所々何かがおかしい(ペンギン)桃太郎
このお話はYoutubeで活動されている天野蒼空さんがモデルの作品です。要するに天野蒼空×桃太郎。
私も過去に3回ほど、朗読配信をしていただきました。
今回は許可を取り、今まで3回の配信に対するせめてもの恩返しとして書かせていただきました!
むかしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんがおりました。
毎日、お爺さんは山へ修行へ、お婆さんは川へ洗濯するついでにお爺さんから取り上げた一升瓶を飲みに川へ行きました。
ある日、お婆さんが洗濯をしながら一升瓶を飲んでいますと、川上から大きな桃が一つ、ドンブラコッコとなぜか流れが静かな川なのに音を立てて流れてきました。
「おや、これは見事な桃だこと。どこの菜園から流れてきたか知らないけれど夕飯の足しになりそうですからうちへもって帰りましょう」
おばあさんはそう言いながら、腰をかがめて桃を取ろうとしましたが、遠くて手が届きません。そりゃあ下流の川の広さなら取れへんよ(by作者)
そこで、お婆さんは
「水よ、わが力に応え水の流れを変えたまえ! 【ウォーターフロー】」
と魔法を唱えました。すると、桃はドンブラコッコと再び奇妙な音を響かせてお婆さんのもとへとやってきました。おばあさんはにこにこしながら
「これで夕飯の足しになるわね」
と言って、桃を拾い上げて、洗濯物を持ちながら巨大桃を持ち帰るという老人の筋力では考えられない現象を引き起こしながらえっちらおっちらおうちに帰りました。
夕方になってやっと、お爺さんが帰ってきました。
「おばあさん、今帰ったよ」
「おや、おじいさんかい。待っていましたよ。さあ、早はやくお上がんなさい。いいものをあげますから」
「それはありがたいな。何んだね、そのいいものというのは」
こういいながら、おじいさんはわらじをぬいで、部屋のど真ん中におかれている”それ”に気付かないふりをしながら上に上あがりました。その間まに、お婆さんは台所から牛刀をもってきて。
「ほら、ごらんなさいこの桃を」
といいました。
「いやこの桃おかしくね?」
「おかしくないですよ。今日川で拾ってきたのですよ」
「いやその川も絶対おかしくね?」
こうおじいさんは言いいながら、桃に手を当てて、ポンポンと叩いていますと、だしぬけに、桃ももはぽんと中から二つに割われて、
「おぎゃあ、おぎゃあ」
と勇いさましいうぶ声こえを上あげながら、かわいらしい赤あかさんが元気げんきよくとび出だしました。
「おやおや、まあ」
「おやおやまあまあで流していいことじゃないじゃろこれ」
おばあさんは、びっくりして、お爺さんは、ツッコミをするために、二人いっしょに声こえを立てました。
「まあまあ、わたしたちが、へいぜい、どうかして子供こどもが一人ひとりほしい、ほしいと言いっていたものだから、きっと神かみさまがこの子をさずけて下くださったにちがいない」
「そうじゃなかったら誘拐じゃろ」
おばあさんは、うれしがって、こう言いいましたが、お爺さんは、誘拐じゃないかと、オロオロしておりました。
そこであわてておじいさんがお湯ゆをわかすやら、おばあさんがむつきをそろえるやら、大さわぎをして、赤さんを抱だき上あげて、うぶ湯ゆをつかわせました。するといきなり、
「うん」
と言いいながら、赤さんは抱だいているおばあさんの手をはねのけました。
「おやおや、なんとまあ元気な子だろう」
おじいさんとおばあさんは、こう言って顔を見合みあわせながら、「あッは、あッは」とまるで発作でも起こしたかのような声でおもしろそうに笑わらいました。
そして桃の中から生まれた子だというので、この子に桃太郎という名をつけました。
〇 〇 〇
おじいさんとおばあさんは、それはそれはだいじにして桃太郎を育てました。桃太郎はだんだん成長するにつれて、あたりまえの子供にくらべて、ずっと体も大きいし、力がアホみたいに強くって、近所の村で、かなうものは一人ひとりもないくらいでしたが、そのくせ気だては陰気で、おじいさんとおばあさんによく孝行はしましたが自室に籠っていました。
