パイロット・フィッシュ
「ここはどこだ?」
直近の記憶は封印処刑を受け、〈繭〉に包まれたときのものだ。
おそらく、それなりの時間が流れているはずだ。
十秒かもしれないし、十万年かもしれない。
グリッド線がどこまでも続く世界。
「意識フィールド? だが、一体誰の――」
「やあ、シン」
振り向く。子どもの声。
〈林檎〉がいた。
「……どういうことだ?」
「いくつかのロット生産を比較した結果、やはり、きみたちの代が一番使い物になりそうだ」
「弟の粛清に手を貸すつもりはない。封印処刑の前に言った通りだ」
〈林檎〉がクスクス笑う。
「パイロット・フィッシュってきいたことがある?」
「何を言っている……」
「大きなサメのそばを泳いで、サメの威を借りて、我が身を守り、パイロット・フィッシュはサメを餌のある場所へ連れていく」
「……」
「きみはカンがいいから気づいたんじゃないかな。この場合、僕らのパイロット・フィッシュが何であるか。ひとつ映像がある。ある知的生命体が支配していた星だ。そして、ディネガ・エネルギーを浴びた。彼らは僕らよりもずっとうまくそのエネルギーを扱えた。こんなふうに地上が化け物まみれになったりしなかった。全ての生命体は飛躍的な進化を遂げた。だけど、それは終わりの始まりだった。ほら、見て。ここからが見どころなんだ」
シンはそれを見た。
そんな、と言葉が出たが、そこまでだった。
ディネガ・エネルギーを浴びたものたちは知らず知らずのうちにパイロット・フィッシュとなり、サメを呼び寄せる。ディネガ本体を。
これが生きているのか、意志があるのか。それとも、ただ宇宙をさすらう高密度エネルギー体なのかは分からない。
ただ、存在するために膨大なエネルギーを必要とし、そのエネルギーの在り処を知るためにディネガ・エネルギーを放射し、その星にいる生命体をパイロット・フィッシュにするのだ。
ディネガとサメの違いは、ディネガはパイロット・フィッシュも食いつくしてしまう。
ディネガを絶滅させなければ、人類は滅びる。
新しいパイロット・フィッシュを探して、また別の星を食らいにいく。
「事態は飲み込めたようだね。きみたちのロットはきみとユウキが最後のふたりだ。もし、本当に弟を助けたいなら、何をすべきか、分かるよね?」