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ニラ玉平和主義

 ユウキがカータのもとでの修行を終え、武術の免許皆伝とニラ玉の免許皆伝をもらって、家に帰ってくると、誰もいなかった。

 そこで、久しぶりにイングリッシュ・ガーデンの園亭でひと眠りすることにした。出入口にセンサーを仕掛けておいたので、誰か来ても、すぐに目覚めることができる。


 ずいぶん眠っていて、空が暮れていたころに目を覚ますと、白い天使のような少女がふわふわ浮いていた。

 ぬかった。仕掛けたセンサーの設定を誤って、地面のみの探知の省エネモードにしていたのだ。


 提督はまだ中佐について、ユウキに何も言っていなかったのだ。


 少女はヒューマノイドらしく、白い翼を緩く開いている。おそらく浮上に必要な力は極限まで小型化を追求した反重力デバイスから供給されているのだろう。


「あんた、誰だ?」


「提督閣下より任じられた臨時海軍中佐です」


 と、言いながら、敬礼する。


 あいつめ。

 また何かしでかしたな。


「あなたは先任指揮官ですか?」


「違う」


「では、あなたは民間人ですか?」


「民間人? いや、そうと言われるとそうでもないな」


「ひょっとして観戦武官でしょうか? 提督は以前、カレイジャスさまという観戦武官がいらっしゃるとおっしゃっておられました」


「おれはユウキだ。カレイジャスじゃない」


「でも、観戦武官でいらっしゃる?」


 面倒になってきたので、ユウキは、はい、とこたえることにした。


「失礼いたしました。観戦武官殿。攻撃目標を指定してください」


「攻撃する対象はない。それより、他の連中はどこに行ったんだ?」


「買い物に行くとおっしゃっておられました。観戦武官殿。攻撃目標を指定してください」


「何を買いに行ったのやら。それと攻撃目標はない」


「了解いたしました。観戦武官殿。攻撃目標を指定してください」


「バグかウイルスか知らないが、厄介なものをまた……」


「スキャン中……バグ、ウイルス、どちらも検出されませんでした。観戦武官殿。攻撃目標を指定してください」


「付き合ってられない」


 中佐はユウキの後をついていき、ユウキは小腹が空いたので、早速免許皆伝の腕を自分のために振るうことにした。


 いつもはフレデリクが補助ピットを使って、料理をつくる調理室だが、このときはユウキひとり。

 ニラはない気がしていたので、買っておいたが、卵とラード、塩コショウは食料庫から見つかった。


「観戦武官殿。作成ツール内容をインプットしてください」


「ニラ玉」


「ニラ玉。了解いたしました。観戦武官殿。これより映像記録を作成いたします。映像記録A01、アクセス権限:臨時海軍中佐。これより保存される映像記録はあくまで補助的なものとなり、正否については旗艦での記録が優先されるものとする。観戦武官殿。攻撃目標を指定してください」


「じゃあ、ニラを切ってくれ」


「了解いたしました。観戦武官殿」


 ユウキは卵を三つ割って、塩コショウとかき混ぜているあいだに、全てのニラが三センチくらいに切られた。


「攻撃任務完了、攻撃対象は沈黙しました。観戦武官殿。次の攻撃目標を指定してください」


「そこのレンジに火をつけてくれ」


「了解いたしました。観戦武官殿」


 石炭が放り込まれて、レンジがいい感じに熱くなると、フライパンを置き、ラードをひいて、卵が半熟になるまで焼き、ニラを炒め、フレデリクが作った万能ソースを少し入れる。


「ほら、できたぞ」


 カータ秘伝の半熟具合にフレデリクの万能ソース。それをラードで焼くのだから、おいしくないわけがない。


「観戦武官殿。これは非常にいいものですね!」


「まあな」


 そう言われて、ユウキもまんざらではない気になっている。


「今日は……もう、攻撃をする気にはならなくなりました」


「それは助かる」


 はふはふ、と熱いニラ玉を食べる。


「白米があれば、なおのこといいんだが」


「次回、ニラ玉を作成するときも、ぜひお呼びください」


「作り方は映像で記録してあるんだろ?」


「はい。ですが、いくつかの映像を多角的に精査して、ニラ玉の味をさらに飛躍させられるものと思われます」


「ふ、勝手にしろ」


 そのとき、みなが帰ってきたのだが、その手にはユウキのためのお帰りパーティの食材がどっさり。

 だが、何よりも驚いたのは中佐に何かを切れと命令して、キッチンが真っ二つにならなかったこと、何かに火をつけろと命令して、半径百メートル以内のものが全て蒸発しなかったこと、そして、あの「攻撃目標を指定してください」が止まったことだった。


 そして、それら全てをつなぐ鍵は提督もフレデリクもきいたことのない謎の料理――ニラ玉であった。

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