17.鳳凰寺グループの魔の手
タクマ編
「よし!これでとどめだ!」
手に持ったダガーナイフでモンスターにとどめを刺す。
今倒したのは【スライムマンサー】、今は【水晶の洞窟】の地下7階層、つまりボスフロアにいる。
この【水晶の洞窟】のボスとして君臨しているのが【スライムマンサー】だ。
ちなみにダンジョンのボスは倒しても1週間程度で勝手に復活するから定期的に退治しに行くのが一般的だそうだ。
あれから一カ月、今では僕は【水晶の洞窟】のボスフロア担当を任されるまでになっていた。
普段は【水晶の洞窟】の地下5~6階層を担当し、週に1度はこの地下7階層でボス退治、そして月に1度は地下8階層で【ゴールデンスライム】退治、こんな感じの業務を行っている。
ちなみに会社の業績は【ゴールデンスライム】の魔石の効果で、史上最高の売上額を記録している。
もちろん、今後に関しても大幅な利益増は確実視されており、それに伴った大規模な設備投資等も計画されている。
その功績が評価されたのと、【虹晶神の腕輪】の効果により僕の戦闘能力もどんどん上昇している事も相まって、今の役割を任されるに至ったという事だ。
ちなみにその分、給料もある程度は上げてもらった。
家族が喜んでくれて僕も嬉しかったなぁ。
「さて、ボスも倒したので1回会社に戻ろうか!」
「わかりました田中係長、早速帰還の準備をしますね」
この探索のペアが【スライムマンサー】の討伐報酬と【マジカ】を回収し、こちらに向かってきた。
今のダンジョン探索のペアはあの遭難事件の後、無事に主任から係長へと昇進する事が出来た田中係長だ。
ダンジョンナビゲーターを取り出し、会社に今から帰還する旨を連絡しようとしたその時、丁度一通のメールが入って来た。
「あれ、何だろう?会社から連絡が入ってますね……えーと、あれ!?田中係長、緊急事態につき大至急帰社せよ!との事です!」
「き、緊急事態だって!?一体何が起こったって言うんだ?」
何にせよ碌な事では無いんだろう。
僕と田中係長は急いで支度をして会社に戻る事にした……
……急いで会社に戻ると、田中係長と共に会議室に急いで入る様に言われる。
何だろう?あの恐怖の聴聞会を思い出す様で何か嫌だなぁ。
そんな事を考えながら会議室へ入室する。
そこには、大川原社長、香川専務、城田常務、そして井上部長がいた。
4人共に一様に険しい表情をして席についている。
「失礼します。田中と石動、只今帰社しました」
「……ああ、ご苦労様、とりあえず席に着きたまえ」
大川原社長に促され、席に着いた。
「来てもらったのは他でもない、君達が今探索してきた【水晶の洞窟】に関して相談事があるんだ」
大川原社長が神妙な面持ちで切り出す。
相談事って何だろう?……まあ、雰囲気的にあまり良い事では無いんだろうな。
「相談事とはなんでしょうか?」
「ああ、詳細は香川専務から説明してもらおうか」
「はい、それでは私から説明させて頂きます」
香川専務が大川原社長からバトンを引き継ぎ説明を始めた。
「実は【水晶の洞窟】は我が社が所有する前は別の企業の物だったんだ。その所有権を我が社が買い取ったんだが、最近になって買い戻したいと連絡が入ってるんだ」
「買戻しですか!?一体何故そんな事に!?」
「恐らくだが……最近の【ゴールデンスライム】や下手したら【レインボーゴッドスライム】の事まで嗅ぎ付けられた可能性が高い」
「内部情報がバレたという事ですか?まさか社内にスパイが!?」
「その可能性も否定出来ないな。現在調査中だ」
確かに【レインボーゴッドスライム】が出現するまでは【水晶の洞窟】は初心者用のダンジョンで、価値はそこまで高く無かった。
現在は【ゴールデンスライム】の狩り場としてとてつもない価値を持っている。
