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魔王が動くみたいです。


翌日。

朝早くから父が魔王城へと押し掛けて来た。



まだ、寝巻きのままだった私は急いで着替え応接間の扉をノックした。


すると、父が勢い良く扉を開き


「待ってたぞ。元気にしてたか?

とりあえず、中に入って座りなさい。


それで………。」



矢継ぎ早に話す父が、私の知らない人に見えた。

こんなにも話す父を初めて見たかも知れない。


いつもクールで厳格な人だった。

近寄り難い雰囲気で、いつだって距離があったと言うのに今は別人だ。


私を気遣う優しい眼差しを向ける父。

少し驚いてしまう。



「そう言う訳なんだ。

ルナの気持ちが知りたい。

どんな決断をしようとルナの自由だ。

家の事は心配要らない。オマエは自分の幸せだけ考えなさい。」


驚きのあまり、話を半分以上は聞き逃した気がするが概ね昨日、リヒトが言ってた様な事だった。


私が魔界へ入った事が国王に知られたのだと言う。ハインズ家は、国王としては監視対象の様だ。


「お父様は、どうお考えなのでしょう?

私は、ずっと自分は貴族令嬢が皆そうする様に家の為に婚姻するのだと思ってました。


国にとって、ハインズ家にとって何が最善なのでしょうか?

代々、先祖達は国の為に王族の影として血の事を秘密にして来たのですよね?


私は、まだ政治的な事は分かりません。

ハインズ家の領地と王都の一部しか知らない。

お父様から見た、国はどうなのですか?


お父様が私を大切に育てたからこそ、私は外の世界を知らない。分からないんです。


どの様に決断したら良いのか迷ってます。」



そう答えると父は哀しい表情で



「ルナ。

私は、オマエの母が先立ってから必死だった。

先代が早くに亡くなって私は早くに当主となった。若いと言うだけで、他の貴族に舐められる訳にはいかないと馬鹿みたいに功績を上げる事に必死だったんだ。

それが、側から見たら国への忠誠心に見えたらしい。貴族からは一目置かれたが国王からは扱い易いと思われた。


オマエへの愛情は、オマエを閉じ込める事に繋がってしまった様だな。

ルナには綺麗な部分しか見せたくないなんて思ってしまってたんだ。すまない。


私が間違ってた様だ。

今からでも、間違いを正したい。


私はね、貴族でありハインズ家当主だ。

けれど、その前に父親なんだ。優先すべきは家族の幸せなんだ。

それは先代も先先代も一緒なんだ。


ハインズ家の歴代当主は皆、心から愛する者と婚姻しているんだ。家柄など関係なくね。


先代、オマエの祖父と祖母はオマエが幼い時に不幸な事故で亡くなってしまったから知らないだろけどな。


私が何も教えてやれなかったから、他の貴族と同様だと思ってしまったんだね。

ルナは、好きに生きていいんだよ。


ルナが、どう決断したとしても対処は出来るから。」



そう言って微笑む父。

こんなに穏やかな微笑みも初めて見た私は自分でも気付かぬうちに涙が溢れていた。


きっと、嬉しかったんだと思う。


いきなり泣くから父もリヒトも慌てる。

そんな二人が可笑しくて泣き笑いする私。



「泣いたり笑ったり忙しい奴だな。


ルナ。エドワードも好きに決めろって言ってるぞ。ちゃんと考えろ。


オマエは、どうしたいのか。」



リヒトが私を真っ直ぐに見つめる。

すると父も私を見据える。


「私は…。まだ結婚とか考えられないよ。

だって、まだ成人してもない。

確かに女は成人前に嫁ぐ事もあるけど…


私、もっと色んな世界を見たいと思う。

他の国も見てみたい。


それに、淑女教育より魔法や剣術、それに乗馬や弓なんかも習得したい。


魔界へ来て、街を見たりして魔族の人達が生き生き見えたの。とても羨ましいく思った。


私には、貴族の中で淑女として生きる事は死んでるのと一緒かも知れないわ。


心を無くしそうで怖い。」



思いの丈を吐き出すとスッキリした気がした。



「そうだな。

婚姻の話なんて、戸惑うのは当たり前だ。

ルナのタイミングでしたらいい。


今まで、ちゃんと話さなかったからこそルナの気持ちがしりたかったんだ。


他の令嬢達の様に王子に憧れたり王妃になる野望があったりするかも知れないと深読みしてしまってたんだ。


オマエの気持ちは分かった。

断る方向で魔王に動いてもらおう。」



父の言葉に私は思わず



「魔王に動いてもらう⁈

どう言う事?」


驚きで、つい大きな声が出てしまう。

するとリヒトが話し始めた。



「だから、ずっと言ってるだろ?

オマエの為なら何でもするって。


俺が国王に忠告しに行くって事だ。

自分の立場を弁えろってな。


ハインズ家は俺のもの。国王にも手は出せないってヤツだ。もう、エドワードの許可は出た。

いつでも地上に心置き無く行けるって訳。


今度は、俺が地上で過ごす番だ。

当分の間、ハインズ家に世話になるぞ。


楽しみだなぁ〜。精霊王にも会いに行こうかな?

