広告を制すものが世界を制す
ユウキが目を覚ましたCCクリニックはひき肉工場とカルシウム粉末を売る店に挟まれていた。
この怪しげな立地にも関わらず、提督がユウキを運び込んだのは、空母甲板マーケットの上にあるCCクリニックの看板が目立って見えたからだった。つまり、広告の勝利だったのだ。
「やつは?」
「マジェスティック級戦艦を二番艦から九番艦まで全部落とした。縦に。ただ、そのくらいで死ぬような相手には見えなかったがね。安心したまえ、カレイジャス。汚名返上のチャンスはちゃんととってある」
「腕はどうなった?」
「つながらなかったよ。そう気を落とすものでもない。偉大なネルソン提督も隻腕だった。それどころか、片目もなかった。縁起のいい怪我と思っていたまえ」
ユウキはベッドから起き上がって、立ち上がろうとし始めた。
「どこに行く気かね?」
「ギウィ・フィッシュ。パトリオパッツィがおれの考えている通りのやつなら、やつはギウィ・フィッシュに居場所を告げている」
「リベンジかね? あまりオススメはしない」
「おれの武器はどこだ?」
それにこたえる代わりに、提督は包帯に包まれた右腕の切断面をひっぱたいた。
「ぐっ!」
「見敵必戦は敵が見えたらの話だ。いまは敵は見えないし、艦の破損はひどいことになっている。乾ドックに入って、修理しなければ、また同じことを繰り返す。まずは養生することだ。そして、新しい腕をつける。ただ、レディ・キヅキにきいた限り、新しい腕に慣れるのにはそれなりに時間がかかる。ましてやそれで強敵と当たるとなると、かなりの鍛錬を積まねばならないわけだ。だが、幸いなことに我々協商勢力には時間制限がない。十分な戦力を回復し、倒せると思うそのときまで焦らず、じっくり過ごすことだ」
そう言って、提督は壁の赤いボタンを押した。
すると、黄色と黒に塗られた大型ドアが開き、ヴィクトリアのホログラムがユウキに抱きついてきた。
「ユウキさん! よかった! 本当によかった!」
「AI……そっちは大丈夫なのか?」
「あれ、ユウキさん。わたしの心配してくれてるんですか?」
「別に。やっと慣れたAIをなくして、最初から戦術を組みなおすのが面倒なだけだ」
「素直じゃないけど、それがユウキさんのトレードマークみたいなものですものねー。ヴィクトリア、完全復活です。ここのAI技術はなかなかで分析モジュールを新調しました。解析しなきゃいけませんものね。あの攻撃」
「……ああ、そうだな」
「あの見えない高速斬撃、絶対何かあるはずです。それさえつかめたら五分の勝負ができます。だから、……だから、無理はしないでくださいね。わたし、もう……ユウキさんがあんな目にあうの、見たくないです」