そうこうする間に桃太郎15歳になりました。
もうその時には、日本の国中で、桃太郎ほどのマッドサイエンティストはいないといわれるようになりました。桃太郎はどこか外国へ出かけて、腕いっぱい、新製品の臨床実験をしてみたくなりました。
するとそのころ、ほうぼう外国の島々めぐって帰って来きた人があって、いろいろめずらしい、ふしぎなお話しをした末に。
「もう何年も何年も船をこいで行くと、遠い遠い海うみのはてに、鬼が島しまという所ところがある。悪い鬼どもが、いかめしいくろがねのお城の中に住んで、ほうぼうの国からかすめ取とった貴とい宝物ものを守っている」
と言いました。
これを聞いた桃太郎は自分が改造したとあるものの腕試しをしたくってたまらなくなりました。そこで、うちに帰ると早速部屋から一匹の空色のが出てきました。
空色のペンギンはお爺さんの前にトテトテと歩いてくると。
「どうぞ、わたくしにしばらくおひまをください」
と言いました。
「ペンギンがしゃべった!?」
「マスターの命令で鬼が島へ鬼退治をしに行くのです」
と空色のペンギンは勝手に話を進めました。
「まあ、そんな遠くへ行くのでは、お腹がすくでしょう。よしよし、おべんとうをこしらえて上げましょう」
「なんでお婆さんはそんなに受け入れられるのかが知りたいのじゃが」
とお婆さんは言いましたが、お爺さんはツッコミしかしませんでした。
ひとまず、おじいさんとおばあさんは、市場に行くと、おべんとうのイワシを100本単位で買い占めました。お爺さんとお婆さんが市場から帰ってくる頃には、空色のペンギンの戦闘態勢も万全でした。
「ではマスター、行ってまいります」
「ペンギン、頼んだよ~」
「ええ、立派に鬼どもを退治してまいります」
と元気な声を残して出ていきました。桃太郎はその小さな背中をいつまでも、いつまでも見送っていました。
〇 〇 〇
空色のペンギンはずんずん行くと、仲間がいっぱいいる南極へやってきました。まずは仲間を集めようと思い、そこで持ってきていた文庫本の朗読&感想会を行うことにしました。
朗読が終わるころには数百羽のペンギンに囲まれたペンギンは、一匹の屈強なアデリーペンギンと、一匹の屈強なコウテイペンギンと、その配下のオウサマペンギンにイワシを渡して協力してもらい鬼ヶ島まで泳いでいきました。
サメに襲われたりシロナガスクジラに丸呑みにされそうになりながら鬼ヶ島にたどりつくと、ペンギンたちは海岸からペタペタと歩いて城門まで行くと、くわえていたイワシを高速で門番の鬼にあてて、気絶させました。
門番は倒しましたが、大きなくろがねの門は固くしめられていました。そこで、空色のペンギンはくちばしをドリル回転させて、数分間かけてくろがねの門に穴をあけました。
門を開けたペンギンたちは中に入ると、コウテイペンギンは鬼の身体にくちばしで穴を開け、オウサマペンギンはコウテイペンギンの支援を、アデリーペンギンは翼で鬼の顔面に必殺のビンタを繰り出しました。
鬼よりずっと小さいペンギンに一方的に蹂躙されるという阿鼻叫喚の地獄絵図を背景にして、空色のペンギンは聖書を取り出し、鬼たちに向かって朗読を始めました。
その朗読が終わると、鬼たちは、おいおいと泣き始めてこん棒も何も放り投げて降参してしまいました。
最後に、空色のペンギンは鬼の大将を、翼に仕込んだ数々の暗器を器用に使い、あっという間に倒してしまいました。
お約束通り、ペンギンたちは人々から奪ったお宝をすべて奪還して、桃太郎たちが待つ村に帰っていきました。村に帰る途中ペンギンたちは奪わていた財宝たちを、少しずつ返していきました。
村に着くと、コウテイペンギンたちは、そのまま南極に帰っていきました。
そして、数日が経つと、空色のペンギンは、さらに人々に本を朗読したいと思うようになりました。
そこで、空色のペンギンは桃太郎に頼み、自身の身体を、ネット世界の海に送り込んでもらいました。
そうして、今も空色のペンギンはネット世界の海を渡り、困っている人々のパソコンの中に入って、本を朗読しているのです。