森の妖精神に愛されし姫
アルティアの拾ってきた深緑の髪の女には見覚えがあった。
というか完全に知っている顔だ。目を瞑って今のところ意識は回復していないが、瞳の色が黄緑なのも知っている。然し。
額には緑色の契約印。……………まさか、この女も妖精神か精霊かは分からないが契約を交わしているとはな…………念の為、確認しておいた方がいいだろう。
そう思い至ったラフェエルは窓の外に顔を出した。すぐにクリスティドを見つけた。
「クリスティド、来い」
「今、私はクリスだ」
「いいからはやくこい」
「…………貴方が私を呼ぶなんて珍しいな。どうした?」
「……………この女、エリアスで間違いないか」
「ん?……………エリアス姫じゃないか!何故馬車にいる!?さっきアルティア様が助けたのが……エリアス姫、なのか?」
「そうだ」
「え?え?知り合い?」
「何故一国の姫が道端に……………」
「不思議だ。気弱姫が外に出ること自体珍しいのではないのか?」
「ちょっと!無視しないでよ!だから誰____ふぎゅ!」
小煩いアルティアにいつものように罰を落とす。黒い稲妻は実に便利で、周囲を燃やすこと無くアルティアのみを攻撃するから使い勝手もよい。
「んん、………………?」
アルティアが黙ったところで、女が目をゆっくり開いた。黄緑の瞳はキョロキョロと周りを見ている。
「………今貴様は馬車にいる」
「ひゃっ!あなた方は一体…………そのお姿は…………!
あの、不敬を承知で質問する事をお許しください。貴方は………サクリファイス大帝国第1皇太子であらせられるラフェエル・リヴ・レドルド・サクリファイス殿下、でしょうか?」
「そうだ。貴様は……………このヴァリアース大国の姫、エリアス・ラピュード・ヴァリアースで相違ないか?」
「はい、エリアス・ラピュード・ヴァリアースでございます、ラフェエル殿下……………ッ!」
「危ない!」
跪こうと立ち上がるエリアスは倒れそうになる。すぐさまアルティアが抱き留めた。
「も、申し訳ございません、わたくし____!」
エリアスがアルティアを見て顔を青ざめる。……………どうやら、エリアスもアルティアの事を知っているのだろう。カタカタと震えながら今にも泣きそうなか細い声を出した。
「この御方は…………もしや…………次期龍神様では……………わ、わたくしがよろけたばかりに御手を煩わせてすみません!
私の謝罪などで済まされる問題ではないことですが、本当に、本当に申し訳ござ…………」
「い、いやいやいや!支えた位でそんなに謝らないで!!!怒ってない!怒ってないから!」
ギャーギャーと騒がしくなる馬車内にうんざりする。これだから女は好かん。罰を落としてやりたいがエリアスの性格上目の前でそんなことをしたら卒倒する。それでは話もままならない。
そんな中、助け舟を出したのはクリスティドだった。
「エリアス姫、落ち着いてください。アルティア様はそんなことでお怒りになりませんよ」
「………!クリスティド殿下!?な、なぜ…………!」
「……………とにかく、1度馬車を停めましょう。いいですか、ラフェエル殿下」
「………やむを得んな」
ラフェエルは深い溜息をついた。




