25.マジカファイト VS ジン ③
ヤマト編
もうしばらくファイトが続きますのでもう少しお付き合い下さいね。
ジンが召喚した【花の魔忍 死羅百合】、一見普通の女性の様だがよく見ると人間離れした妖艶な笑みを浮かべている。
「早速【花の魔忍 死羅百合】のスキル【忍法 吸精花】を使用するよ」
ジンの宣言と共にフィールドに巨大な樹木が出現する。
樹木はいくつかの巨大な蕾を携えている様だ。
「この【忍法 吸精花】がフィールドにある状態で相手モンスターを破壊した時に相手のマジックポイントを吸収する事が出来る。モンスター1体につき2ポイントだね」
「何だって!?また厄介な妨害スキルだな!」
「あはは、誉め言葉として受け取っておくよ」
これまた恐ろしい能力を持つモンスターを召喚されてしまった。
とことん僕の目的を妨害するつもりらしい。
「さあ行くよ、【地獄蝦蟇】で【ルーンスライム】を攻撃だ」
ジンの宣言と同時に【地獄蝦蟇】が【ルーンスライム】へ向けて鋭く舌を突きだし貫いてしまった。
【ルーンスライム】は為すすべもなく消滅する。
その瞬間、フィールドに咲いている樹木についている蕾の一つが開花し、鮮やかな赤い花が咲いた。
そして、【忍法 吸精花】の効果でマジックポイントを吸い取られてしまい、僕のマジックポイントは4ポイントとなる。
……だが、ただでは終わらない!
「【ルーンスライム】が破壊されたのでスキル【ルーンバースト】を発動!マジックポイントを4ポイント回復させる!」
「あらら?逆にマジックポイントが増えちゃったかな?まあまた吸収しちゃうから良いか」
僕のフィールドにいるモンスターは【グランドスライム】のみだ。
今の所ジンのフィールドに【グランドスライム】を破壊できそうなモンスターはいない。
「僕は手札から装備カード【飛龍の鎖鎌】を使用、このカードは忍者系統のモンスターのみ装備可能でバトルポイントを3000ポイント増加させる事が出来る」
「まさか!?フィールドの忍者系統と言えば……」
「もちろん【花の魔忍 死羅百合】だねぇ」
残忍な笑みを浮かべながら【花の魔忍 死羅百合】を選択するジン。
フィールドの【花の魔忍 死羅百合】がその体に似合わぬ大ぶりの鎖鎌を装備する。
この瞬間、バトルポイントは10000に増加する事になる。
「そのまま【グランドスライム】へ攻撃するよ」
【花の魔忍 死羅百合】が鎖鎌を振り回しながら【グランドスライム】に迫る。
瞬く間に切り刻まれ、最後には真っ二つに両断されてしまい、【グランドスライム】が消滅してしまった。
すると、フィールドの樹木にはもう1輪、赤い花が咲いてしまった。
またマジックポイントが2ポイント吸収されてしまい、6ポイントとなってしまう。
【ルーンスライム】の【ルーンバースト】を発動させておきながら、ターン開始時からマジックポイントが全く増えていない、完全に相手の妨害行為が成功しており本当にまずい状況だ。
……しかも、今の攻撃で僕のフィールドにはモンスターが1匹もいなくなってしまった。
「最後に【黒蜜蝶】でヤマト君にダイレクトアタックだ」
【黒蜜蝶】が見るからに毒を含んでいる鱗粉で僕を攻撃し、ライフポイントが1ポイント減少する。
「……これでターンエンドにしておくよ」
ジンの口から自らのターンの終了が宣言された。
2ターン目先攻終了時点
ジン 手札 0枚 ライフポイント 3 マジックポイント 4
フィールド
【花の魔忍 死羅百合】 レアリティ SR バトルポイント 10000
【地獄蝦蟇】 レアリティ Nノーマル バトルポイント 3000
【黒蜜蝶】 レアリティ Nノーマル バトルポイント 2500
ヤマト 手札 2枚 ライフポイント 4 マジックポイント 6
フィールド
モンスター無し
……またしてもこちらに不利な盤面を作られてしまった。
苦労して【霧の魔忍 夢幻】を倒してたと思ったら、また新たな妨害モンスターをフィールドに出されてしまう。
しかも、バトルポイント 10000のSRモンスターだ。
こちらも切り札の【レインボー・ゴッド・スライム】をどうにかして出さなければ逆転は不可能なのに完全に盤面をコントロールされ妨害されてしまっている。
……ここから逆転するにはどうしたら良い?
自らの手札を眺めながら頭をフル回転させて考える。
「いやぁ、悩んでいるようだねぇ。完全に表情に出ちゃってるけど大丈夫かな?」
ジンがニコニコと微笑みながら問いかけてくる。
「【マジカファイト】はある意味心理戦だよ、どんなに自分に不利な盤面だろうとそんな表情をしちゃったら相手に全て筒抜けじゃないか、全くなっちゃいないねぇ」
うぐ……痛い所を突かれてしまった。
今回のファイトは今の所、全くこちらのペースで進められていない。
その焦りや苦しみがもろに表情に出てしまっていたかもしれない。
……それじゃあ駄目なんだ。
僕は目を瞑りゆっくり深呼吸をするかの様に息を吐き出した。
「やっぱりそうだよね……」
「ん?どうしたんだい?」
「いや、こんな厳しいファイトは久しぶりだからさ……やっぱり」
「弱音を吐いちゃってるのかな?」
「いいや……やっぱり………………楽しまないとね!」
僕にとって【マジカファイト】は親友達と1日中笑い合ってプレイする心から楽しめる遊びだった。
しかし、【レインボー・ゴッド・スライム】という強力なカードを入手してからは勝つ事ばかりを考えて楽しむ事を忘れていたかもしれない。
【マジカファイト】は元々僕にとって遊び、目の前の鳳凰寺四天王なんて強力なファイターに負けるなんて当たり前だ。
いやむしろ、この状況を楽しむべきなんだ!
