プロローグ
太古の昔。
この地は暗黒の世だった。
魔族と天使族が日々、戦いに明け暮れていた。
人間は、逃げ惑うばかりだった。
戦闘に巻き込まれて命の燈は寿命も全う出来ずに、一つ…また一つと消えていく。
永きに渡る戦いを傍観していた精霊王が、両者の間に立った。
『オマエ達は、お互いの正義の名の下に大地を壊すばかりだ。
しかし、人間だけが我らの大地に実りを成す。
この地は精霊の物でもある。
其方達の地は健やかなままに、我らの地は荒らすと言うのか?
このままでは、新たな生命が誕生しないばかりか育たぬ。
神も嘆いておられる。
人に新たな力を授けた様だ。
我は神に従い人間に力を貸すぞ。
神に選ばれし人の子に魔力と聖力がもたらされる。
其方達と同じ様に人間も戦える様になったと言う事。
このまま続けるのであれば、更に激化する戦いで、この地は荒れ果てるだろう。
さすれば、我ら精霊は消滅する事だろう。
そんな事を看過出来ると思うか?
神は、この地に結界で覆うだろう。
天界と魔界への門を創る。
其方達の出入りを制限する。
今後、この地への干渉は人間の許可無く行えないと思え。
これは神の御心。
其方達の個人的な争いは、他でやってくれ。』
神の御心と聞いた大天使は黙り込み、魔王は楽しそうに笑い出す。
「精霊王。この数千年、傍観者のオマエが急に出てきたと思ったら神の使いか?
俺は神の御心のままに魔物を総て居るだけなのに天使達が敵視するのが、そもそもの原因だろうが。喧嘩売ってんのは天使族だ。
この戦いが終わるなら、せいせいするしな。
もう天使族の姿を見ないで済むなら有難い。
結界でも門でも創りやがれ。
ただな。魔素は、この地に溢れる。
魔素がある限り、この地に魔物は生まれ続ける。
人間に対応出来るのか?
この地に生まれる魔物に知能は無い。
ただ暴れ回るだけの出来損ないだ。
俺達、魔族が管理しなくなりゃ魔物がどうなるか分からない。
それにだ。俺は俺の認めた人間でなけりゃ対話する気はねぇ〜ぞ。
精霊王。決めろ!
俺と唯一、関われる一族を。
人間の命は儚い。
俺達とは違うからな。
俺の血を分けた者のみだ。
神が選んだ人間の女を、一人選んで連れて来い。
それが、俺の唯一の条件だ。」
魔王は自分の言い分だけ話すと、その場を去った。
暫くの沈黙の後、大天使が口を開く。
「我らは神の使い。本来の責務を忘れ戦いに興じた…。
神の御心が人間に向いたと言うことか…。
我らは天界に帰る。
神から聖力さえ与えられたのだな人間は。
なぁ、精霊王。
何故、神は魔族なる野蛮な者を生み出したのだ。
私には理解出来んのだ。
何故、あんな不完全な人間に心を砕くのだ。」
その問いに精霊王は答えた。
「完璧な迄に整った其方達、天使族には分からぬ事なのかも知れないな。
劣る者から見た世界は、其方が見る世界とは違うのだ。
万物の目を持つ神には、全ての世界が見えてらっしゃるのだ。
其方も人間の娘と関わりを持てば良い。
魔王と同じく、子を成せ。
其方の血を分けた一族を見守る事で分かる事もあろう。」
精霊王の解答に、大天使は無言で頷き空へと羽ばたく。
その姿を見ながら精霊王は呟く。
『神よ。これで良いのか。
混血の人の子は、この地を、この世を変え。
どの様に変化していくのでしょう?。』
すると、空からオーロラの様な薄い七色の幕の様な結界が地上に張られた。
そして、天と地を繋ぐ門と魔界と地を繋ぐ大きな門が一瞬にして創られる。
天から降り注ぎ始めた雨がキラキラと輝きながら、地上を癒し修復していく。
永きに渡る戦いの痕跡が跡形も無くなっていき、そこに広がるのは美しい自然豊かな大地だった。
『神の御加護に感謝申し上げます。』
精霊王は、ひれ伏し神に感謝した。
それから、数千年の時が流れ。
この地は、神の加護に守られし国となった。
広大な大陸の地は、数千年の間に幾つかの国に分かれたが人同士の戦いの末に3つの国に区分された。
魔王の血を分けた一族が治める国、アドスピカ王国。
大天使の血を分けた一族が治める国、スーベニア王国。
精霊王と契約する一族が治める国、オアシーク王国。
その3つの国が絡み合い、自分の運命に翻弄されていく少女の物語。
最終的にスーベニア王国の王太子と結ばれるラブストーリーでもある。
そんな物語の世界に転生してしまった私は、主人公と同じ様に運命に翻弄されるのだ。
主人公目線の物語の内容は、モブの私には何の参考にもならん知識で、モブ視点から見た物語はモブには厳しい世界だった。
私視点の物語は、私が主人公。
せっかく転生したのだから新たな人生。
絶対に幸せになってやる!
今回の人生は後悔なく生きてやる!