星の海を飛ぶランチ
ターゲットであるイエズス会士は逃げた。
汽艇はテラリアへの帰還のため空を飛んでいた。
星は艇の上にも下にも星が輝いていて――
「カレイジャス。まあ、そう落ち込むものではない」
ユウキは舷側に寄りかかり、テラリアを囲む星々を見上げていた。
星の群れはガラスの粉末を黒いビロードにばら撒いたようだった。提督が舵輪のそばでぶら下げているオレンジのランプと違って、星の光は熱がなく、手を伸ばしてみると、光が指のあいだを逃げるときにひんやりとした。
ズキッと痛み、後頭部に手をそっと触れる。
あのとき、ランツクネヒトの一撃で砕かれたコンクリート片が当たっていた。
ユウキの体は強化骨格と人工筋肉で構成されているが、それでもたんこぶはできるものらしい。
「そうだ。話してみたが――」
提督は舵輪を握って、風に流された針路を修正しながら言った。
「――あのイエズス会士、それなりに道理が通じそうだったぞ」
これにはユウキとヴィクトリアが驚いた。
「会ったのか?」
「会うどころかトライバル級駆逐艦を落としてみた。落とした後に生け捕りを言われていたのを思い出して、ああ、しまった、と思ったのだがね、あのゴツゴツと大きく脹れた左腕でつかんで遠くに投げ飛ばしたよ。コサックは850トンはあるはずなんだがね。こんな手に汗握る戦いに気づいてないあたり、よほどあの巨人に苦戦していたようだ」
「何を話したんですか?」
「コサックで足りぬならと思って、スウィフトを落としてみようと思っていましたら、そんなことよりも二階の仲間を助けてに行ったほうがいいと言ってきました。それで深追いはせず、リトル・レディが戦っている二階に行ってみたわけです」
「不甲斐ない限りです」
遭難者用の毛布を畳んだ上に横になるフレデリクがしゅんとしている。
「なに、気にするな。いまは養生するのだ」
汽艇は星の海のなかを昇っていく。
戯れに汽笛を鳴らす。そそっかしい星がひとつ、流れ落ちた。