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魔王は人間社会が新鮮な様です。



玄関ホールには屋敷の全使用人と騎士団のメンバーが勢揃いしていた。


初めて見る魔王に一同に息を呑む。



恐怖からと言うより、その美貌に息を呑んだのだろう。



「俺が魔王のリヒトだ。

堅苦しいのは嫌いだ。気を使うのは辞めてくれ。


エドワードから聞いてると思うが暫く世話になる。自分の事は自分でやれるから最低限の世話で充分だ。


それと、そのうち魔物と触れ合う事もあろう。

騎士団の者にも世話になる事もあろうから宜しくな。人間社会には疎い。迷惑かけるかも知れないがワザとじゃないから許してくれ。


他の人間は知らないが、この家に仕えてる者は俺の家族も同然だと思ってる。

エドワードとルナを、これからも支えてやってくれ。」



そう挨拶したと思ったらリヒトは父に視線を向けると


「仕立て屋を呼べ。俺とルナの服を仕立てるぞ。

欲しいならエドワードも仕立てれば良い。


せっかく、王城に行くなら正装ってやつを仕立てるか?俺は形には拘りたいのだ。」



さっきから、そんなに服が欲しいのか?と思ってしまうがリヒトなりの人間社会を楽しむ事に繋がるのかも知れない。


魔界でのリヒトは、同じ様な服しか着ていなかった。魔族に、オシャレを楽しむと言う概念が無いのかも知れない。


そう考えると、魔王城の衣装部屋にあった私用のドレスや服は、わざわざ用意した物だったのかも知れないと思うと、リヒトの優しさが伝わってくる。




そんなこんなで急遽、呼ばれた仕立て屋が慌ててやってきた。


リヒトは、今の王都の流行りなどを根掘り葉掘り聞いている。服に関係ない話まで質問しまくりで仕立て屋は苦笑いだ。


仕立て屋の話によれば、今の王都の流行りは貴族は第二王子の装いを真似た物を子息達は好み、令嬢達は、それに合わせる様なドレスを仕立てると言う事だった。


平民の流行りは手作りミサンガの様だった。

糸が飛ぶ様に売れて居ると言う話だった。


その話を聞いて私が


「ねぇ、リヒト。

流行りで作らない方が良いんじゃない?

第二王子と被るとか嫌でしょ?


私がデザイン考えても良いかしら?

皆と同じなんてリヒトも嫌でしょ?


魔王城の私の衣装を用意してくれた御礼よ。」



そう言うと、リヒトは嬉しそうに快諾する。

私は前世の記憶をフル活用して色んなパターンの衣装のラフ画を描いた。


正装から普段着まで、リヒトに似合いそうな物を描きまくるとリヒトは楽しそうに選び出す。


ついでに、自分が欲しい服も描いていく。

女性用のパンツファションが無いのだ。貴族女性にとって、必要にならない服でもある。

華やかなドレス以外は着ないのだ。家着と外着が少し違うくらいの差しかない。


運動したりなんてしないのだ。

乗馬でさえドレスで横乗り、そんな世の中なのだ。この際、前世の服のデザインをこの世界に生み出してしまおう。



「これは、とても斬新ですな。

本当に、これを着用する気ですか?

とても素敵だと思いますが、他の貴族達がなんて言うか…。」


仕立て屋の反応は想定内だ。

普通の反応だと思う。貴族にとって世間体や他人からの評価は、とても大事なのだ。

それを知ってるが故の発言だろう。



「そうね。噂の的になると思うわ。

でも、気にしないわ。私は私が着たいものを着ると決めたの。だから、このデザインを素敵に仕立ててくれると嬉しいわ。


コレとコレとコレ。

この3つのデザインは早急に仕上げて欲しいの。

お父様と私とリヒト、それぞれのデザインを一度に仕上げるのは大変だと思うけど、なるべくなら2、3日で仕上げて欲しいんだけど…。

頼めるかしら?」


そんな私の頼みに仕立て屋が難しい顔で考え始める。そして


「可能だと思いますが、その分の人件費を入れますと、お値段が跳ね上がりますが…。」


言いづらそうに、そう言う仕立て屋に報酬は弾むから気にせずに早く仕上げる事だけ考えてと伝えると仕立て屋に笑顔が戻る。


それから、それぞれのデザインに色や生地を指定しサイズを測った。一通り終わると仕立て屋は急いで仕上げますと足早に帰って行った。


「人間の世界は、種類が豊富だな。それに色もカラフルだ。

地上に来るのは二度目だが、一度目は庭に来ただけだった。他の人間と関わる事も無かったしな。


もっと、色んなものを見たいな。

案内して欲しいが、ルナは疲れたか?」



興味深々さが伝わる程の好奇心を抑えてまで私に気遣いを見せるリヒト。

本当は、今すぐにでも色んな場所を見たいくせにと思うとリヒトの優しさが伝わってくる。


「疲れてないわ。魔界でも、ゆっくりさせてもらったし身体が鈍ってるくらいよ。


そうねぇ〜、街に出るにしても外出は護衛も付けないとだし急には無理だと思うから後日にしましょう。今日は、隣の騎士団の敷地でも見にいく?


私も、あんまり立ち入らないんだけどね。

お父様に言えば大丈夫だと思うの。

騎士団の皆んなは平民ばかりで気楽に話せる人ばかりだと思うわ。貴族だと、そうもいかないけどね。それに、騎士団の皆んなも魔王に興味深々なんじゃ無い?