「さあ行くぞぉ!僕のターン、1枚ドローだ!」
頭をぶんぶんと振って勢い良くカードをドローする。
そして、新たに引いたカードと合わせて3枚となった手札を見つめる。
……ん?ひょっとしてこれは……
「いけるのか?」
「んん?何か思いついたのかい?」
「いや、これが成功したらひょっとして……」
僕は手札を見つめながらブツブツとつぶやく。
……いや、元々既に負け筋が濃厚なファイトだ。
負けて元々、当たって砕けろだ!やってやるぞぉ!!!
「行くぞ!僕はマジックポイントを6ポイントとライフポイントを3ポイント消費して……」
「んん?!その消費コストは……まさか!?」
「手札から【ゴールデン・エンペラー・スライム】を召喚する!」
カードをマシンにセットすると、フィールドに黄金の魔法陣が出現し、その中央から巨大な黄金のスライムが出現した。
【ゴールデン・エンペラー・スライム】 レアリティ UR バトルポイント 22000
「へえ、ここに来てウルトラレアとはね、ライフポイントを3ポイントも使っちゃって大丈夫なのかい?」
「へん、このままだと敗色濃厚だったんでね、一か八かの賭けに出るのさ!」
レアリティ SR以上のモンスターの召喚コストには、マジックポイント以外のコストを要求される事も多くなる。
一番多いのは、マジックポイント+Rモンスター2体を要求される場合だが、それがURともなると更に特殊な条件が必要となる場合がある。
今回の【ゴールデン・エンペラー・スライム】を召喚するためには、マジックポイント以外にライフポイントを要求される。
元々5ポイントしか所持していないライフポイントの内の半分以上に当たる3ポイントという高コストを支払う必要があるので、上手く立ち回らないと逆に負ける可能性が高くなってしまう。
だが、今回はそこまでしないと勝ち目が無いと踏んだ。
「【ゴールデン・エンペラー・スライム】かぁ、確かにバトルポイントは大きいけどこの戦局を覆せる様な能力じゃあないんじゃないかな?」
「……ああ、そんな事はわかってるよ!」
「何だって?じゃあ自棄になっちゃったのかな?それはつまらないなぁ……」
ジンがガッカリしたかの様に肩をすくめた。
「まあ、黙って見ててよ。決して自棄になった訳じゃないからさ」
今まで考えた事も無い新たな試み、実戦でいきなり試すにはリスクが大きいが……
賭けに勝った時には得るものも大きいだろう。
腹を決めて次に出すカードを手札から選択する。
「僕はマジックポイントを1ポイント消費し……手札から【スライム分裂】を使用する!」
「……!?それは……そんな事が出来るのか!?」
それは僕にもわからない。
だってURのカードをLのカードに分解するなんて事を試した奴なんてこの世界にいないだろうからね。
……でもやってやるさ!
「【ゴールデン・エンペラー・スライム】のバトルポイント 22000と同じ合計になる様に山札からモンスターを召喚する!対象は【ルーンスライム】と……」
……頼む、成功してくれ!
心の中で強く願いながら、そのモンスターの召喚を宣言する!
「来い!【レインボー・ゴッド・スライム】!!!!」
力の限りモンスターの名を呼んだ瞬間、【ゴールデン・エンペラー・スライム】が放っていた黄金の光が段々と虹色の光に変化して行く。
いつしかフィールド中にその閃光が行き渡り全く見えなくなってしまった。
虹色の光は収束し、その中央には見覚えのある心強い味方の姿があった。
【レインボー・ゴッド・スライム】 レアリティ L バトルポイント 20000
【ルーンスライム】 レアリティ N バトルポイント 2500
「……やった!成功したぞ!名付けて……【スライム返し】だぁ!!!!」
起死回生の一手が成功した瞬間、会場のギャラリー達から歓声が沸き起こる。
「ヤマトの奴、やりやがったぜ!」
「まさか……あんな手段があるなんて全然思いつかなかった!」
アラタとチヒロが驚いている。
その横では父ちゃんや小林さんが大きな歓声を上げているのが見えた。
「あはは、ヤマトの奴やるじゃないか!」
「ええ、あんなテクニック初めて見ましたよ!」
「URを分解してLを召喚するなんて……何という発想力だ……」
店長も目を見開いて驚いている。
「あらまあ盛り上がっちゃって……まあ僕も今のコンボは驚いたかな、ちょっとテンション上がってきたかもしれないねぇ!」
あの常に冷静にペースを崩さなかったジンの口調が若干弾んでいる。
とにかくやっと掴んだ突破口、絶対に手放すもんか!
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