マホガニー色の侵略
翌朝〇六時〇〇分、スリープ・モードから通常モードへ移行――つまり、目を覚ましたとき、部屋のなかは全てがマホガニー色になっていた。
壁も家具も天井も、壁紙や木材など多少の模様と材質の差異はあるが、マホガニー色だった。
蓄音機のアサガオ型のラッパから静かなメロディーが流れ、提督は銀のフォークとナイフで目玉焼きを少し切っては口に運び、新鮮なオレンジジュースを飲む。
壁には額縁が飾られていて、英国国旗をなびかせた戦列艦ヴィクトリーがフランス艦隊側面へと突撃する様が描かれていた。
「これは……」
「おはよう。わが友よ」
「どういうことだ?」
「想像したのだ。きみが熾烈な戦闘の末に、研究部門からおざなりな労いの言葉をかけられ、そして、待つ我が家があんなものでは士気が大いに下がる。だから、ちょっと模様替えした。ほんの少しだけだ」
提督のエナメル材質追放運動はポッドにも及んでいて、ヘッドボードに交差したカノン砲のタイルがはめ込まれた大きなベッドに変わっている。
ユウキのポッドはさすがにベッドにされてはいなかったが、その外装は味のある赤みの木目と光沢をまとい、カバーガラスには女神の象嵌細工が施されていた。
「何か迷惑だったかね?」
「別に……回復して出撃ができれば、おれには関係ない」
「そう言ってくれると思っていた。昨日のきみとの会話で、きみはあまり自分のまわりにあるものに興味がないように見えた。だから、まあ、わたしが好みを出しても、何も言わないだろうと目論んだが、案外、的は外さなかった」
「でも……」
「ん?」
「前もって言え。……少し驚く」
提督はフォークを止めて、ふむとうなずく。
「確かのその通りだった。わたしは居候の身だ。では、次からは事前に知らせよう。それでだが、玄関と応接間を別に作ってもよいだろうか? なに、外からの見た目は変わらない。それにボトルシップを置くための専用の部屋も欲しい。それに書斎と図書館も――」