で採用されたばかり、社歴はほとんど同じに等しい。
【水晶の洞窟】の低階層は、モンスターはスライムしか出現せず採取可能な素材は薬草ばかりだ。
そのため、初心者中の初心者が担当する階層として社内では知られている。
僕と山田君という新人ペアに経験を積ませるためには正に打って付けの場所となっているわけだ。
「昼休憩に入る前に会社に報告を入れておくか」
そう言いながらアイテムボックスから端末を取り出す。
この端末は「ダンジョンナビゲーター」という物で、ダンジョンに入る際には所持が義務付けられている。
この「ダンジョンナビゲーター」は、ダンジョン内の情報を得る事が出来、更にはモンスターやアイテムの鑑定も可能な優れものだ。
外部との連絡にも使用可能であり、基本的にはこの「ダンジョンナビゲーター」を使って外界との連絡を取り合う事になる。
もちろんこれも会社からの支給品だ。
端末に報告事項を入力し、会社に午前の成果の報告を送る。
「……これで良しと、さあお昼にしようか」
ダンジョンの一角にレジャーシートを広げ、お昼ご飯を準備する。
僕のお昼ご飯は妻が作ってくれた愛妻弁当だ。
今回の弁当は僕の好物が揃っているため上機嫌でかき込んでいると、少し離れた所に動く物体が見えた。
ぷよぷよと動く青い物体【ブルースライム】
よし、ボーナスだな。
すかさず近付き、会社からの支給品のダガーナイフを突き立てる。
一撃で仕留められた様で、スライムが消滅する。
消滅した後には、キラリと光るビー玉くらいの青い石が転がっている。
よし、魔石ゲットだ。
意気揚々と魔石を拾い上げ、アイテムボックスに収納する。
このサイズの魔石だと一つ500円程度の利益が出る。
薬草5つ分の利益を得ることができ、ホクホク顔である。
そして、魔石があった場所にはもう一つ。
カードが1枚落ちていた。
【マジックサモンズカード】、略して【マジカ】だ。
よしよし、ヤマトが欲しがっているカードだと良いんだが……
カードを拾い上げるて見てみると……
【超粘体化】 レアリティ Rと書かれていた。
「おおレアカードか、ヤマトが喜ぶぞ」
思わぬ収穫に笑顔が溢れる。
レアカードであれば最低でも1000円以上で取引されるが、【マジカ】に関しては全て子供のために持ち帰ることにしている。
冒険者の特権の一つがこれである。
モンスターを退治したら必ず1枚【マジカ】が入手できる。
【マジカ】は冒険者が好きにしても良いと決められているため、売却するのも持ち帰るのも自由である。
上機嫌で休憩場所に戻ると、自分の弁当を貪り終えた山田君が声を掛けてくる。
「石動さん機嫌良いですね?何か良い【マジカ】でも取れたんですか?」
「ああ、【ブルースライム】を倒したらレアカードがドロップしたんだ。息子が喜ぶと思うと嬉しくてね」
「へえ?良かったですね、確か息子さん小学生でしたっけ?【マジカファイト】にでもはまってるんですか?」
「もう頭からつま先までどっぷりとはまってるよ、毎日毎日マジカマジカってうるさくてね、もうやんなっちゃうよ」
「あはは、僕も学生時代にはそこそこはまった口ですけどね、社会人になってからは全くやらなくなっちゃったなぁ」
やがて、僕も弁当を食べ終え休憩を終える。
「さて、残りのノルマをこなしてしまうか」
休憩を終えすっかりと元気を取り戻した僕と山田君は、ノルマを達成するため薬草採取を再開することにした。
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