28.決戦へ向けて ②
ヤマト編
あの模擬ファイトの次の日、ジンから再び連絡が入り「ウィザード」へ向かう。
昨日の今日でもう呼び出しとは良い度胸だ。
「やぁやぁいらっしゃい、首を長くして待ってたよ!」
「ウィザード」の一角にあるファイト用のデスクにジンが待っていた。
昨日の騒動の事など全く無かったかの様な笑顔で迎えられ、微妙な気分で席に着いた。
「やあヤマト君、突然呼び出して悪かったね、ご機嫌はいかがかな?」
「昨日の今日でその質問を出来るジンの事が恐ろしいよ」
ああやっぱり、この風切ジンという男は独特のペースを持っている。
掴みどころが無い、マイペース、自由奔放、自分勝手……
言い方はたくさんあるが、その辺りを十分に肝に銘じて付き合っていかないと大変な労力を味合わせられるのは間違いないだろう。
「それで?本題に移ろうか、急に呼び出した目的は何だい?また【マジカファイト】をしようって事?」
「うーん、そうだね、時間もそんなに無いかもだし単刀直入に言っちゃおうかな」
多少のイラつきを含みつつも本題を尋ねる僕の問いに対して、ジンは何でも無いかの様な仕草で、いつもの通りの笑顔を浮かべながら、とんでも無い事を言い出した。
「僕としばらく修行の旅に出ない?」
「……はいい!?」
確かに、ジンとは鳳凰寺アキラを倒すために、共闘する約束は交わした。
模擬ファイトを繰り返し、僕のファイトのレベルを上げるなんて事はもちろん想定済みだったが、その遥か斜め上を行く様な提案に、僕は普段決して出さない様な奇妙な叫び声を出してしまった、
「えええ?修行の旅って?【マジカファイト】の?何それ?」
「そうだよ、【マジカファイト】の修行の旅、ちょっとこのままじゃアキラ様に負ける可能性が高いからさ、僕らでチマチマ模擬ファイトを続けるよりもよっぽど勝率が上がるんじゃないかなぁって」
……ええと、よしまずは深呼吸だ。
聞きたい事は山ほどあるが、まずは深呼吸。
気持ちを落ち着けて聞きたい事を頭の中で整理して……
よし、いける。
「とりあえずいくつか質問して良い?」
「うん良いよ、何でも聞いてね」
「修行の旅ってどこに行くの?」
「それは、関東近辺の僕が知っている強豪ファイター達の所かなぁ、僕の伝手を総動員してヤマト君のレベルアップに繋がる様な【マジカファイト】を経験してもらおうかと思ってさ」
「なるほどね……いつからいつまで?」
「明日から2週間」
「明日!?しかも2週間!?」
急すぎるだろ!?しかも2週間も修行の旅ってか!?
確かに明日から夏休みで学校は休みだが、僕は小学生だ。
親が心配するに決まってる。
「あのさ……そんな突然言われても……僕にも生活があるんだよ?」
「それもわかるけど、僕が思い浮かべるファイター達全員と会おうと思うと遅くても明日には出発しないと厳しいんだよねぇ」
なるほど、さすが自分勝手、理屈が全て自分都合だ。
「はああ……どうやって行くの?知ってるだろうけど僕は小学生だよ?」
「うん、僕はこう見えても中学生さ」
「いよいよ無理じゃん!っていうかジンって中学生だったの?」
いや、確かに子供っぽい所はあるなぁと思ってたけど中学生だとは思わなかった。
中学生で鳳凰寺四天王の1人になるなんてやっぱりただ者じゃないかもしれない。
……ていうか2人とも未成年じゃん!
旅とか出来ないじゃん!
「まあ、保護者的な立場の人は必要だよねぇ、例えばヤマト君のお父さんとか?」
「と、父ちゃん?確かに保護者としては申し分無いだろうけど、仕事があるよ!?」
「そこを何とかお願いできないかなぁ?ヤマト君もここまで来たらアキラ様に勝ちたいでしょ?」
うぐ……
やっぱりジンは痛い所をついてくる。
相手は、関東大会の覇者、普通に戦っては勝ち目は無いのはわかっている。
それがジンの登場で少しは勝てる見込みが出て来てしまった。
その見込みが更に膨れ上がるならばどうする?
