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22.忍は突然やってくる

ヤマト編

 田中さんとの模擬戦を終えた僕の元にアラタ達が駆け寄って来た。

 

 「やったじゃないか!計算通り決まったな!」

 「上手く決まれば本当に敵無しって感じね!良い感じじゃない!」


 確かにアラタとチヒロ、そして店長も交えて新たに構築した【新生スライムデッキ】は狙い通りにハマれば凄まじい攻撃力を発揮してくれた。


 「うん、これで鳳凰寺アキラと対戦してもかなり良い線行くんじゃないかな?」


 店長が満足気にしている所にさっきまで対戦していた田中さんがやって来た。

 父ちゃんも一緒にいる。


 「いやあ、やられちゃったなぁ、まさかワンターンキルをくらうとは……ヤマト君のデッキは凶悪過ぎるよぉ、石動君も末恐ろしい子供を育てちゃったな」


 田中さんの言葉に苦笑いが止まらない父ちゃん。


 「ヤマト、父ちゃんは【マジカ】の事は良くわからなかったけど、見てる感じはとても調子が良いんじゃないか?」

 「うん、まだまだ調整は必要だろうけどこのまま戦っても下手したら勝てちゃうんじゃないかな?っていうくらいの手応えは感じられたかな!」


 自分でも驚く程に上手くデッキを回せた事もあって、いつもより饒舌になっていたのかもしれない。

 父ちゃんの言葉に対して、普段よりも高いテンションで答えたその瞬間……



 「そうかなぁ?それはいくら何でもちょっと調子に乗りすぎなんじゃないかな?」



 いきなり背後から聞き慣れない声がした。


 「だ、誰だ!?」


 皆で一斉に声がした方へ振り向くとそこには1人の男性が立っていた。

 

 「あっと、驚かせちゃった?そんなつもりは無かったんだ。ごめんごめん」


 見た目は高校生くらいだろうか?

 飄々とした態度でニコニコしながら話すその男性の姿にその場にいる一同が警戒心を露わにする。


 「いやぁ、そんなに警戒しないでよ。別に喧嘩しに来た訳じゃないんだからさ」

 

 男性は両手を上に挙げておどける様な感じで敵意が無い事を示している。


 「だとしたら一体何者なんだい?ただのギャラリーには見えないけど」

 「そうかなぁ?どう見ても僕なんてそこら辺の一般ピーポーにしか見えないだろうに」


 何て言うかこの人は常にふざけているというか、道化を演じている様に見える。


 「あれ?君の顔ってどこかで見た様な……」


 突然店長が首を傾げ始めた。


 「えーと、確か君は……関東大会で見た様な……って、ああっ!!!」


 突然何かを思い出したかの様に目を見開く店長。


 「き、君は……鳳凰寺の……」

 「あはは、ばれちゃったかな?いやぁ、アキラ様があそこまで戦いたがるなんて一体どんな奴なんだろう?って興味が湧いちゃってさ。偵察がてら見に来てみたってわけさ」

 「アキラ様って……お前は、まさか……」

 「ああ、名乗るのが遅れちゃったね。僕の名前は 風切ジン、鳳凰寺四天王の1人さ」


 その男性はいきなり自らを鳳凰寺四天王の1員と名乗った。


 「何だって!?一体何故こんな所に!」

 「ていうかスパイかこの野郎!汚いぞ!」


 ジンと名乗った男性は一同が驚く中、相変わらず飄々とした状態を崩さない。

 

 「スパイだなんて人聞きが悪いなぁ。僕はただヤマト君がどんなファイトをするのか興味があっただけなんだけどなぁ……それに」


 ジンは1拍置いて意味ありげな笑みを浮かべながら言葉を続けた。


 「さっきのファイトを見た限りだとスパイする程でも無かったね。あの程度でアキラ様に勝てる訳が無い」

 「なっ、何だって!?」

 「そうだよ、僕の見立てじゃ今のヤマト君の力じゃとてもアキラ様には適わない。上手くいって2ターン目で瞬殺って感じじゃないかな?」


 ニコニコした表情を崩さずに非常とも言える事実を伝えるジンに対して一同は絶句してしまった。


 それはそうだ、さっきまでひょっとして勝てるかも?なんて浮かれていたのにいきなり冷や水をぶっかけられた様なものだ。


 「それでも!ワンターンキル戦法が上手くはまれば!」

 「はいはい、さっきのワンターンキル戦法ね、確かにはまれば強力だ。でもね、アキラ様が今までどれだけのファイトを繰り返してきたと思ってるのさ?そんな戦法を狙う相手なんていくらでもいたさ。対策なんてとっくに考え尽くされてるよ」


