12.伝説の始まり
タクマ編
今回で第一章完結となります。
聴聞会が終わった翌日、井上部長から処分無しと新担当を言い渡された後に、話があるとの事で城田常務の元へと向かった。
城田常務の部屋へ井上部長と共に入室すると、城田常務が待っていた。
「まあ座り給え」
「はい、失礼します」
井上常務と横並びにソファに腰掛ける。
「さて、もう聴聞会の結果は井上部長から聞いてもらったと思う。我が社としては石動君の処分は無しと結論付けた。君が起こした行動は問題だが今回の騒動で我が社が得た利益が大きすぎる。その点を考慮し君の処分は不問とさせてもらった」
城田常務が今回の決定事項の詳細を説明してくれた。
今回の自分が起こした行動はクビになってもおかしくないものだと自覚している。
結果的には会社に莫大な利益をもたらしたかもしれないが、自らの行動で周囲に多大な迷惑を掛けてしまったことは心の底から反省しているし、そのことを誇らしく思える程の図太さは僕には無かった。
「はい、私への処分を無しにして頂きありがとうございます。この御恩に報いるために今後とも業務に邁進させて頂きます」
「うむ、その調子でよろしく頼むよ」
城田常務に頭を下げて今後の決意を述べる。
この決意は偽りざる正真正銘の自分としての想いだ。
落ち着いた所で、井上部長が本題に入る。
「それでは城田常務、石動君と私に話というのは?」
「ああ、話というのは他でもない、石動君が出会ったという【レインボー・ゴッド・スライム】についてだ」
「はい、何でしょうか?」
「知っているとは思うが私も冒険者出身でね、数々のモンスターと出会ってきたがまだランクSSSとは出会ったことがないんだ。はっきり言って非常に興味がある、そこでだ……」
城田常務が真剣な眼差しでこちらを見つめている。
歴戦の勇士として名高い城田常務の眼差しは武士のそれと言っても過言では無い程の威圧感を誇っている。
正直言って直視しているだけで疲れてしまうレベルだ。
「そこで……何でしょうか?」
井上常務もプレッシャーに耐えきれないのかくぐもった様な声色で城田常務に質問をする。
「そこでだ……非常に言いにくいんだが……次回の地下8階層での探索に私も連れて行ってもらえないだろうか?」
「城田常務がですか!?」
「ああ、私をだ!頼む!一度で良いから【レインボー・ゴッド・スライム】とやらに会わしてはもらえんか!?この通りだ!」
机に手をつき頭を下げる城田常務。
「あの……それは私と城田常務がペアになって探索に向かうという事でしょうか?」
「……ああ、そうなるな」
いや、参ったな。
【レインボー・ゴッド・スライム】との約束では地下8階層は自分ともう1人の2人までしか立ち入りの許可をもらっていない。
……ということは城田常務とペアで探索に向かうことになる。
社内では伝説の冒険者と称えられている城田常務とペアを組むだなんて何とも恐れ多い話だ。
……本音を言うと遠慮したいんだけどな。
だが、目の前の城田常務は祈る様な目付きでこちらを見ている。
普段は剣豪の様なオーラを全身から発している城田常務が少年の様に目を輝かせているのだ。
これは……断れないなぁ……
隣をちらりと覗き見ると気まずそうな視線をこちらに送っている井上部長と目が合った。
井上部長は無言でこちらに了承する様に目配せでプレッシャーを掛けてきている。
かなり露骨な目配せだ。
まあ、それはそうだよなぁ……
井上部長にOKの意味合いを込めて頷いた後に城田常務の視線をじっと見つめる。
「……わかりました。こちらこそお願いします」
「……おお!有難う、石動君!恩に着るよ!」
OKの返事をもらい子供の様にはしゃぐ城田常務。
この人って本当にあの伝説の冒険者か?
