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提督ついてくる

 ステータスチェック開始

 恒常性モニタリング:グリーン

 戦闘ログ:初期化

 ナノ・モジュール起動

 アーカイブへの接続:グリーン

 ジェミニ・レーダー・システム起動

 通常戦闘プログラムを解除

 ボディスーツ通常モードへ内圧移行

 攻撃用リソース残量:13%


「ステータス:オール・グリーン」


 科学者たちは少年を調査する。

 少年を通して、地上の戦闘区域を調査する。


「戦闘ログに奇妙なものが残っている」


 それを解析係が〈ワン・コイン・シアター〉とあだ名する投影デバイスに映す。


「えらく時代錯誤だな」


「〈林檎〉には何の情報もない。つまり、この異質者は存在しない」


「じゃあ、幽霊ってことか?」


「〈林檎〉に記録されていない」


「そんなことあり得るのか?」


「ありえない」


 少年はデータを全て提出して研究部から解放されると、ケミカル・ホワイトのエア・バスが待っていた。


 センターの職員や下士官たちと一緒に第二市街へと真上から降りていく。


 臨時条例や生活指針が宙に投射されゆっくりまわっている――『燃料行政の更新会議が終了。軽工業従事者の招集日が決定』


 エア・バスは自動モードで小型ステーションに着陸する。プラットフォームには飲料を販売するエナメル材の売店があり、ホログラム掲示板のそばではクラスDの労働者が数人集まっている。


 ステーションから出ると、強化テラスの並木道に出た。黄色と黒の縞模様の園芸ロボットが遺伝子操作された広葉樹に登り、細かい彩度基準に照らし合わせて、無駄な枝を落とすと、チタン製のちりとりを備えた機械が回収する。


 エア・ドームを小型ドローン(マイクロライト)が鳥のように群れて、市街地を飛び、濾過施設から流れ出た精製水がいくつもに分かれて公園や住宅街を通り過ぎ(住民はそれを川と呼んでいた)、またひとつの流れに収縮して濾過施設へ続く地下パイプと流れていく。


「なんということだ。あの川では河川砲艦が浮かぶかも怪しい」


 突然後ろからかけられた声に驚き、振り向くと、あの提督が立っていた。


「あちらの湖にはモンテネグロ王国海軍が浮かびそうだ。ダニロ国王陛下への特別使節として、モンテネグロ王国海軍を視察したのだが、そもそもあそこは山の国で海はなく、王国海軍唯一の艦船は国王所有のヨットに機関銃を一台載せただけだった」


 ひょっとしたら、焼死したのではないかと思ったが、灰のひとつもかぶっていない。


「ふむ。先ほどの廃墟と比べると、ここはなかなかどうしてきらめく都市だ。緑もほどほどにある。わたしの個人の好みからすると、少々光り過ぎている気もする」


「あんた……、どうやってここに?」


「知りたいのなら、まず名前をいただこう」


「……」


「教えてくれないなら、きみをチャーチルと呼ぶことにするが、どうする?」


 少年はため息をついた

 彼の識別ナンバーを教えてもよかったが、それでこの老人が納得するとは思えなかった。

 そこで通用している由来不明の名を告げた。


「ユウキ」


「ふむ。一歩進展だな。では、きみのことはカレイジャスと呼ぶことにしよう」


「……名乗ったのに」


「一歩前進だな。そこで教えてもらいたいのだが、我々のまわりを囲む兵士たちはわたしときみ、どちらに用があるのだろう?」


 M2633ライフルで武装した治安維持部隊は提督に用があるようだった。あのパルス・ライフルは人を撃つよりは〈ディネガ〉を撃つための兵器だ。つまり、当局は提督を〈ディネガ〉として扱うつもりだということだ。


 治安部隊は提督を〈イレギュラー因子355-Mg-2977〉と呼んだ。そして、我々と同行せよ、と言い、エネルギー制御手錠をかけようとした。


 地上で捕獲した〈ディネガ〉から情報を取るためにどんな拷問がされるか、ユウキははっきりとは知らない。だが、この老人が体を少しずつ粒子レベルで消滅させられ、知っている情報を供述すると思うと、なぜか胸がぐっと締めつけられるような感覚がした。


 自分にどんな運命が待っているか知らず、老人は言う。


「ちょっと待ってくれたまえ。同行するにあたって、いくつかの条件を確認したい。まず、その面白おかしいブレスレットをわたしの手首につけないこと。名誉ある軍人として武器の携帯は許されること。わたしのことはきちんと〈提督〉と呼ぶこと。これは降伏ではなく、交渉のための任意の同行であり、その旨を書類にして記録すること。その書類は二通つくられ、そちらが一通、こちらが一通保持する。以上の条件を承諾してもらえるならば、きみたちに同行しよう」


 治安部隊の遮光バイザーに隠れた表情は読み取れない。

 読み取れたとしても、数種類の化学物質投与を含む訓練プログラムで感情らしいものはないだろう。


 構わず、提督に後ろ手に手錠をかけようとする。


 提督はさっと手を引いて、二歩後ろに下がると、


「もし、以上の条件を承諾せず、紳士としての扱いを保証しない場合は――」


 錐みたいに細い指で頭上を指差す。


 その先にある宙が金属らしい鈍い光を発してゆがみ、様々な灰色の位相立方体がモザイク状に配列され整列され構成される。

 そしてパズルがほんの二秒で完成したとき、治安部隊のすぐ上に排水量1万トン、全長150メートルの鉄塊が宙に浮いていた。


「このデヴォンシャー級装甲巡洋艦をきみたちに落とす。では、返答をきこう」

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