地上の魔物達も、どんなもんだか見ないとな。

どの程度なのか実際に見ないとな。


何となくは把握してるが、結界のせいで繋がりが薄くてな。」



拍子抜けするほど、観光気分のリヒトに苦笑いだ。


て、事は私も帰るって事よね?と聞くと



「帰りたくないのか?」


そう心配そうな泣きそうな顔の父が聞いてくる。

帰りたくない訳じゃないと慌ててフォローする。



「ところで、魔界は魔王不在でも大丈夫なの?

暫く、ハインズ家に居るって言ったわよね?」


話を切り替える様に私がリヒトに訊ねると


「俺は、いつだって自由だ。

何か異変があれば地上に居ようと分かるしな。

それに結界のせいで毎日の様に魔界は平和だって言ったろ?物騒なのは地上だけだ。


まぁ〜、俺は物騒なのも嫌いじゃ無い。

争いなんて楽しいじゃねぇ〜か。


それに知性の無い魔物と触れ合うのも楽しみだ。

どれ程の力を秘めてるか間近で見たいしな。


で、さっそく行くか?

転移で何処にでも直ぐ行けるしな。

神の結界って言っても、その辺は曖昧な結界なんだよなぁ。神の意思が感じられるようだよ。


魔族を試したって感じかな?

規制や決まりなんて嫌いな奴が、大人しく魔界に篭ってるかって試されてる気がするぜ。


神は、もともと完全に次元を閉じるつもりが無いって事は確かなんだがな。」



完全に世界は分たれたと思っていたが、実は違うのだと思った。

結界だと思ってたものは、薄い膜の様なものなのだろうか?


それに門だった不完全だと言ってた。

地上から魔界に入るには魔王の血が必要だと言う事で、私達一族以外は扉を開かない。

けれど、魔王は転移で自由自在に移動出来ると言う。やはり、人間達が知らない真実が隠されてる気がするのだ。



「では、ハインズ家に参りましょうか。

こんな事を想定して魔王様の部屋は準備を整えてますので、ゆっくり寛げると思います。」



そう父が言うと、パチンと指を弾く魔王。

一瞬にしてハインズ家の庭園に移動していた。


「この庭に転移したのは二度目だな。

エドワードが小さい頃だったか、母の誕生日だからプレゼントに母の好きな花でいっぱいの庭園を見せてやりたいなんて俺に頼みに来たよな。


それで、この庭にカスミ草で埋め尽くしてやったな。それと、精霊王に頼んで小さい精霊達まで連れてきたっけ。


懐かしいなぁ〜。」



そんな私が生まれる前の父のエピソードを聞くと微笑ましくなる。

父にも、そんな幼少期があったのかと微笑むと父が慌てた様子で



「魔王様、そんな幼少期の話をされても…。

さっ!屋敷の中に入りましょう。


使用人達にも魔王様を紹介しなくてはなりませんし、魔王様の世話係を決めなくてはなりません。

魔王様が気にいる者を選んで下さい。」



そう言うと、玄関ホールへと促す。


「おい、エドワード。世話係とか要らないぞ。

自分の事は自分で出来る。

まぁ〜強いて言えば、俺の服を地上の流行りで用意して欲しいくらいだぞ。」



そんなリヒトに父は、そう言う訳にはいかないと言い張る。使用人を何としても付けようとしている。そんな二人の遣り取りが可笑しくて笑ってしまう。


すると、玄関ホールから走ってくるサーシャ。



「今の笑い声は、お嬢様ですねぇ〜。

会いたかったですぅ〜。」


そう叫びながら私に突進してくる。

私に抱き付く寸前でピタリと動きが止まる。

そのまま時が止まった様に動かなくなる。


「お嬢様ぁ〜。身体が動きません。何で??

助けて下さい〜い。」


するとリヒトが私の横に来て


「おいっ、オマエ。気安く俺様のルナに抱き着こうとするなっ!」


リヒトの仕業らしい。なんて大人気ないのかしらと呆れる。



「ねぇ、リヒト。

その子は私の護衛であり世話係のサーシャよ。

自由にしてあげてくれる?

幼い頃から私を大切にしてくれる存在なの。

家族みたいなものよ。だから、そういうのは辞めて。」



私の言葉でリヒトはシュンっとしてしまう。

自由になったサーシャが「魔王様でしたか!失礼しました。」と礼儀を正すが、リヒトはシュンとしていて聞こえてない様だった。


言い過ぎたかと



「リヒト。別に怒ってる訳じゃないの。

人間は、血が繋がって無くても家族の様な付き合いをする者もいるし、信頼する者同士で挨拶の様に抱き合ったり手の甲に口付けする事もあるわ。


いちいち、さっきみたいな事があると私が生活し辛くなるのよ。

それを分かって欲しかったの。

言い方がキツくなってたら御免なさい。」



その言葉にリヒトはバツが悪そうに言う。


「俺が大人気なかった。ルナが謝る事ない。」



そんなリヒトに、「この話はお終いっ。」と笑顔を向けて私達は、父が待つ玄関ホールへと歩き出した。








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