出港!
提督は質量保存の法則を屁とも思わずに、一度に三百隻を宙に生み出して、それが一度に海面に落ちた。
ディネガランドはかなりの危険水準の横揺れを食らったし、艦隊自体も木の葉みたいにぐるぐるまわった。
「このくらいで驚いてはいけない。インド洋を巡洋艦で渡ったときは山みたいな波に放り上げられて、くるっと縦に回転してから、波と波のあいだの底に叩きつけられたことがある。あれは分のよくないギャンブルだった
ディネガ艦隊は全部で三百隻。
浮かべてみると壮観だった。
旗艦はクイーン・エリザベス。
提督はチャーチルを嫌いぬいていたが、建艦については生まれついたセンスのようなものがあることは認めていた。
戦艦並みの火力と防御力、巡洋戦艦並みの航速を追求するために、ボイラーを重油と石炭の両方ではなく、重油にのみ絞ったのはチャーチルの発案だ。
ただ、三百隻集めたせいでドレッドノート以前の軍艦も多いし、これが航行するとなれば、スピードは一番足の遅い艦に合わせることになる。
「そんなことは大したことではない。何か解決法がココナッツみたいに浮いて流れてくるさ」
「これ全部で戦うのか?」
「仲間外れはいない。見敵必戦するときはみんなで一緒に見敵必戦だ」
クイーン・エリザベスのブリッジからディネガランドを見ると、艦隊を見ようとして、あらゆる階層に住民が集まっていた。
「彼らの生死は我々の活躍いかんにかかっている。だが、司令官がわたしなのであれば、輝かしい勝利は目前だ」
と、言いながら、シガレットケースを取り出したが、すぐに思い直してやめる。
「これは縁起が悪い」
「おれと同じ名前の戦艦だな」
「そうなのだ。この世の喫みおさめと思ったが、こう生きている以上、煙草はやめてパイプにしよう」
「禁煙はしないのか?」
「しない」
提督はディネガランドに敬礼した。
「こんなこときくのは野暮かもしれないが――」
「とっくに決心はついている」
「ふむ」
「テラリアからは追われた。おれたちはいま、ディネガランドで生活している。生活拠点を破壊されれば、こちらの生存率は大きく落ちる。なら、迎撃するまでだ」
「相手はきみの兄だが」
「……兄じゃない。ロットが同じだっただけだ」
「カレイジャス。きみは嘘をつくのが、とても下手だなぁ」
「うるさい」
「まあ、海軍の魔法に期待したまえ。なんとしても、兄君の投降を成功させてみせよう」
「……」
しかし、と提督はディネガランドをふり返る。
「守るべきものたちをこうして一望してから出航できるのは本当に幸運だな。何が何だか分からないうちに泥のなかで死ぬよりはずっといい。すべからく戦いはこうあるべし。こうあるべし、だよ、カレイジャス!」