 チヒロのリアクションはジンの想定の範囲内だったのだろう。

 笑顔のままのジンに速攻で論破されてしまいチヒロは肩を落としている。


 「あのさ……お前は一体本当は何しに来たんだ?興味本位だけで来た訳じゃないんだろう?」


 アラタが痺れを切らして声を荒げて質問をぶつける。

 この質問も想定の範囲内だったのか、ジンは余裕の態度を崩さなかった。


 「あはは、そうだね。あまりダラダラ話し続けるのも良くないだろうし単刀直入に言っちゃおうかな」


 突然気が変わったのか、今まで散々軽口を叩いて本題から逃げていたジンは、相変わらずの笑顔を浮かべながら爆弾を投下した。


 「あのさ、僕たち手を組まない?一緒にアキラ様を倒しちゃおうよ」


 「え?」

 「ええ?」

 「えええ!?」


 その場にいる者全員の予測の斜め上を行く言葉に、僕とチヒロとアラタが声にならない声を上げてしまった。


 「待て待て待て待て!君は鳳凰寺四天王の1人だろう?」

 「うん、そうだよー」


 はい、ちょっと待て。

 いくらなんでもそれは無いだろう。

 絶対に裏がある。

 そう思われなければ馬鹿としか言いようが無い。


 周囲の喧噪などお構い無しにマイペースを崩さないジンの前にずいっと立ちはだかった人物がいた。

 物凄い張り詰めた表情をした父ちゃんだ。


 「よし、この場の者を代表していくつか質問させてもらいたい」

 「はいよ、質問にはちゃんと答えようじゃないか」


 明らかに年上の父ちゃんが気迫を込めて質問を投げ掛けているが、ジンは余裕綽々だ。

 真顔の父ちゃんと笑顔のジンの対比がなかなか面白い事になっている。


 「1つ目はシンプルに……一体何故だ?」

 「まあそう来るよね。一言で言うと強すぎるアキラ様に一矢報いたいって所かな?関東大会でも負けちゃったしね。1回くらいアキラ様の負ける所が見たいって思うのが人心だと思うのですが」


 いや、確かにそうだとしても、ジンは鳳凰寺四天王の1人だ。

 言うならば完全に鳳凰寺アキラ側の懐刀だろうに。

 それがこんな発言をしている時点で裏切っているも当然なのだが。

 しかも無邪気な笑顔を振りまきながら。


 「君は鳳凰寺四天王だろう?アキラ君に恩義とかは無いのか?」

 「いやいや、当然恩義は感じてるよ!ちなみに四天王の1人っていう地位なんかにも不満はない。でも四天王にも色々あるんだよ。この前も、ふん、あいつは元々四天王の中で最弱、とかってキャラ作り全開のセリフ吐かされたし、少し疲れちゃったんだよね」

 「……わかった。それでは次の質問だが、手を組むと言っても具体的にはどうするんだ?」


 父ちゃんの指摘は僕も考えていたものだ。

 【マジカファイト】において手を組むっていう事は、デッキを組むためにアドバイスし合ったりする等の協力をし合う事がまず頭に浮かぶが……

 恐らくジンの言いたい事はそうじゃないんだろう。


 「まさか鳳凰寺アキラのデッキの内容を教えるとか?」

 「あはは、いくらなんでもそこまでは出来ないかな。さすがにそれは人の道を外れ過ぎって感じ」

 「じゃあ一体どんな感じなんだ?」

 

 父ちゃんの追及にのらりくらりとしながらも悪巧みをしている子供の様な表情をしているジン。


 「うん、僕のデッキはかなり万能でね、アキラ様のデッキの真似事くらいは出来る。僕と模擬ファイトを繰り返せば、アキラ様対策としてはかなり有効な物になるんじゃないかな」


 ……なるほど。

 ジンは鳳凰寺四天王だ。

 鳳凰寺アキラの手の内は知り尽くしているだろう。

 

 そのジンが鳳凰寺アキラのロールを引き受けて模擬ファイトを行えれば、相手のデッキの傾向は掴めるだろうし、願っても無い話だ。


 そこで父ちゃんが割って入ってきた。


 「最後の質問だ。それで勝算はどれくらいになる?」

 「そうだね。今が勝率0パーセントとして、20パーセントくらいにはなるんじゃない?」


 ……低いじゃないか。

 ていうかさっきも言われたけど、現状で勝率0パーセントの事実はつらいよ。


 対策を練ったとして勝率20パーセントもかなり低い。

 5回やれば4回負ける計算だ。


 「5回に1回か……まあ賭けとしてはそこまで悪くは無いのか?」


 店長がぼそっと呟いた。


 いやいやいやいや、5回に1回勝てるんじゃなくて5回やれば4回負けるんだよ?


 「まあ、それなら……」

 「うん、賭ける価値はあるかもね」

 「もうそれしか手段は無いかもな」


 おおっと!

 アラタもチヒロも田中さんも納得し始めた!


 あれ?

 これはもう決定しちゃう流れだな。


 「よし!わかった、提案を飲もうじゃないか!」


 きたー!父ちゃんが決めてしまった!


 「いやあ、納得してもらえて良かったよ!そうと決まれば早速模擬ファイトでもやるかい?僕はいつでも良いからねぇ」


 ジンがニコニコしながら懐からデッキを取り出した。


 まじか、さっきの今でもうファイトするのか?



 「まあ、とりあえずは僕の……【忍者デッキ】の恐ろしさを味わってもらおうかな」

 

 そう言いながらジンはさっきまでのニコニコ笑顔とはまた別の獰猛な肉食獣の様な笑みを浮かべた。

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