32.マジカファイト VS アキラ ③
ヤマト編
前回の更新で10万文字を突破しました。
カードバトルというマニアックな分野ですが、ブクマや評価等いつもありがとうございます。
今後もどんどん更新して行きますのでよろしくお願いします。
2ターン目後攻、ヤマトのターンが始まろうとしている頃……
会場である鳳凰寺スタジアムの観客席の一角では、タクマを含む【花菱商事】の面々が惜しみない声援を送り続けていた。
「頑張れー!負けるな―!」
「ヤマト君!僕に勝った時の事を思い出すんだ!あきらめるなぁ!!!」
田中係長を始めとした社員達が全力で応援をしている。
元々は、鳳凰寺グループから【水晶の洞窟】を守るために始まったこの【マジカファイト】、社運が掛かっていると言っても過言では無いこの状況では、応援にも力が入るのにも無理はない。
「いやはや、【マジカファイト】というのをちゃんと見るのは初めてだが、心臓に悪いな……」
「大川原社長、このファイトに我が社の命運が掛かっているのです。私も先程から動悸が止まりません」
もちろん大川原社長、香川専務、城田常務の3人の役員も力の限り応援を続けている。
「タクマ君、君の息子さんは精一杯頑張ってくれている。君から見て勝率はどれだけあると思うかね?」
城田常務がヤマトの父であるタクマに意見を求める。
タクマはヤマト、ジンの修行の旅に保護者として付き添っていた。
そのため、ヤマトの現在の状況に関しては誰よりも詳しいはずだ。
「はい、かなり善戦はしていますが、今のターンで一気に戦況を覆された感があります」
「……やはりそうか、我々から見ても幾分か分が悪い事はわかるでな、それで勝算はどれ程あるんだね?」
「勝算は正直低いかもしれません……しかし、チャンスはあります。まだヤマトの方も全ての手札を出し尽くした訳じゃありませんから……」
「……手札か、確かに君とヤマト君の要求に応じて我が社の方で入手したカードはまだ全て場に出た訳では無さそうだな、特に一番値が張ったあのカード……何とかの聖杯だったかな?あのカードもまだ出とらんな」
「その通りです。それらのカードが全て上手くはまれば……勝算はあります!」
今回のヤマトのデッキには、修行の旅で得た知識や経験を全て詰め込んである。
当然、そのためには新カードも必要となるが、それは全て大川原社長の指示により【花菱商事】が入手している。
中にはプレミアが付いてしまい、かなりの高額となったカードもあったが、【水晶の洞窟】でこれから得られる利益と比べたら安いものだと、社長の鶴の一声で即決にて購入してしまった。
現在のヤマトのデッキは、アキラ程では無いにしろかなりの希少なカードも組み込まれ、歯車が上手く噛み込めば一発逆転する事が可能となる程度には強力なデッキとなっている。
(……ヤマト、悔いが残らない様に思いっきり行けよ!)
タクマは今回の修行の旅でヤマトがどれほど【マジカファイト】に対して真剣に向き合っているかを実感した。
そんなヤマトの一世一代の大勝負、本人の悔いが残らない様に全力で挑んで欲しい。
その一心で心の底から応援を続けていた。
◆◆◆◆
アキラとの【マジカファイト】も2ターン目後攻となる。
ここからは1枚のドローでも勝敗に影響を及ぼす可能性が出てくる。
「僕のターン、1枚ドローだ!」
祈る様に山札から1枚のカードをドローする。
この瞬間、マジックポイントは2ポイント回復し6ポイントとなる。
……このカードは。
悪くは無いか、いや今の盤面から考えるとかなり良い!
とにかく迷わず突き進むと決めたんだ!
一気に突撃だ!
「行くよ!マジックポイントを2ポイント消費して手札から【フェアリースライム】を召喚する!」
たった今ドローしたばかりのRモンスター、【フェアリースライム】を召喚する。
フィールドにピンク色の光を放つ、可憐な羽根を携えたスライムが出現した。
「そして、【フェアリースライム】のスキル、【フェアリードロー】を使用!このスキルの効果で山札からカードを3枚ドローする!」
「へえ、まだ抵抗する気満々じゃないか」
「当然!」
さっきのアキラの攻撃時の最後に喰らってしまった【セイントガルーダ】の【セイントジャベリン】、この効果によって手札を削られてしまったのが特に痛かった。
その手札を補うためのスキルを持つ【フェアリースライム】をドロー出来たのがかなり大きい。
【フェアリーダンス】の効果で新たにドロー出来た3枚のカードを確認する。
……よし、これなら!
反撃出来る!
