春の月の18 #ラフェエル視点
サクリファイス大帝国では祭りが行われていた。
国民は明るい声をあげ、酒を飲み、踊っている。軍事国家とは思えないほど陽気で華やかな祭りは一日中行われるらしい。朝から夜である今も、笑い声や音楽が城まで響き渡ってる。
然し。
王城の玉座の間、皇族一同はお通夜のような雰囲気が漂わせていた。現皇帝ラフェール・リヴ・レドルド・サクリファイスは絢爛豪華な王冠を地面に膝をつき傅くラフェエル・リヴ・レドルド・サクリファイスの頭に乗せた。その王冠に負けず劣らず立派な正装をしたラフェエルが立ち上がると、王妃のティエルズ・リヴ・レドルド・サクリファイスは抱き着いた。
「おお………私の可愛いラフェ………なぜ貴方が死ななければならないの………龍神は何故…………この子を…………」
「ティー、やめなさい。………これも皇族の務め。ラフェ。わかっておるな?」
「…………は。」
ラフェエルは泣き喚く母を優しく引き離し力強い眼光で皇族を見た。ヤイバルとクシュスは居ない。奴らは次世代の皇帝と皇帝を支える重鎮に就く。国民の目を欺く為に祭りを見ている。
この祭りは____自分の誕生祭ではなく、皇族の記念日なのだ。第1皇太子は必ず春の月の18に生まれるのだ。つまり。
今日は第1皇太子が龍神に命を捧げる日なのだ。
この祭りも、この煌びやかな正装も、何もかも今日この日の___私が死ぬ為のお膳立て。
分かっているのだ。恐れることは何も無い。
自分のするべき事をする。
自分が生まれた意味を得る。
「…………父上、母上。責務を果たして参ります。
サクリファイス大帝国に栄光あれ」
無機質にそれだけを述べて背を向けて歩く。
「ラフェ!ラフェ!!!!」
「ティーを抑えろ!」
母の呼び止める声。父の命令の声。騒がしくなる皇族。…………愚かだ。こうなる運命だというのは決まりきっていることだろうに。今更ジタバタしてもしきたりは変わらない。____死ぬことは、変わらない。
「エアロ」
玉座の間に1番近い窓を風の魔法で割る。パリン、と大きな音を立てて大きな窓が割れる。1度思いっきり割って見たかったんだ。
小さな達成感。大きな虚しさ。
「フライ」
窓辺を蹴って、ラフェエルは空を飛んだ。
* * *
アトランティスの螺旋階段を降りる。前にはメイド服を来た、茶髪の団子頭の耳の尖ったアンデッドが蝋燭を持って歩いている。アトランティス入口にて、解除魔法を唱えたら現れた。リングという名前らしい。上位クラスの魔物であることはすぐにわかったが、どうでも良かった。
私を殺すのはこのアンデッドじゃない。
龍神だ。
噴水の間を抜け、ジグザグの道を歩く。此処は通ったことがない。ここに通る前にアルティアと名乗る女に出会ったからだ。
____アルティア。
龍神の娘。どんなに情報を得ても、女の記述はなかった。堅物王子にも弱気姫にもしつこく妖精神に掛け合わせた。
だが、簡潔に一言。"そんな女は知らない"だった。
妖精神も使えない。
____まあ、いい。
死ぬ前に直接聞いてやればいい。
そう思った所で大きな門の前に来た。メイドは、門の前に跪いた。
「サクリファイス大帝国の生贄__ラフェエル・リヴ・レドルド・サクリファイスを御前に。
リングの名において、生贄であると証明します。
世界の中心・アトランティスの不滅を願います_____」
口上が終わると門が動き出した。月光が差し込む。そこには。
「あ……………………」
「…………………………」
月光を浴びた漆黒の塊、広場1杯の大きな生物____本物の龍神が黄金色の瞳を輝かせて私を見た。
その横に____いつもよりも着飾った、龍神と同じ黄金色の瞳を持つアルティアが居た。
※ラフェエルは20歳になってから一人称を「私」に変えました。
大人の皇子なので。




