19 お泊まり
楽しい歓談も終わり、別れしなの優しいお言葉に泣きそうになり。
イーシャさんは、僕たちふたりの良きお姉さんとなってくれることでしょう。
「おふたりは家族なのですから、こういう場では女王扱いしないでくださいね」
しかと心得ました。
それはそれとして、この手渡された素敵なマジックバッグは。
「おみやげも持たせないなんて、女王失格でしょう」
……ありがとうございます。
いつとは確約できませんが、採れたての美味しい山の幸、必ずや持参いたします。
「フォリスさんがのんびりさんなのは分かりましたが、夫婦で足並みを揃えることも、ね」
……善処します。
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謁見、終了。
なんといいますか、思っていた以上にしんどくて、思っていた以上に楽しかったです。
シュレディーケさんが存分に甘えられる家族ができたことが、何よりなのです。
「あんなに楽しそうなご様子の女王様は久しぶりです」
「おふたりとも、本当にありがとうございます」
いえいえ、ルルナさん。
僕たちの方こそ、時間を忘れるくらい、
って、もうこんな時間ですか。
どうしましょう、シュレディーケさん。
お城に近いカミスさんのお宅にある『ゲートルーム』をお借りしましょうか。
それとも、城下町の宿屋にて一泊。
「お城にお泊まりしてもよろしいのですよ」
いや、ルルナさん、さすがにそれは……
「そうですね、新婚さんですものね」
いやいや、そういう事ではなく。
「そういう事って、どういう事をなさるのかしら」
えーと、助けてくださいっ、シュレディーケさんっ。
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折衷案、と言われましても……
なぜか、城下町にあるルルナさんのご実家にお泊まりすることに。
商店街から少し外れた閑静な場所にある、老舗の仕立て屋さん、ですね。
ルルナさんは早くにご両親を亡くされて、おじいさんとふたり暮らし。
腕の良い仕立て職人のおじいさんのお店は、城勤めのメイドさんたちの大のお気に入り。
店を訪れるメイドのお姉さんたちに可愛がられながら育ったルルナさん、
そして憧れの城勤めメイドに。
「孫はやらんぞ」
「もう、おじいちゃんったら」
開口一番先制口撃。
おじいさんのルルガンさん、頑固職人にして孫大好き、まさにおじいさんの鑑。
そういえば、城勤めの騎士さまたちの秘密のコンテスト"お嫁さんにしたいメイドさん"で、
トップを独走したそうですよ、ルルナさん。
ちなみに、アランさん情報です。
いずれにしても、こんなに魅力的な娘さんですし、おじいさんも気苦労が絶えないでしょう。
早くお眼鏡にかなう殿方が見つかると良いですね。
はて、ルルガンさんにご挨拶したシュレディーケさんが、お店の方へ連れていかれました。
何事でしょうか。
「駄目ですよ、フォリスさん」
「奥さまだって乙女なのです」
「乙女の秘密には、たとえ旦那さまでも無遠慮に踏み込み禁止、ですよ」
えーと、しかと心得ました。
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夕食は、ルルナさんが腕によりをかけたごちそう。
お城での晩餐、いわゆる宮廷料理ではなく、ルルナさんが小さい頃から頑張ってきた証しの、家庭料理の数々。
うめぇ!
「孫はやらんぞ」
……はい。
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客室のベッドにて、悶々としております。
おひとりさまで。
シュレディーケさんは、ルルナさんのお部屋にお泊まり。
あれが噂の女子会。
タイプは違いますが、とても仲良しなのです、おふたりは。
悶々としているのは、今回の旅での出来事や、これからの僕の在り方について。
なんと言いますか、僕は恵まれているな、と。
ちょっと前までは考えられないような方向に人生が転がっているのです。
あの森での独り身の狩人暮らしには、なんの不満もなかったのですが、
妻、友人、良き知り合い、
素晴らしい人たちの輪がどんどん広がっていくわけで。
で、悶々としちゃうのです。
僕は、今のままの僕で良いのかな。




