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見敵必戦!!

 セント・ヴィンセントが前甲板をメラメラと燃やしながら主砲を一斉に撃ち放ち、その弾をくぐるようにユウキが飛ぶ。

 追尾兵器がひとつ、推進機を徹甲弾に引っかけて、宙をまわりながら爆発した。


 ヴィクトリアの誘導装置に援護されたユウキの射撃が飛行兵のユニットを粉々に砕き、テラリア兵が燃えながら、落ちる。


 キヅキがわざと飛行兵三体を引きつけ、後ろに食いつかせながら、銃撃をかわしている。


 目の前のキヅキに夢中になった飛行兵たちが粒子状斬撃で血煙となって消える。

 リアムが飛び過ぎて、宙に浮かぶ赤い雲がバラバラに掻き消える。


「AI!」


「はい! 残存兵力の予想値は63.9%!」


 かなり墜としたと思っていたが、まだ多い。


 視界の東を覆う空中要塞。

 黒煙をいくつも立ち昇らせ、裂けた装甲から兵器が燃え上がる。 

 提督の艦隊のうち、もはや砲撃不能となった艦が三隻、突き刺さっている。


 軍艦が要塞の攻撃を引き受け、ユウキたち機動部隊が敵の機動部隊を攻撃。


 消耗したほうが負けだ。


 目の前を燃え上がる駆逐艦が通り過ぎ、飛行兵の発着場となっている塔を目がけて突っ込んでいく。

 ブリッジ、火砲、救命ボートなど全ての艦上構造物を燃やしながら、既に停止した機関をあてにせず、ただ慣性だけで走る。


 何発か赤く塗った喫水下の赤い装甲をぶち抜かれたが、勢いが勝った。

 艦首が塔にぶつかり、金属が悲鳴を上げてねじれ、裂け、全ての発着口から火のついた重油が噴き出した。

 なかの飛行兵の運命は考えずとも分かる。


 見れば、艦隊の半分が燃え上がり、要塞へと突っ込んでいる。


「なんと言う時代遅れ!」


 提督は首をふっていることだろう。

 全艦船が敵目がけて突っ込むの衝角戦術と言うのだが、提督の時代でも時代遅れとされた戦法だ。

 軍艦は敵に対して、横を向いて、全火力を効率的に敵に当てる。

 このようにぶつかりに行くのはカリブの海賊の時代、フランシス・ドレイクの時代の戦法だ。


 そして、敵艦隊に突っ込んだら、そこからは白兵戦であり、敵兵を全て倒して、船を乗っ取るのだ。


 ただ、今回はこの戦法もそう悪いものでもないのかもしれない。


 足の遅い前弩級戦艦たちは途中で撃墜されているが、巡洋戦艦や巡洋艦、駆逐艦はかなりの距離を稼いでいた。

 全てが体当たりを成功させられるわけではないが、パトリオパッツィがマリオネットの操縦装置型ハッキングツールで飛行兵やドローンたちの動きを乗っ取って、体当たり艦の進行ルートにわざわざ移動させる。

 動きを取り戻そうともがきながら、巨大な質量の鋼鉄に潰されるテラリア兵をパトリオパッツィは〈スコア〉と呼んだ。


 ユウキも、敵の攻撃を避けるのに軍艦を盾にし、またその黒煙に姿を隠し、奇襲からの斬り捨てもできる。


 時代遅れの衝角戦術は最新鋭の機動部隊を支援し、それなりの効果を上げていた。


 レーザーを食らったオライオンがL字に曲がったまま、要塞表面を薙ぎ払い、ハーキュリーズは要塞まであと二千メートルの位置で真っ二つに吹き飛び墜落した。セント・ヴィンセントはまだ炎上しながら主砲を撃ち続けていた。


 駆逐艦の一団が要塞の真上を飛ぶことに成功すると、砲弾や魚雷を落とすだけ落としてから、最後に自分たちが落ちていった。


「AI」


「味方旗艦は船尾主砲を破損。それ以外に目立った損傷はありません!」


 25ノットで走る旗艦クイーン・エリザベスのまわりには重油のみの超弩級航速戦艦と巡洋戦艦が数隻後ろについて、主砲を撃ち続けている。

 レーザー兵器に対するシールドを中佐が張っているらしく、白い翼が旗艦の煙突に寄り添うように飛んでいる。


 空と海のあいだにはただ鉄と火だけが存在する。

 空を飛ぶ軍神たち。

 船は燃え、要塞は燃え、人も機械も燃えていく。


 そして、提督は女神の手に口づける。

 

     ――†――†――†――


 ついにセント・ヴィンセントの砲塔が沈黙した。

 機関も止まり、ゆっくりと海へと落ちていく。


 晴れた青空は炎の色を映す黒煙に塞がれていたが、煙は東に流れ、西に少し傾いた午後三時の太陽は空中要塞のエナメル質の装甲を滑り落ちている。


「AI」


「はい。残存兵力は――0.033%。ほぼ壊滅です」


 巡洋戦艦が墓標のように立ち、敵兵装は沈黙。

 飛行兵も全て撃墜。


 ただ、艦隊も旗艦を残して全滅。


 火災は消火されたようだが、砲弾はもう一発しか残っていなかった。


「これで終わりか」


 ――終わってはいないぞ、カレイジャス!


 提督の通信が入る。


「おれたちは要塞を破壊した。もう数時間したら、海に落ちる」


 ――カレイジャス、カレイジャス。大切なことを忘れている。


「なんだ?」


 ――敵司令官の生け捕りだ!


「……馬鹿を言うな。もう要塞は――第一、もう生きていないかもしれない」


 ――リトル・レディは0.033%がまだ生きていると言っている。


「墜落に巻き込まれるぞ」


 ――もう遅い。全機動部隊員へ旗艦クイーン・エリザベスより通信。これより旗艦は敵旗艦へ衝突す。


 イギリスの歳入の十分の一くらい食べてしまいそうな高級な高速戦艦クイーン・エリザベスは本当に要塞へと四十五度の角度で突っ込んだ。

 メリメリと素材が穴を開け、錨鎖装置が壊れて、ジャラジャラと音を立てて、エナメルの表面を流れていく。


「機動部隊は空中を哨戒し警戒を続けるように」


 斜め四十五度の甲板をロープで降りながら、フレデリクの持つローソク電話型通信装置で発信する。


「そして、カレイジャス。リトル・レディを連れて、わたしとついてきたまえ。きみの兄を救出に行くぞ」

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