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11.最後の願い

タクマ編

 聴聞会も終盤に差し掛かる頃、最後の証拠を提示すべく手を挙げていた。


 「ほう?これまで提示してくれた2つの証拠でも十分だとは思うが、それでは3つ目の証拠を提示してもらおうか?」

 「はい、それでは3つ目の証拠を提示させて頂きます、少し嵩張るので外に置いてあります。取って来るのでしばしお待ち頂けますか?」


 そう言いながら会議室の外に置いてあったある物を取りに行く。


 「お待たせしました。こちらが3つ目の証拠になります」


 わざわざ一度退室してまで持ってきたもの……

 それは会社から支給されているアイテムボックスだった。


 「それはアイテムボックスじゃないか。それがどうかしたのか?」

 「はい、提示したい証拠はこの中に収納されています」


 そう言いながらアイテムボックスを操作し、中に収納されているある物を取り出した。


 「私が、提示したい3つ目の証拠は……こちらになります」


 ……それは、金色に光る魔石だった。

 しかも取り出された金色の魔石は複数個ある。


 それを見て大川原社長を始めとする役員達全員の目の色が変わった。


 「そ、それは!?まさか【ゴールデンスライム】の魔石か!?」

 「はい、これは地下8階層にて私が退治した【ゴールデンスライム】の魔石です。今ここには全部で8個の魔石がございます」

 「は、8個だと!?」


 会議室の中は一層騒がしくなった。

 それだけ【ゴールデンスライム】の魔石が希少で、企業に莫大な利益をもたらすという事だろう。


 「【ゴールデンスライム】の魔石が8個もあればどれだけの利益になるんだ?」

 「普通は年に1、2個出れば良い方なんだろう?」

 「それが本当ならば間違いなく今までの売上記録を大幅に更新するぞ!?しかも桁違いにだ」


 ある程度は予想していたが、本当に蜂の巣を突いた様な騒ぎになってしまった……

 【ゴールデンスライム】の魔石は通常は取ろうと思っても取る事が出来ない。

 冒険者の中では【ゴールデンスライム】と遭遇するのは宝くじに当たった様なものだと言われているだけあり、1年に1度遭遇出来ればそれだけで強運の持ち主と言われるレベルだ。

 そんなものが目の前に8個ある。

 海千山千の役員達がこれだけ大騒ぎしている事からもそれがどれだけ異常な事態かわかるだろう。

 

 「香川専務、これが全て本物だった場合はどれだけ我が社に利益をもたらすのだろうか?」

 「はい、通常は【ゴールデンスライム】の魔石が入手出来た場合は、海外のメーカーに高値で売却しています。その売却益だけでも我が社の社員が総出で稼ぎ出す1年間の利益を越えてしまう程です。それも1個のみの場合の利益でです。それが8個も存在するとなると、海外メーカーへの売却益のみならず我が社の研究部門にも融通する事が可能となります。その場合は技術的に凄まじい進歩をもたらす事となり、それだけでも我が社にとって莫大な利益をもたらすのは間違いありません」


 香川専務が迷いなく早口で【ゴールデンスライム】の魔石の用途を述べている。

 やはりこの様な判断は香川専務の独壇場だ。

 さすがは我が社の頭脳部門のトップという所か。

 

 「それでは、城田常務はどう思う?」

 「はい、この魔石にも驚きましたが私が一番興味深いのは、石動君が装備している【虹晶神の腕輪】の方ですね。冒険者の立場で述べるとあんなに破格の性能を誇るアクセサリは見た事がありません。あれを装備可能な冒険者が我が社に所属している事こそ、多大なるメリットだと考えます」


 城田常務は、この【虹晶神の腕輪】の性能に特に着目している様だ。

 確かにこの腕輪があれば並みの冒険者など遥かに超越した活躍が期待出来るだろう。

 ましてやこの腕輪は僕にしか装備出来ない。

 この世界で唯一この腕輪を装備出来る冒険者……つまり僕を抱え込む事にメリットを見出しているのは、冒険者部門のトップの城田常務らしいと言えるだろう。


 「ううむ……そうか、今回の石動君の行動は結果的に我が社に大きな利益を生む事になるのは間違いないという事か」


 大川原社長が腕を組んで考え込んでいる。

 やはり3つ目の証拠を提示した瞬間完全に潮目が変わった様に思える。


 「石動君?」

 「はい?」

 「他に補足事項はあるかね?」


 ……来た。

 ここで、最後のダメ押しを使う。


 「はい、私が今回退治してきた【ゴールデンスライム】は【レインボー・ゴッド・スライム】の過剰な魔力から生み出された副産物の様なものらしいです。【レインボー・ゴッド・スライム】が言うには1週間もすれば何匹か勝手に湧いてくる、との事です」

 「何と!?【ゴールデンスライム】が定期的に出現する狩場があるというのか!?」

 「はい、私は【レインボー・ゴッド・スライム】と交渉した結果、1ヶ月に1度、決められた日時であれば

地下8階層で探索をする事を許可してくれると約束してくれました」

 「な、何だと!?それではこれからは毎月複数の【ゴールデンスライム】の魔石が入手出来るということか!?」

 「……地下8階層に入れるのは私を含めた2人のみ、という条件付きですが」

 「……なるほどなぁ。石動君を探索メンバーとして派遣すればほぼ間違いなく【ゴールデンスライム】の魔石が入手できるという訳だな。しかも毎月か……」


 これが【レインボー・ゴッド・スライム】への3つの願いの内の最後の願いの内容だった。


 【ゴールデンスライム】を定期的に狩る事が出来る権利が欲しい。


 やはり自分は会社員だ。

 自らの働きによって会社の利益を稼ぎ出し評価を受けたい。


 それを実現するための願い事を最後の願い事に持ってきてしまう辺り、自分のスケールの小ささが嫌になるが……


 それも自分か……と全く後悔はしていない。


 いきなり世界一の冒険者になるだとか大金持ちになるだとか……


 そんな大それた願い事は不思議と浮かばなかった。

 自分は愛する家族達とそれ相応の幸せを享受出来ればそれで満足なのだ。

 何でも願い事を叶えてくれると言えども、今の自分の生活がより良くなる様に使えば良い。


 小市民だと言われようがそれが自分の偽りのない本心であるから仕方ない。

 

 そんな事を考えていると大川原社長が口を開いた。


 「よし、わかった!これで聴聞会は終了とする!後は役員のみで話をするから井上部長以下3名は席を外してもらえるかね?」

 「はい、承知致しました。それでは失礼致します」


 井上部長、田中主任と共に会議室を出る。

 やるべき事は全てやった。

 後は大川原社長を含め役員達の判断となるだろう。

 

 後は残務処理をして早めに帰宅する事になった。


 聴聞会では神経を使いっ放しだったのでどっと疲れた。


 家に帰り愛する家族とゆっくりしよう。

 そう考えながら家路に着く。



 ……次の日、井上部長に呼び出され聴聞会の結果を告知された。


 処分無しと正式な正社員として【結晶の洞窟】の地下3階層及び地下8階層の担当に任命されたのだった。

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