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魔王からの招待が来たようです。



ダイニングルームに入ると既に父が待っていて、テーブルの上には豪華な食事が並べられていた。



「元気そうで何よりだ。

ヒーラーを呼んだ甲斐はあった様だ。


とりあえず、席に着いて食べなさい。」



父の言葉を無言で受け取り席に着く。

「頂きます。」そう言って料理を口に運ぶと



「明日、魔王に謁見だ。

ドレスは既に用意してある。

今日は、いつもより念入りに身体を整えなさい。」



その言葉に私は困惑した。

何故なら魔王への謁見は成人してからと聞いていたからだ。



「お父様?

魔王様への謁見は成人してからでは?

私は、まだ15ですよ。」



私の戸惑いとは裏腹に父は淡々と説明する。



「それは建前だ。

魔王が会いたいと言えば、歳は関係ない。

この世界で唯一ハインズ家の当主と、その娘だけが魔界へ立ち入る事を許されている。光栄に思いなさい。


古から生きる聡明な御方だ。

その辺の男より信頼出来る方だから心配はいらない。そう嫌がるな。


会えば分かる。」



そう言い切られ、従うほかなかった。


それから無言の食事が続き、残りのワインを飲み干した父がグラスを置くと



「ルナ。

私はけしてオマエを家の道具だとは思っていない。


オマエの為だと思っている。

貴族として生まれ、ハインズ家に生まれたオマエにとって最善の道だと思っているんだ。


私は、オマエに幸せになって欲しいだけだ。」



それだけ言うと私の返答も聞かず席を立ち出て行ってしまう。

呆然としている私に執事長のビルが



「当主様は口下手なだけ。

本当に、お嬢様を愛されているのです。

分かり難いと思いますが、旦那様なりの愛情表現なのです。


昼間からワインをお召し上がりにならないと言えない程、照れていらっしゃるのです。」



分かり難いと言うか分からんわっ!とツッコミたくなる。


腑に落ちない顔をしているとサーシャが笑いながら



「ご当主様は、頑張ったと思いますよ。

私を専属メイドにしたのも、護衛に男を付けるのが嫌だからだし、女の私なら専属メイドとして四六時中いつでも護衛出来るからですし。


肌身離さず身に付けてるロケットのネックレスの中は、亡き奥様とルナ様の写真なんですよ。

昔、こっそり覗いた事があるんです。内緒ですよ。」



初耳だ。

父が、私を想ってるなんて思いもしなかった。


魔物討伐で忙しく家にいる時間も少ないし、居ても仲良く過ごすなんて皆無だったし…。


それが本当なら不器用過ぎだろと思ってしまう。



そんな事より魔王だ。

小説の中で、魔王は出て来ないはずだ。

スーベニア王国がメインなので大天使のラファは出てくるが魔王は始まりの神話で触れられる程度だ。魔王の名さえ不明だ。


分かる知識としては、魔王の血特有の黒髪で赤い瞳って事位だ。


そして、天界と魔界には寿命は存在しない。

永遠の命だと言う事だ。かと言って死なない訳では無い死に難いってだけだ。


心臓が止まれば魔王とて死ぬのだ。

しかし、その心臓を止められる程の強き者が早々に居る訳もない。


大天使さえ、数千年の戦いの中で互いに命を奪えずに居たのだから。



まだ先の話だと思っていた謁見が明日になったなんて心の準備が出来ない。


謁見で気に入られたら、私はどうなるのだろう?


父は心配するなと言ったけど、情報が無さすぎて不安にならない訳が無い。



急に暗くなる気分が顔に出たのかサーシャが、すかさず話し始めた。



「今日は、これからスペシャルケアですよ。

スペシャリストを呼んだので、と〜っても気持ちいい時間が待ってますよ。


大浴場にフルーツやスイーツも用意しますので楽しみにしてて下さいね。


それまで、まだ時間も有りますし当主様が用意したドレスを見ますか?