「そしてマジックポイントを2ポイント消費し、魔法カード【進化の聖杯】を使用する!」
「……なるほど、そんなカードまで揃えているなんて驚いたよ」
アキラが驚くのも無理はない。
このカードはその有用性や特殊性が評価され、世間ではかなりの高額で取引されている。
このファイトのために父ちゃんの会社で入手してもらったけど、値段を聞いて申し訳なくなるくらいの値段だった。
父ちゃんの会社の社長さんは、僕がファイトに勝てばこんなくらい屁でも無いくらい儲かるから気にするな、と言ってくれたけど……
このカードは修行の旅の最中に出会った【聖杯デッキ】の使い手、盃 カエデという女性のファイターが使っていた。
カエデさんとの【マジカファイト】は何とか勝てたけど、このカードの強力な効果には驚かされた。
すぐに父ちゃんと相談してデッキに加えるべく動いてもらったって訳だ。
そのカードを使う時がとうとう来た。
僕は気合を入れて魔法カードの使用を宣言する。
「【進化の聖杯】は、フィールドのモンスターを聖杯に捧げると、次のターンに同系統の1段階上のレアリティのモンスターをノーコストで召喚する事が出来る!」
「知ってるよ、かなり強力な効果だね」
「僕はフィールドの【フェアリースライム】を【進化の聖杯】に捧げる!」
フィールドに巨大な聖杯が出現し、【フェアリースライム】を吸い込む。
これで次のターンに1段階上のスライム系統のモンスターを召喚可能となる。
「次はモンスターの召喚だ。マジックポイントを2ポイント消費し【スライムマンサー】を召喚する!」
続いては、フィールドのモンスターの数を安定させる事に特化したRモンスターを召喚する。
フィールドに杖を持った魔導士タイプの【スライムマンサー】が出現する。
「どんどん行くよ!【スライムマンサー】のスキル【眷属召喚】を使用!山札からスライム系統のNモンスターを2体召喚出来る効果で【ガードスライム】と【ルーンスライム】を召喚する!」
【スライムマンサー】が杖を振るい、魔法陣を形成すると、【ガードスライム】と【ルーンスライム】が出現する。
「【ガードスライム】のスキル【硬質化】を使用する!」
すかさず【ガードスライム】の【硬質化】を発動、次のターンに敵の攻撃を1度だけ無効化できるスキルだ。
これで、何とか敵の攻撃を防ぎきれれば勝機は必ず見えて来る。
「【ルーンスライム】の【ルーンチャージ】を使用、マジックポイントを2ポイント回復させる!」
ギリギリの攻防なのでマジックポイントの枯渇は即座に負けに繋がりかねない。
【ルーンチャージ】を使用し、0だったマジックポイントは2ポイントとなる。
「次は【レインボー・ゴッド・スライム】のスキル【神の究極召喚】を使用!召喚するのは【ゴールデン・エンペラー・スライム】だ!」
スキルの使用と共にフィールドに黄金のスライムの王が出現する。
【ゴールデン・エンペラー・スライム】のバトルポイントは22000、この状況を打破するためには欠かせないカードと言える。
「そして、【ゴールデン・エンペラー・スライム】のスキル【王の威光】を使用!このターン、モンスターの攻撃回数を1回ずつ増加させる!」
「ほう、やはり君のデッキは面白いね」
「そうだろ!?僕もそう思うよ!」
フィールドには【王の威光】の効果により、黄金の光が充満している。
「【ゴールデン・エンペラー・スライム】で攻撃だ!まずは【ホーリーグリフォン】を狙う!」
まず、倒さなければならないのは、厄介なスキルを持つ【ホーリーグリフォン】だろう。
こいつの【ホーリーバインド】はこちらのモンスターの攻撃を封じてしまう。
最優先で撃破すべきモンスターだと判断した。
【ゴールデン・エンペラー・スライム】から黄金のレーザーが発射され、【ホーリーグリフォン】を跡形も無く吹き飛ばした。
「再び【ゴールデン・エンペラー・スライム】で攻撃!次に狙うのは……【セイントガルーダ】だ!」
【ホーリーグリフォン】に続いて面倒なスキルを持つ【セイントガルーダ】を狙う。
こいつがいる限り、ターンの度にこちらの手札を削られてしまうため、早めに撃破しないと不利になる一方だ。
再度、黄金のレーザーで【セイントガルーダ】を消滅させる。
「やるじゃないか。ここまで抵抗されるのは久しぶりだね」
「へへ、少しは焦ったかい?」
「まあね、次の僕の攻撃を楽しみにするが良い」
アキラはまだ余裕たっぷりの表情をしている。
何とか抵抗はしているが、アキラのライフポイントを1ポイントも削れていないのが現状だ。
次のターンも何らかの強力な手札を切って来ると考えておいた方が良いだろう。
そのための対策として使うのがこれだ!
「最後にマジックポイントを1ポイント消費して魔法カード【超粘体化】を使用!対象は【レインボー・ゴッド・スライム】だ!」
「何!?」
アキラが少し驚いた表情を見せる。
この【超粘体化】は1ターン攻撃不可となる代わりに相手の攻撃の対象から外れる事が出来る。
しかし、現在の【レインボー・ゴッド・スライム】は敵のスキルの効果で攻撃を封じられているため、攻撃自体が不可能な状態だ。
つまり、デメリットを受けない。
恐らくアキラは次のターンで【レインボー・ゴッド・スライム】を倒す算段を付けていたのだろう。
その目算を外された形となったアキラの表情は、僅かではあるが曇りを見せた様に見える。
「これでターンエンドだ!」
事実上出来る事が無くなったのでターンエンドとする。
唯一【スライムマンサー】で【グロウシルフィード】と相討ちを狙うという手段が残されていたが、このギリギリの攻防の中、次のターンに【スライムマンサー】が残せていたら出来る事も多いと考え攻撃を控える事にした。
「そうか……やはり君は他のファイターとは一味も二味も違うみたいだね、僕も少しは……いや!かなり楽しくなってきたよ!」
アキラの表情が先程とは違って見えるのは気のせいではないだろう。
声色も一段階上がり、明らかにテンションが上がってきている。
何とか次のターンもしのぎ切れば反撃の糸口も見えてくる。
絶対に……負けたくない!!!!
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