そう思えるくらいに印象と違う姿を見せている。
「それでは次回の【水晶の洞窟】の地下8階層の探索は私と石動君のペアで挑む事に決定としよう!いやぁ、久しぶりの冒険者としての活動だ、腕が鳴るな!」
城田常務は肩をぐりぐりと回しながら張り切っている。
「それでは、具体的な探索の日程は後日擦り合わせをさせて頂くという事で大丈夫でしょうか?」
井上部長が場をまとめに掛かる。
「ああ、そうしようか。またこちらから日程の候補日を連絡するからそこで日時を決定しようか」
「はい、それではご連絡をお待ちしております」
「よし、楽しみにしてるよ。ああ、石動君、今回の件に関しては個人的にお礼をさせてもらいたい、何か私に力になれる事はあるかな?」
それは唐突な提案だった。
城田常務なりのお礼の印なんだろう。
「はい……それでは1つだけお願いしても良いでしょうか?」
「うむ、何だね。言ってみなさい」
「今回の探索で入手した【マジカ】に関しては全て私が引き取らせて頂きたいのです」
丁度良い機会だ。
処分が決まってもこれだけはお願いしようと心に決めていた事を告げる。
「【マジカ】?ああ、あの田中主任が興奮していたカードの事か」
「はい、あのカードだけは息子にどうしても渡したくて……」
「なるほどな。通常は冒険者がモンスターから入手したカードの権利はその冒険者に与えられるはず……だが、今回は事情が少し違うな」
ダンジョンで入手した【マジカ】の権利は入手した冒険者にある。
これはこの世界の不文律として誰もが知っている。
だが、今回は僕が【レインボー・ゴッド・スライム】を退治した訳ではなく、2つ目の願いによって【マジカ】を譲ってもらった。
しかもその【マジカ】はどれも希少でとてつもなく価値がある。
そんな【マジカ】を1冒険者にそのまま渡してくれるのか……
普通に考えればそんな馬鹿な企業は無い。
……それでもヤマトに【マジカ】を渡してやりたい。
このカードを渡せばヤマトは間違いなく喜ぶだろう。
そんな想いを込めて城田常務にお願いをしてみたのだ。
「むう……事情はわかった。それではその件は私の方で掛け合おう。しばし時間をくれるか?また追って連絡をするでな」
「はい……何卒よろしくお願いします!」
「うむ、それでは話はここまでだな。わざわざ来てもらってご苦労だった」
「はい、それでは失礼します!」
井上部長と2人で城田常務の部屋を後にする。
やれるだけの事はやった。
後は城田常務を信じて待とう。
その後は通常業務に戻り、いつも通りの日常を送る事になった。
「全く……お前には冷や冷やさせられっ放しだな」
井上部長が苦笑いを浮かべながら背中をポンと叩く。
思えば事件以降心配を掛けっ放しだ。
そう思うと本当に申し訳無く思えて来た。
「改めて今回の件は本当に申し訳ございませんでした!」
井上部長に対して深くお辞儀をし、改めて謝罪をする。
「やめろよ。一先ず処分が無かった事を喜ぼうや。これからもよろしく頼むぞ」
井上部長の言葉に泣きそうになりながら精一杯頷いた。
そして、城田常務と【水晶の洞窟】の探索日の調整行い、日程を決める事になった。
【レインボー・ゴッド・スライム】とは【虹晶神の腕輪】を通じてある程度の意思疎通は可能なので、城田常務から出されたいくつかの候補日の中から、地下8階層を探索しても良い日程を聞き出す形になる。
これは城田常務から候補日が提出され次第、僕の方で対応する事になった。
僕の方からの条件としてお願いさせてもらった【マジカ】の件は、仕事を終えて帰宅する直前に連絡が入りOKをもらう事が出来た。
やった!これでヤマトに【マジカ】を渡してやれる。
逸る心を抑えながら駆け足で帰宅した。
「ヤマト!今日は物凄いプレゼントがあるぞ!」
「な、何だい父ちゃん、そんなに息を切らして」
いつもと違うテンションで帰宅した僕に違和感を覚えながら期待感に溢れる表情で見つめるヤマト。
「これだよ、見ておくれ!」
「こ、これは!?」
……こうして石動 タクマから息子のヤマトへ【マジカ】が手渡された。
これが伝説の【スライムマスター 石動 ヤマト】の誕生の瞬間だった。
◆◆◆◆
タクマからヤマトへ【レインボー・ゴッド・スライム】の【マジカ】が手渡されている頃……
その【マジカ】をタクマへ譲渡した張本人、即ち【レインボー・ゴッド・スライム】は何かを感じ取っていた。
『うーん、まさか僕の他にももう何体か顕現しているね』
それは、【レインボー・ゴッド・スライム】と同格の強者の気配。
『参ったなぁ……てっきり僕が一番最初だと思ったんだけどなぁ……』
この世界に存在する8種の頂点。
あらゆるモンスターの中でも最強の8体の神と言われる存在。
同種の気配を感じ取った【レインボー・ゴッド・スライム】は険しい表情を崩さなかった。
『これは少しばかり……警戒すべきかもなぁ』
【レインボー・ゴッド・スライム】はダンジョンの奥深くから気配を感じる方向に視線を送る。
その視線の遥か先では……
大海を統べる深淵の支配者が。
広大な樹海を領域とする神獣が。
神域に座す光を纏いし守護神が。
世界各地で永い眠りから覚醒した神々が、それぞれの目的のために動き出そうとしていた。
第一部 完
第一章完結!
次回から第二章が始まります。
構成上あまりカードバトルが出てきませんでしたが、第二章からはバトルしまくる予定ですのでご期待ください!
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