その情報がバレてしまえば数多くの企業が所有権を狙ってくるのは簡単に想像出来るだろう。
「しかし、我が社が【水晶の洞窟】を買い取ったのはそれこそ10年以上前の話では?今更そんな理屈は通らないでしょう」
「いや、それが契約書を見直すと買戻しが可能となる条項が巧妙に隠されていてな。そうそう無下に断る事も出来ない内容なんだ、しかも相手はかなりの大企業でな、どんな手段を使ってでも所有権を奪い取る算段の様だ」
田中係長の疑問に答える香川専務の表情はとても憎々し気だった。
上層部としてもかなり苦しい状況らしい。
「内容はわかりました。しかし、そんな内容であれば私達に出来る事も無い様な気がしますが、相談とは何でしょうか?」
「ああ、実は相手側から打診されているのは……【水晶の洞窟】の所有権を【マジカファイト】で決めようという内容なんだ」
「な、何ですって!?【マジカファイト】でですか?」
さすがに驚く田中係長。
それも当然だ。
そんな重要な企業間の決めごとをカードバトルで決めてしまおうなんて聞いた事が無い。
「そんなふざけた事を言ってくる会社とは一体どこなんですか?」
「相手の会社は【フェニックス重工】……鳳凰寺グループの傘下の会社だ」
「ほ、鳳凰寺グループってあの国内トップと言われる大財閥の?」
「ああ、相手はその豊富な資金力を使って様々な手段を圧力を掛けてきている、そして相手側からの平和的な提案として打診されたのが、【マジカファイト】という訳だ」
鳳凰寺グループとはとんだビッグネームが出てきたものだ。
そんな大財閥が相手という事を聞けば大川原社長達の厳しい表情も納得出来る。
「なるほど、そこで会社内でも最も【マジカ】に精通している私を呼んだという事ですね」
田中係長が意気揚々と胸を張る。
【マジカ】大好きな田中係長は会社の代表として既にやる気に溢れているんだろう。
「いや、それは違うな……」
「は、はあ……それでは一体……」
「私達としては、石動君の息子、ヤマト君に代表を頼めないかと考えているんだ」
「……はい?」
「いや、だから君の息子、石動ヤマト君に【花菱商事】の代表として【フェニックス重工】との【マジカファイト】に出てもらいたいんだ」
突然の香川専務の言葉に頭が真っ白になる。
何故、こんな所でヤマトの名前が出てくるんだ……
「あの……一体何故うちのヤマトの名前が……」
「我々も【マジカ】に関しては何の知識も無くってね。そこで徹底的に調べさせてもらったよ。すると君の息子のヤマト君に行き当たったんだ。最近この辺りで最も勢いのあるカードファイターとして有名だそうじゃないか」
そうなのか?全然知らなかった……
「でもうちのヤマトはまだ小学校6年生ですよ?少し荷が重たすぎるんじゃ……田中係長とかの方が適任なのでは?」
「田中係長の方も検討はさせてもらった!しかし申し訳無いが戦績等を調べた結果力不足と判断させてもらった!ヤマト君に関しては我が【花菱商事】が総力を挙げてサポートさせてもらう。必要なカードがあればこちらで用意する。頼む!我が社のピンチを救ってはくれないか!」
こんな展開なるなんて……
全く想像も出来なかったな。
ちなみに隣の田中係長は目の前で役不足の烙印を押されてしまい、放心状態になっている。
何だかとてつもなく可哀そうだな……
「あの……1度家族で相談させて頂けないでしょうか?」
「あ、ああもちろんだ!良く家族で話し合ってくると良い!」
突如として物凄い事に巻き込まれてしまった様な……
とにかくこれは自分の一存では決められない重大案件だ、1度家族全員で話し合おう。
ヤマトの奴なんて言うかなぁ……
そんな事を考えながら重たい足を引きずる様に自宅に向かったのであった。
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