きっと皆んな歓迎してくれるわよ。」



私の提案にリヒトはノリノリだ。


「人間の実力も見たいしな。

剣術にも興味がある。俺は魔法ばかりだからな。

この機会に剣術も習得したいな。

剣とかカッコいいよな。」


やっぱり、魔王だけあって戦闘関連は好きなのだろう。少年の様に目が輝き出した。



父の許可を貰い騎士団の練習場へとやってきた。

騎士団の皆んなが湧き立つ。


1人の騎士が前に出てきて


「魔王様。お会いできて光栄です。

まさか、会える日が来るとは思って無かったので感激です!

良かったら、これから俺達と手合わせ願えませんか?」


そうリヒトに願い出る。


リヒトは嬉しそうにニヤリと笑い


「俺様と手合わせだ?死にたいのか?


なんてな。普通に戦ったら、うっかり殺しそうだからな。どの程度なのか、誰か模擬戦をしてみろ。どの程度、手加減して良いか分からん。」


そう冗談を言うリヒトだったが、一部の騎士達はビビリ出した。そんな中、2人の男が練習場の中央に対峙する様に移動した。


その内の1人が声を上げる。


「俺はレオ。そしてコイツはロン。

これから、模擬戦します。俺達、本気でぶつかるんで実力は、それを見て判断して下さい。


俺は魔王と戦ってみたい!

それで殺されるなら本望ですよ。」


そう宣言すると、対峙したロンと言う男と何やら話したあと剣を構えた。


すると、いつの間にか来ていた父が前に出る。

そして「開始」と宣言すると戦闘が始まった。


初めて、目の前で見る戦闘。

剣に魔力を纏わせる2人、剣を叩き付けながらも魔法も使い闘うという迫力ある光景に息を呑む。


これが、この世界の戦闘なのだと改めて思う。

そりゃ、武器が吹き飛ぶ事もあるだろうと思うのだ。


戦闘を観戦してた私の横には、いつの間にか2人の騎士が立っていて


「お嬢様、その節は申し訳ありませんでした!

まさか、飛んで行った武器が直撃するとは…。


ほんと、すいませんでした!!」


あっ、あの時の犯人って訳ね。と思ったが


「気にしないで、ポーションとヒーラーのお陰で無事だし。それより、2人の方がお父様から厳しく処罰されたとか聞いたけど、大丈夫だった?」


そう答えると2人は笑顔で、女神だ!と感激してしまう。そんな遣り取りを聞いてたリヒトが不機嫌な声で


「おいっ!オマエらルナになんかしたのか?

その話は聞いてないぞ。」


面倒な事になりそうなので、私は誤魔化しながらリヒトに模擬戦に集中する様に促す。


その時だ、「そこまで!」父が間に入り模擬戦が終わりを告げる。


レオがロンの顔面ギリギリの所で剣を止めていた。父が止めなかったら…。


それ程、2人は本気で戦っていたのだろう。



「なるほど。思ってたより人間もやる様だ。

で、あの二人は人間の中ではどの程度だ。

あれより強い奴もいるのか?その辺も詳しく知りたいもんだ。


それより人間は脆い。手当てしてやれ。」


その言葉に、父が指示を出し他の騎士がポーションを持って二人に駆け寄る。


「あの二人は、この国の平民の中では強い方です。しかし、貴族や他国を合わせれば中間と言う所ですね。


人間の中でも、戦闘で言えば私やルナも、精霊王と契約してるオアシークの国王、それと天使族の血を受け継ぐスーベニアの王族は人間離れしてると言っていいでしょうし、この国の王族や貴族も魔力量は多い。それにオアシーク国は精霊と契約する者が多い上位精霊と契約してれば、やはり強いでしょう。


スーベニアは、どちらかと言うと神聖力を持つ者が多い国。守りの結界や癒しのヒールの能力を持つ者が多いかも知れません。


国により、特化してる部分が違うので一律に比べるのは難しいかも知れません。


しかし、噂によるとスーベニアの王太子が大天使の血をより濃く受け継いだ様だと聞いてます。

歴代の王より優れて居るとか。


噂に過ぎませんが…。我が国の王族や貴族は無視も出来ない様ですね。


均衡が崩れないか不安の様です。」



そんな噂は聞いた事が無かったが、確かに小説の中でヒロインと結ばれるスーベニアの王子は、大天使ラファの生まれ変わりとなってた気がする。



ヒロインが何を隠そう大天使ラファと最初に交わった人間の女の魂を持つ者だからだ。

時を超えた絆の恋愛小説なのだから。


記憶が曖昧になりつつある今となっては、細部がボヤけて曖昧になってるがファンタジーな恋愛物語だったと思う。現実離れしてたからこそ、前世の私はハマった気がする。


そんな事を思っているとリヒトの楽しげな笑い声が聞こえてくる。


「いや〜、楽しみが増えたな。

スーベニア王国か。興味深いな。

精霊王は、争いを余り好まないからな。アイツと契約した者は強欲な者では無いだろ?

精霊王が契約を許すんだ。きっと良い奴だ。

力で奪うとかしない平和的な奴だと思うぜ。


破滅に向かう様な奴に精霊王は力を与えない。

それに比べてスーベニア王国は天使族の末裔の国だ。この国の事を本当に好意的に思ってるか疑問だよなぁ〜?


ラファの生まれ変わりなんて噂も気になる。

そのうち、遊びに行こうぜ。

やりたい事が増えてく楽しみって良いな。


よしっ!

俺は今、凄く機嫌が良いぞ。

誰か手合わせするかぁ?

手加減の加減は分かったぞ。


それに剣術はカッコいい。

俺は魔法は使わず、剣だけで闘うよ。

それがハンデだろ?

さっ、誰でもいいぞ。」



そんな魔王に向かい、騎士達はこぞって試合を申し出てコテンパンにされるのだった。





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