ジンがしてきているのはそんな提案だ。
悔しいが……
提案に乗ってしまいそうな自分がいる。
「まあ、一度親御さん達に相談してみてよ、返事はそれからで良いからさ」
「いや、そんな勝手な事を……でもそんな事を言われたら……参加するしかないじゃん」
僕の返事に満足気な笑みを浮かべるジンに、手の平で転がされてるなぁ……と内心複雑になる。
……まあ一度父ちゃんに相談するかぁ。
◆◆◆◆
「し、修行!?修行って一体どこへ行くんだい!?」
「いや、ジンから誘いを受けてさ、しばらく泊まり込みで色んな所で【マジカファイト】をしようって事になって……」
ジンから聞いた武者修行の提案について相談してみたが、予想通りのリアクションだ。
鳳凰寺アキラとのファイトが迫る中、一矢報いるためには自分でもそれしか手が残ってない様に思える。
ただし僕はまだ小学6年生だ。
ちなみにジンも態度はかなり大人びて見えるがまだ中学生だ。
つまり2人とも未成年、僕たちだけではどこかに泊まる事すら出来ない。
「つまり、僕にしばらく仕事を休んで2人の修行の旅に保護者として付き合えって事?」
「うん、さすが父ちゃん、物分かりが良くて助かる!」
「いやいや、サラリーマンなめんな!さすがにそんなに会社休めないって!」
確かに父ちゃんはサラリーマンだ、中途入社の新人だから有給もまだそんなに無いってこの前愚痴ってたのも知ってる。
しかし、そもそも鳳凰寺アキラとのファイトは父ちゃんの会社からの依頼だ。
父ちゃん達から依頼が無ければこんなに悩んじゃいない。
その辺りを理解してもらわなきゃ困るってもんだ。
「ねえ、頼むよ、1回会社の上の人達に聞いてみりゃ良いじゃんか!」
「お前の無茶言うよな、学校はどうするんだよ?」
「学校は明日から夏休みだよ!」
「お、おお?そうだったか……参ったなぁ、一回井上部長に相談してみるか……」
父ちゃんが頭をポリポリ掻きながら憂鬱そうな表情をしている。
サラリーマンはつらいなぁ、頑張れ父ちゃん!
◆◆◆◆
……翌日、父ちゃんから会社からOKが出たとの報告があった。
やはり、会社の一大事だけあって、社長直々に許可が出たらしい。
「いや、そうかぁ……でもなぁ、2週間も休んで良いのかなぁ……?」
いくら社長からOKが出たとは言え、父ちゃん的には2週間も休みをもらうのは落ち着かないらしい。
良心が揺れ動いているのが見て分かってしまう。
「まあとにかく、明日から出発だね!行先はジンから追って連絡があるらしいよ!」
今回の修行の行程に関しては、ジンが全て決めてくれるらしい。
ちなみに旅費は全て父ちゃんの会社持ちとなった。
これも社長判断だってさ。
「はあ……本当に良いのかなぁ……」
これに関しても、父ちゃんが頭を抱えている。
会社の費用で子供と出掛けるのがそんなに億劫なのかな、やっぱりサラリーマンはつらいなぁ、父ちゃん。
◆◆◆◆
翌日、ジンと合流し、無事に(?)3人で修行の旅に出る事になった。
本当はもう1日早く出たかったとジンはブツブツ言っていたけど、それは仕方がない、提案が突然過ぎる方が悪いんだ。
それに正直、ここまでする必要があるのかどうか、迷っていたのも事実だ。
しかし、ジンが言った「ここまで来たらアキラ様に勝ちたいでしょ?」という言葉に関しては明確に僕の中でも言葉が出ている。
……もちろんYESだ。
不安ももちろんたくさんあるが、どこまで自分が強くなれるかワクワクしているのも事実。
もうこうなったらやるしかないだろう。
とことん開き直って強くなってやるしかない!
そう自分に言い聞かせながら、出発したのだった。
決戦前のあれこれ……
いつアキラ戦が始まるんだ?と思ってらっしゃるかもしれませんが……
一応、次回で前振りは終了の予定ですので……
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