人狼少年への教育 #2
「まほ、けん」
ボクがそう言うと、持っていた剣に氷が生えた。それを見ていたクリスさんがぱちぱちと手を叩いた。
「ガロは氷魔法が得意みたいだね。ほかの魔法の勉強をしていけばそれを生かせるようになるよ」
「は、い………」
クリスさんはボクにエリーさんとは違う魔法を教えてくれている。エリーさんが教えてくれる治す魔法や守る魔法ではなく、相手を倒す攻撃の魔法らしい。
今のところ、氷しか使えない。
しゅん、としているガロの頭にクリスティドはぽん、と手を置いた。
「大丈夫だよ、アルティア様に選ばれたんだから素質はあるよ、自信を持って」
「………………」
アルさんは、凄い人らしい。難しい話はよくわからないけれど、皆が尊敬しているんです。
* * *
「グルルル、ガァッ!」
ガロは狼の姿で、目の前にいる聖の精霊・カーバンクルにかかっていく。カーバンクルは大きなリスの姿で、いとも簡単にくるんとした尻尾で捕まえた。身体が人になっていく。
『うぅん、すぐに人間に戻っちゃだめ、だよ……………人狼の力は瞬発力、と、身体の頑丈さなんだから……………』
「ちょっとカーバンクル!ガロちゃんに厳しいこと言わないでちょうだい!」
『ご、ごめん……………』
ボクは白と黒の珍しい髪のフランさんにも色々教わっている。精霊さん?と狼の姿で戦うというものだ。
………………ボクの人狼の力を高めるという練習らしい。これもアルさんに仕える為に学ばなきゃいけないこと。
此処は狼になっても大丈夫な場所だから、自然と狼になれるから、少し嬉しい…………です。
* * *
「ぐぁ………………!」
ボクの身体は宙を浮いて、地面に叩きつけられた。顔を上げると……………紅銀の髪、紅い瞳の___ラフェーさん。
ラフェーさんはたまに、人型での剣術・体術を教えてくれる。痛いけど、今までの無意味な暴力ほどではない。ラフェーさんは平然と言う。
「立て。小さくともアルの側近なのだろう?あの女が簡単に死ぬことは無いだろうが、主人に歯向かう者を絶対に許すな。
それが側近だ」
「ッ、は、ぃ……………も、いちど」
ボクはまたかかっていくけど____5分ほどで身体が動かなくなった。
ラフェエルがテントに戻っていく足音を聞きながら、ガロは思う。
全員が、自分に色々教えてくれている。
数日前まではこんなに厳しく、優しい世界を知らなかったんだ。
ただ全てを受け入れていた。
痛みも恥辱も全て。
でも。
そこから抜け出して見た実際の世界は____こんなにも、優しかった。
勉強も魔法も体術も学べば学ぶほど面白くて、楽しくて、キラキラ光ってて、眩しい。けど、もっともっとって手を伸ばさずにはいられない、そんな心持ちになった。
50年も生きてて、初めてのことだった。
初めてのことだらけで戸惑いもあるけれど、楽しいの方が上だ。
そして、この気持ちをくれたのは_____アルさんだ。
アルティア=ワールド=ドラゴン。
それがボクの今のご主人様のお名前。
でも、今までのご主人様のように暴力を振るわない。何かを無理強いしない。むしろ優しくしてくれるんだ。
この気持ちをくれたアルさん__アル様に、何かを返したい。
アル様は何をすれば喜んでくれるのだろう………………………?
ガロは空を見上げながら、考えた。




