公演と人型
アドミラル劇場は初演記念で無料なので、暇しているディネガたちが大勢やってきた。
演目はカータの剣舞、中佐の何故か神々しくて涙が出る歌、パトリオパッツィの喜劇という名の悪夢。
さらに他のディネガたちの様々な劇や芸当があり、その半分が空気より軽いガスを爆破するものだった。
ガス爆発は海軍にとっては悪夢だった。
何かの拍子に揮発性ガスが艦内に満ちたら、それだけで終わりだし、爆発すれば船は文字通りバラバラになる。
これは軍艦に限った話ではないが、外からの衝撃に強いものは内側からの衝撃に驚くほど脆い。
だから、舞台で爆発が起きるたびに――もちろん無害で配慮された爆発なのだが――提督が澄ました表情のまま、ぴょこんと椅子の上で飛び跳ねた。
カータの剣舞は見事なもので、楽曲も本人が選んだもので躍動感があった。
ディネガたちは自分たちの住む場所にこんな芸当をもつものがいることを新たな発見として喜んでいるようだったが、ディネガたちはそれ以上にヒト型ディネガになることに驚いていた。
劇場を全てのディネガの形に合わせるのは不可能だし、海軍の魔法でできないこともないだろうが、ひどく時間がかかって面倒で開演前には終わらないので、やってくる客全員に例のヒト化トニックを飲むことを強制した。
その結果――、
「目がふたつしかないってのはこんなに不便なんだな」
「腕が二本ついてるのはこんなに便利なのか。脚が百本あるよりずっといい」
「念力が使えないのは不便だ」
「二足歩行は進化の失敗だな。腰が痛いや。なんで、みんな四足歩行しないんだ?」
――こんな具合である。
フラミンゴみたいなディネガが殺人コルセットで腰を細めるだけ細めたフランスの侯爵夫人になり、丸まったディネガはギリシャの太った海運王に、ランツクネヒト型ディネガは恐ろしく背が高いノルウェーの王族に、百の目を持つ鳥ディネガはアメリカの銀行家、翼のある飛行型ディネガたちはやんちゃな子どもたち。
「提督、見てくださいよ! ユウキさん、カチコチですよ!」
「リトル・レディ。そっとしておいてあげなさい」
と、言いながら、提督もオペラグラスでボックス席を見るが、そこにはタキシード姿のユウキとヒト姿のテュプセム。
「会話はテュプセム嬢がリードしているようですな」
「ユウキさん、三百メートル先のターゲットに電磁弾を命中させるのは得意でも、女の子に話しかけるのはズダボロですからねー」
「しかし、リトル・レディと話すときはそうでもないですな」
「ホントですよ。まるでわたしが女の子みたいじゃないようですよ。失敬ですよね」
「まったくですな」
リアムとキヅキのどつき夫婦漫才に客席がドッと湧く。
「あ、見てくださいよ。ユウキさん、絶対いまのウケたのに必死に我慢してますよ」
「それにテュプセム嬢が気づいたようですな」
「面白いことを言って、ユウキさんを笑わせようとしてるみたいです。あ、陥落しました。すごい。あんなに笑うユウキさん、見たことないですよ」
――†――†――†――
全ての演目が終わり、ディネガたちは元の姿で帰っていく。
パトリオパッツィと一緒に客たちと話していると、テュル提督がやってきた。
「盛況だったね」
「これは、レディ。皆さまのおかげです。というのも、わたしの知っている劇場では客が桟敷席の最前列でお肉を焼き始めたりしたものですが、ディネガランドの客人たちはマナーというものを知っています」
「ヒト型ディネガはいいね。腕が暴れ出さない。それで、提督、今後の劇について、ぜひとも話したいことがあるんだけど」
「構いませんよ。パトリオパッ――」
「ううん。これは提督になんだ」
「そうですか。パトリオパッツィ、部屋を借りるよ」
支配人室に入って驚いた。鉢やワゴンいっぱいの葉っぱなどでジャングルみたいになっていた。
そういえば、パトリオパッツィはしばらくジャングルで寝起きしていたのだと思い出す。
「いやはや、しかも、これはみなプラスチックでつくった偽物ですな。そうやって偽物をはべらせるところは彼らしいところです。それで、レディ。敵艦隊はどこまで来ているのですかな?」
「ああ。気づかれてたのか」
「それが職業なのですよ」
「……距離はここから六千キロ。艦隊というよりは空中要塞みたいなもんだよ」
「艦隊を率いて、撃破してきましょう。どうせ、これまでのことを考えれば、彼らの狙いはここなのですから」
「ごめんね。いまの僕らじゃあの要塞への攻撃方法がないんだ」
「構いませんよ。ちょっと平和を楽しみ過ぎていたと思っていたところです。それで、敵の司令官の名前は?」
「シン」
「カレイジャスにはわたしから話します」




