表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/66

見敵必戦!!!

 エナメル材質の外見を裏切らず、内部もエナメルだった。

 提督は久しぶりにエナメル材質追放運動の開始を宣言し、その近未来ディテールを木造帆船の船内に改造しながら、司令室へ進む。

 武器ポッドが火薬樽に、壁面巨大ディスプレイが水夫の落書きだらけの壁に、そして反射材の照明器具は小さな牢屋みたいな鉄製のランプになった。


「あんた、ブレないな」と、ユウキ。


「戦意が高揚するだろう?」


 提督は笑う。


 フレデリクのルイス機関銃が連射される。

 木片が飛び散り、ロボット兵が机の後ろで倒れた。


 ベルトを首にかけて、機関銃を肩でためて、撃ちまくり、装甲で防がれて倒れたロボットにはそのフェイスシールドにゼロ距離で弾が貫通するまで撃ち込む。


 お互い、遮蔽物が木材なので、とにかく爪楊枝みたいな木片が飛びまくった。


「次のエリア。一個分隊がいますよ」


 そのエリアへ通じる扉はガラス窓の類がない木造の両開き。


 提督はホーランド・アンド・ホーランドの二連式猟銃を手に扉の横に待機する。

 アフリカで象を撃つための特注銃で、銃床に象の真鍮細工が埋め込まれている。


 反対側ではユウキがリス親子の絶望ハンドガン工房製のリヴォルヴァーを構え、フレデリクは扉の正面に立ち、機関銃を腰だめに構える。


 古風なブロンズのドアフックがキイと音を立てて、動くと、フレデリクは扉ごとロボット兵を吹っ飛ばす。

 二体のロボットがコマみたいにくるくるまわりながら、防弾素材をまき散らし、バタバタ倒れる。


 フレデリクの弾が切れると同時に、今度は提督とユウキがそれぞれの銃を弾が切れるまでぶっ放す。


 がんばれー、とヴィクトリアが応援する。


 すぐに敵の反撃が幾筋もの破壊光線となってドア枠をもぎ取り、提督とユウキが慌てて伏せる。


「思ったより激しいな」


「少しは役に立て、AI」


「わたしが敵を察知したんですけどー」


 ごろんごろんと重い音がして、火薬樽が転がりながら、隣のフロアへ飛び込んだ。


 こぼれた黒い粉が白くまばゆい炎となってサアサアと鳴りながら、火薬樽を追いかけ――。


 ボン!


 衝撃波付きの白煙が壁をぶち抜き、ヴィクトリアが危うく撃墜されかける。


「ちょっと! そういうことするならするって言ってくださいよ!」


 提督たちは伏せたままの状態でお互いを見た。


「このなかで地面に伏せたまま、推定百ポンドの重さの火薬樽を転がせるものがいたら、挙手したまえ」


「おれじゃないぞ」


「わたしでもございません。旦那さま」


 立ち上がり、埃を払いながら、来た道を見る。


「やあ」


 パトリオパッツィがいた。


「外の哨戒が暇だから来てしまったよ」


「哨戒地点を許可なく離れると軍法会議だが、先ほどの活躍と差し引いてなかったことにしてあげよう」


「あんた、どうやってここが分かった?」


「入って、木造になった道を追ったら、簡単に追いつけたよ」


     ――†――†――†――


 司令室の位置をヴィクトリアが突き止めると、提督はドアを見つけるよりも、壁をぶち抜いたほうがいいと言って、三十二ポンド砲をぶっ放して、壁を次々吹っ飛ばした。


 その砲弾の勢いが死んで、床に転がったところが司令室だった。


 船尾楼の大きなガラス窓があり、サーベルを下げた帽子掛け、こげ茶色の地球儀、そして艦隊司令官の部屋には欠かせないブランデーを入れたデキャンタが海図を乗せたテーブルの上にある。


「ユウキ――」


 シンがテーブルに手を添えて、静かに立っていた。


 エゴ。

 お互いのそれはこの数か月で大きく変わった。


 ユウキには言いたいことがあった。

 何より、まず、兄さんと呼びたかった。


 が――。


「ディネガランド艦隊司令官、大英帝国海軍中将アンドリュー・ホクスティム三世です。司令官とお見受けします。あなたの戦いは見事でした。勝負は時の運と言います。既に貴殿の祖国に対する献身と勇気は十二分に示されました。武器を携行し、紳士としての投降を提示します」


 と、ユウキの兄さんと呼ぶ出鼻をくじいてしまった。


 提督はユウキのほうを向き、いやあ、一度言ってみたかったのだ、降伏勧告、と嬉しそうに片目をつむる。


 ユウキにとって、いま、このときほどエゴの命ずるままに提督をメチャクチャにひっぱたいてやりたいと思うときはなかっただろう。


 シンはポカンとしているが、さあさあはやくと提督は背中を押す。


 文句のひとつも言ってやりたいが、ドカン!と洒落にならない音がして、要塞は洒落にならない角度に傾き始めている。


 安全圏まで逃げたら、ひと言いってやる。


 帰りは簡単だった。

 木造の道をたどれば、よい。


 要塞の損傷部分からつるりとしたエナメルが広がる外殻へと昇る。


「おい」と、ユウキ。


「うん?」と、提督。


「空気読め」


「ああ、なるほど。なに、わたしに気を遣うことはない。憧れの兄さんの胸元に飛び込んで、大声で泣きたまえ。泣くべきときに涙を流すことは何の恥でもない」


「な、泣くとは言っていない!」


「泣いてくれないのかい?」と、シン。


「は!? シ、シン。それは――ッ!」


 ぼう、と提督の腕がちぎれた。


「――え」


 パトリオパッツィが身をめぐらせて、ハッチにいたロボット兵の上半分を吹き飛ばす。


 右腕が肩の生え際から完全にちぎれ、電磁弾の熱で焦げた傷から血が噴き出している。


 提督のかわりに叫ぶように要塞全体が自重に負けて、軋みを上げた。

 表面の防御装甲が引き裂かれ、提督だけが装甲とともに落ちていく。


 ユウキは跳んだ。


 手を伸ばした。


 要塞の破片が上げる炎に突っ込んだが、それでも追い続けた。

 だが、二度目の炎でユニットの自動回避システムが、ユウキの意思に反して働いて、飛行ユニットはユウキを空へと持ち去っていく。


 ユウキは叫んだ。


 提督は海へと落ちていった。


     ――†――†――†――


 みなが探した。

 海の上を、何日も、何日も。

 だが、見つかったのは提督がいつもかぶっている白い制帽だけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