それとも明日の楽しみになさいます?」



ドレスを見ると明日の不安が増しそうなので却下だ。


「う〜ん。

書庫に行くわ。時間まで読書するから1人にしてくれる?」


そう言って書庫に向かった。

改めて、この国の事や他の国の事を調べたかった。


今迄の知識はあるが、所詮はカゴの中の鳥。箱入り娘の私は無知だった。


外の世界を、あまりにも知らない。

本当は、領地の外の暮らしも見てみたい。

他の領地を見てまわりたい。


我が領地は魔石で栄える街だ。

商人や職人が多く住む街でもある。


比較的、裕福な平民が多く貧民は存在しない。

とても平和な領地でもあった。

他の領地から我が家の騎士に志願する者が絶えない所を見ると貧民として暮らすより魔物と戦ってた方がマシな生活が出来るって事なんだろうと思う。


魔物の出現は多いと言っても騎士団が街を常に巡回し人々に害を為す事も少ない。


主に魔物が棲家にしているのは森の中でもあるので、森を集中的に監視していれば街に出没する事も避けられるからだ。


ほぼ、領地から出ない私は王都さえ王城以外はあまり知らない。


馬車から見える範囲でしか知らないのだ。

それは即ち、表向きの綺麗な所しか見ていないと言えるだろう。


貴族用の馬車が通る道は整備された綺麗な道しか通らないからだ。


だから街の裏側は分からないのだ。

光と闇があるなら、光しか見て居ないって事になる。


それが、この世界だと思っていた今迄の私。

けれど前世の記憶を思い出した私は、不自然な程に闇を知らない自分に疑問が生まれる。


余程の箱入り娘だったと今なら分かる。

父の愛を疑う余地は無くなった。


汚い世界を見せたく無い。

そんな想いが見え隠れする。


と、言う事は唯一、魔王を知る父が心配ないと言うのだ。私のイメージする怖い魔王とは違うのだろう。



そんな事を考えながら本棚を眺めながら歩いていると一冊の本が目に留まる。


とても古そうな本は帯にタイトルが書いて居ない真っ黒な本だった。


手に取ると表紙にはルイーゼと書いてあった。


本を開くと本ではなく日記の様だった。



そのまま本を手にソファーに座る。

そして、その日記を読み進めるのだった。




表紙のルイーゼとは、私の先祖の名前の様だ。


この家の娘に生まれたルイーゼは、成人を迎える18歳の誕生日に魔王と会った様だ。

その日から、この日記が始まる。


魔王との出会いから恋をし愛し愛された記録。


魔王は変わらぬ姿で、自分だけが老いる哀しみや先に先立つ哀しみで終わる日記。


魔族と人間の恋は悲恋でしかないのだろう。

幸せな日々の記録は前半だけだった。


日記から分かった事は、魔王の名はリヒト。


魔物から連想する恐怖の対象では無かった事。



けれど、あくまでルイーゼ主観だと言う事。

実際の魔王は、自分で感じたままに判断しなくてはならない。


人の好みなど千差万別だ。



日記を読み耽ってる間に、随分と時間が経過していた様だ。

サーシャが迎えに来たのだ。



「お嬢様。大浴場の用意が出来ました。

そのままお越し下さい。」



この屋敷の地下にある大浴場は、プールの様な広さだ。


豪華な造りは細部まで拘って造ったのだろうと思わせる。


マッサージ用の天蓋付きのベットが用意され

ソファーやテーブルまでセットされ、ちょっとしたリゾート気分だ。


そそくさと服を脱がされベットへと誘導される。

香油を混ぜた人肌により少し高い温度に温められたオイルを塗りたくられマッサージが始まる。



慣れた手つきのメイド達のマッサージは眠気を誘う。良い香りとマッサージの気持ち良さから眠りについてしまう。



どのくらいの時間が過ぎたのだろうか?

サーシャに揺り起こされ浴槽に浸かる。


冷たいレモンスカッシュを手渡され、水分補給をする。


炭酸が喉を通ると目が冴えてきた。



「お嬢様。髪を洗いますね。」


上を見上げ溜息を吐いて目を閉じた。

するとサーシャが髪を洗いながら


「そんな大きな溜息をして、どうしたのですか?

マッサージ、気持ち良かったでしょ?


これでも気分は晴れませんか?」


そう聞かれて、私は口を開く。



「まぁ〜ねぇ〜。

魔王に会うのは憂鬱だわ。

魔界なんて初めて行くのよ。

不安しかないわ。


魔族なんて生まれて初めて見るのよ。

不安がらない人なんて居ないでしょ。」



するとサーシャは髪の泡を流しながら私の頭を優しく撫でる。



「お嬢様。大丈夫ですよ。

当主様は危険な場所に何があっても、お嬢様を連れて行きません。

私は着いて行けませんが当主様が着いてます。

私より優れた護衛ですよ。」



そう言って笑う。



その日は部屋で軽く夕飯を取り早めに眠りにつく。起きて居ても、碌な想像が出来なかったからだ。










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