次期龍神と生贄皇子 #Prolog
お待たせ致しました。
ここからやっとアルティアとラフェエルの恋愛スタート地点です。
「………………………………」
……………このとおり、一言も口を開きません。
さらに、ほとんど動かないからもはや石像ですね。
普段からお喋りな方ではない彼ですが、今日はいつもより寡黙です。というか、馬車に乗る前から喋らないどころか私と視線すらあわせない。これはおかしい。
何か怒らせることしたかな?…………いや、怒らせることは沢山してるなぁ!?身に覚えがありすぎる!
昨日の歓迎パーティのダンスで足を踏んだこと?ドッペルゲンガーを置いてテラスに逃げ出したこと?それとも初めてのお酒で酔い潰れたこと?朝食のパンを1つ盗ったこと?
…………でも、それならいつも通り罰を落とすよね?もうお昼なのに!今日1度も!雷が落ちていない!いや、受けたいわけじゃないけど!受けないとなると逆に怖いというか!
だめだ、考えてもわからない。
なら、聞くしかないよね。
「ラフェエル」
私は深呼吸してから、ラフェエルを呼んだ。
* * *
ラフェエルはぼんやり外を眺めていた。城もそうだが質素な作りの街である。緑を邪魔しないように店が並んでいる。サクリファイス大帝国とはだいぶ違うな。
______私は、好き。
「…………ッ」
また昨日のことを思い出した。
ギリ、と歯ぎしりをする。
好きとはなんだ?
私達の関係など主従関係だ。私は生贄から契約者として、教育者としてしか接していない。
それはアルティアも同じだろう?龍神の娘から真の龍神になる為に_本人は望んでないようだが_共に行動をしている。
それだけの関係。
それ以上の感情などない。
そもそも、相手は龍神だ。私はサクリファイス大帝国の第1皇太子だ。神と生贄に好き嫌いなど発生しようがない。
____ならば、何故あの時私は龍神を抱きしめようとした?
それは…………………きっと、欲求不満なだけだ。男である以上それなりの欲はある。目の前に美しい女がいたら手を出すだろう?
____では、何故手を出さなかった?
……………………………クソ。思考が五月蝿い。頭が痛くなってきた。龍神の戯言に何故自問自答しているのだ?私はこんなにも愚かな人間か?
違う。私は下賎な者共と同じ思考回路であるはずがない。私は_____
「ラフェエル」
不意に、呼ばれた。
窓から目を離し、目の前を見る。
長い黒髪を緩く巻き、黄金色の大きな瞳で私を見つめる黒いドレスの女。
この思考の元凶だ。女は言葉を紡ぐ。
「………………私、何かした?」
「…………昨日のことを覚えていないのか?」
「昨日のこと………ダンスで足を踏んだこと?パーティを抜け出したこと?酔い潰れたこと?」
「…………………」
やはり、何も覚えていないようだ。
女はぺこり、と頭を下げた。
「…………………ごめんなさい」
「………!」
この女、謝ることが出来たのか…………?
予想外の反応で驚いた。何をしようと謝らない、謝ったとしても口だけの女がちゃんと頭を下げている。女は続けた。
「ダンス、ちゃんと覚える。もう抜け出したりしない。お酒も飲まない。………………だから、仲直りしてください!」
そう言って手を差し出してきた。
全部ハズレだ。なんにも分かっていない。
だが。
右目に魔力を集める。そして開いた。
「ふぎゃあっ!?」
その瞬間、黒い雷が女の頭に落ちた。女はけほ、と口から煙を吐いてギロリ、睨んだ。
「ちょっと!?謝ってるのになんで!?」
「五月蝿い」
「そこは握手でしょ!仲直りの握手!ほーーーんと理不尽!信じらんない!………………………ふふ」
「?」
口では文句を言っているのにも関わらず、口が緩んでいる。どこか嬉しそうな顔が……………………
「気色悪いな」
「んなにぉお!?もー勘弁ならん!知らん!
ふんだ!」
女はそう言ってそっぽを向いた。顔は見えない。だが、耳がほんのり紅くなっているのはわかって………口角が上がった。
___やはり、昨日のアレは夢だったのかもしれないな。
女___アルティアを見ながら、そう思った。
______この物語は、ラフェエルとアルティアが"2人で"自由を手にする物語である______
※ご案内
これから、次期龍神×生贄皇子の気持ちの変化に関しての話はタイトルが"次期龍神と生贄皇子"となります。




