6 魂の火葬場
暖炉の中でパチン、と火が弾けた。
「君は、この辺りの者ではなさそうだ。どこから来た?」
「あ、えっと、日本、です」
「そうか。それはまた、随分と遠くから来たものだ」
「え! 日本、知っているんですか!?」
ああなんだ、やっぱり撮影か何かなんじゃないか。期待してお爺さんを見れば、静かに首を振った。
ほのかな期待は、あっという間に弾けて消えた。
暖炉の火がパチンと弾ける。
そのタイミングの良さに、まるで暖炉の火の粉に笑われた様な気さえしてしまう。
「名前も知らぬ土地から来たからこそ、遠いと思ったのだよ。この世界、どこを探したってその様な名前は聞いた事がないよ」
「そんな……もしかしたらお爺さんが知らないだけかも……この近くに誰か住んではいませんか?ここがどんなに遠くても、人伝えに聞けば、もしかしたら」
「ふむ……ここには世界中から精霊が集まるんだよ、長いこと生きているが、そんな名前は聞いた事がない」
「そんな」
お爺さんがあっさりと頷くものだからてっきり、何かの手違いで近くの撮影所に迷い込んだドッキリだった、ってオチを想像した。
あっという間にその想像は粉々に、跡形もなく砕け散った。
「君からは不思議な匂いがする。言葉を交わせるのも不思議だ、精霊の様で、だがしかし人間そのものだ。貧弱そうであるのに、食い物に祈る余裕がある。本当に不思議だ。そうだなぁ、君は、何かに呼ばれたのかもしれないなぁ」
「呼ばれる、ですか?」
「ああ……もしくは君が呼んだか、だ」
呼ぶ、呼ばれる。
よくある様な言葉であるのに、ドキリと胸が痛んだ。あまりにも、心当たりがある。
お爺さんの瞳が、眉毛の隙間から真っ直ぐに富義を捉えた。全てが見透かされているような、そんな不思議な気持ちになる。
頭によぎる、親戚の声。幼少期の別れと、日々の疲労、悲壮、そこにはぼんやりとした『死』がいつでも憂鬱を纏って背後を陣取っている。
積極的な破滅は望んでいないのに、流れる滅亡には身を委ねて流れてしまいたくなる。
———僕だけが生き残ってごめんなさい。
小さな男の子が、部屋の隅で叫ぶ。
その声が、頭の中で騒いで泣き喚いている。
まるで、何かを呼ぶように。
何か。
それはまるで死を呼ぶ様に。呼ばれているから返事をする様に、耳の奥で、脳の奥でわんわんと叫ぶ。
「……ぁ、僕が、呼ぶ……?」
カラカラになった喉が、痛みと共になんとか音になって出る。
「……ここには様々な種族、様々な土地の者がくる。君が欲しい物がすぐに手に入るかはわからんが、ここに居る分には構わん。老いぼれにはいつでも人手が必要なんでな」
「ここに……?」
「無理とは言わん、君が良いだけ居たらいい」
ぽん、と肩に置かれた手からじわりと暖かさが体に染みていく。
ずっとずっと自分が欲しかった言葉が、乾き切った体に染み込み満たしていく。
瞼がジクジクと熱さを持っていく。痛みを伴う熱さに、涙がほろりとこぼれ落ちた。
「……ぅ、……っここで、ここに居たいです……ここにもう少し居させてもらって良いですかっ、……ぅぅ」
「ほっほ、いいさ、呼ぶものも呼ばれるものも、皆寄り添いあって生きている。魂が望むものを拒む理由はないさ。『ここ』では特に……そうであるべきだろう」