14 真相
『システマ』の『転送』で、エルサニア王都にあるモノカさんのお宅まで送ってもらいました。
正確には、モノカさんのお宅はミスキさん宅の広い敷地内に後から建てられた、いわゆるお隣さんなので、ミスキさん宅の『システマ』発着場からモノカさんのお宅へと歩いて行きました、ですね。
何はともあれモノカさん宅、初めておじゃまします、なのです。
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一階の大広間で、モノカさん宅のメイド長のフナエさんが煎れてくれた美味しいお茶をいただきながら、まずは皆さんに緊急救援のお礼を。
僕とシュレディーケさん、ふたり揃っての挨拶に、なぜか盛大な拍手が。
いえ、結婚の報告のご挨拶ってわけじゃなかったのですが。
まあ、それっぽい雰囲気を醸し出しながら挨拶しちゃった僕たちもアレなんですけど。
それにしても、この場には人が多すぎて、なんと言いますか僕としては結構しんどいのです。
それでも皆さんの笑顔を見ていると、今回の件について僕なりに考えてしまうわけで。
困った時はみんなで助け合い、というここにいる皆さんの総意、
それをただ受け入れるだけではなく、そのために僕自身も行動する覚悟、きちんと示さなきゃ。
でも、凄腕冒険者でも無双武術家でもない、普通の狩人の僕にできることって、なんだろう。
ってか、みんなから凄く注目されています。
本当、人が多すぎる。
この場を切り抜けるためにも、早く事態を収拾しないと。
あの3人の麻痺拘束を解く前に、まずは僕とシュレディーケさんから事の経緯をみんなに説明。
シュレディーケさんから語られた出自にまつわる詳しい事情は、僕も初めて知るものでした。
成人の儀の直前に突然、実は母国の王女だと告げられて、嫁ぎ先まで決められちゃっていたけど、お父さんが自由に生きなさいと外の世界へ送り出してくれたのですね。
ありがとうございます、お父さん。
うん、僕もお父さんと呼んでも良いですよね。
どうやらあの連中は、ツァイシェル姫さまとしてのシュレディーケさんを欲しているってこと。
正直、かなり迷惑。
ただ、あの3人がどこからの追手なのかで、今後の対応が変わる。
シュレディーケさんの故国、リグラルト王国なのか、
シュレディーケさんの嫁ぎ先(予定)だった国、タリシュネイア王国なのか。
いずれにしても、僕の妻をなんだと思ってるんだよ、全く。
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あの3人のリーダーっぽい男だけ、麻痺拘束を解きました。
尋問しましたが、何も語らず。
なんだか、この人の覚悟を決めた態度、やましいところがある悪党って感じがしませんね。
もちろん、僕たちの仲間は、拷問なんてしませんよ。
サイリさんの凄い『鑑定』の前では、隠し事は不可能なのです。
男の名前は、グリオル。
出身は、タリシュネイア王国。
身分は、近衛騎士。
種族はなんと、ヴァンパイア 。
諸々バレていることを告げられると、男は観念したように話し始めました。
現在、タリシュネイア王国は、王国なのに王族が不在。
国の舵取りは、貴族さま方が合議で決定。
つまり、国での貴族さまの権力がとてもデカい。
そのうちのひとりのお偉い貴族さまに突然、近衛騎士の実力者3人が呼び出された。
『ちょっとエルサニアまで行って、俺の許嫁を連れてきて』
『姫さまを貰えるってリグラルト王家と約束していたし、ようやく居場所が分かったからすぐ保護しなきゃ』
なんでも、ずっと行方不明だった許嫁ことシュレディーケさんがエルサニアにいることが、冒険者ギルドの登録情報からバレちゃったそうで。
で、3人は身分を偽ってエルサニアに潜入し、『人探し』の得意な固有スキル持ちの騎士さんの案内で僕たちにたどり着いた、と。
なるほど、事情は分かりました。
でもそれって、騎士さんたちも、ある意味被害者なのかも。
タリシュネイア王国は、大陸中央に位置する魔族領にあるヴァンパイアの国。
ヴァンパイアといえば"吸血"で有名なのですが、タリシュネイア王国では"吸血"に関しては伝統的にして厳格なルールがあるのだとか。
『生涯を共にする伴侶以外からの"吸血"行為は許されない』
タリシュネイア建国以前は、ヴァンパイアの皆さんはかなり好き放題に"吸血"しちゃっていて、それが大昔の人族と魔族との大戦の原因の一環ともなってしまったのだとか。
で、無分別な"吸血"行為は恥ずべきものという良識派(?)のヴァンパイアたちが興した国がタリシュネイア。
現在は、いまだに誰彼構わず"吸血"しちゃってるヴァンパイアは、"恥ずべきノラヴァンパイア"と軽蔑敵視されていて、タリシュネイアにおいても粛清対象となっているそうです。
えーとどうやら、シュレディーケさんをお嫁さんにしようとしたヴァンパイアのお偉いさんの狙いは、婚姻での"吸血"目当て、みたいです。
なんか、凄く嫌すぎる。
シュレディーケさんがぎゅっと手を握ってきたので、優しく握り返してあげました。
シュレディーケさんの故国リグラルト王国は、勢力拡大のために王家の子女と各国のお偉いさんとの婚姻を積極的に執り行っていたそうです、以前は。
その婚姻頼みの闇雲な拡大方針のせいで、大国だったリグラルト王国は権力争いの揉め事ざんまい。
結局、度重なる内紛のせいで王家はチカラを失って、今では実権を持たない名ばかりの王家となっているそうです。
それなら、ツァイシェル姫さまことシュレディーケさんの幼い頃の許嫁の約束は、リグラルト王家がワヤになって、無かったことにならなかったのかな。
そして突然、男の口からとんでもない情報が!
なんと、シュレディーケさんのお母さまは、ツァイシャ女王様の遠縁。
自身の出自にまつわる衝撃の事実に、シュレディーケさんもとても驚いております。
そして、まさにそれこそが今回の件の真の原因でした。
高貴な血統の"血"は、ヴァンパイアとしての"格"を上げるための何よりも重要な源となる、と。
ツァイシェル姫さまの"血統"は、ヴァンパイアとしての"格"を爆上げさせるまたとない"供物"なのだそうです。
つまり、お貴族さまのリグラルト王家との約束うんぬんは、最初からシュレディーケさんの"血"が目当てだった、と。
うへぇ、嫌すぎるにも程があるでしょ。
"血"を目当てに結婚を迫るタリシュネイアのヴァンパイアのお偉いさんも、勢力拡大のために身内を差し出したリグラルトの王族も、頭おかしいんじゃないの。




