小さな出来心と大きな心の傷
久しぶりにたくさん喋っちゃった。
ううん、前世の話をしたのは初めてかも。
フランは下を向きながら、後悔する。
セイレーン皇国も自由だったし楽しかったけど、旅はもっと楽しい。
ラフェエルさんは相変わらずカッコイイし、クリスティドさんもかっこいいし、エリアスさんは優しいし、 リーブは厳しいけど犬みたいで可愛いし、ダーインスレイヴさんはイケメンだし………………アルティア先輩は強いし。本当にRPGゲームをやってるみたいな気分で、本当に楽しい。
だから、積もり積もった前世の記憶を語りたくなったのかもしれない。でもこんな暗い話、嫌がられちゃうんじゃ_____……………?
ふわ、と何かが頭に乗った。見ると…………アルティア先輩が近くにいて、私の頭に手を置いていた。暖かい手…………
アルティアさんは静かに言う。
「………………ここは、異世界だ。
前世とか関係ない。第2の人生。
身体は動くし、聖女って役割はあるけど……………………それでも、"自由"に、どこまでも行ける。
___もう過去に囚われること、もうないんじゃない?」
「______ッ」
優しい言葉、温かい手。
以前戦った時の恐ろしさなんて忘れちゃうくらい………………心地好くて。
泣きそうになった。私は熱くなる目じりを抑えて、誤魔化すように言葉を紡ぐ。
「そ、それより!せっかく転生者同士なんだし!アルティア先輩の"前世"のことも知りたいです!
きっと綺麗で、温かくて、やっぱり強かったんですか?」
「_______!」
ぴたり、と私を撫でる手が止まる。
アルティア先輩は黄金の瞳をこれでもか、と見開いて顔を青くしてる。
あれ、私不味いこと言った…………………?
「_______私は……………………………
ううん、もう寝る。ベッドに入ってこないでね。
おやすみ」
「あ、先輩!」
先輩は早口でそれだけ言って布団に潜ってしまった。なんなんだろう一体……………………
先輩は逃げるような人じゃない。
だってすごく強いから。
……………………隠されると、尚更気になるというもので。
私はそ、と自分の着ている白いワンピースの裾を上げた。右の太ももには、聖の精霊・カーバンクルとの絆の証___契約印。
少し念じると、ぽう、と契約印が光った。
"契約者は契約した妖精神、精霊の力を少し使える"。そして、カーバンクルの力は…………意識への介入。
______ちょっとくらい、覗いてもいいよね。
ほんの少しの興味、出来心だった。
数分後、後悔する事になると知らずに_____私は、目を閉じた。
* * *
「はっ、はっ、はっ…………………!」
フランは走っている。
もう寝息を立てているアルティアから離れて、走っている。
ベッドで寝ようとしていたから靴は脱いでいた。つまり、裸足だ。木の枝や石を踏んでいるのに痛くない。
ベッドからだいぶ離れた大木の前で、やっと足を止める。大木に体を預けて、私は_____
「………ひぐっ…………あぁっ……………!」
大声で泣いた。人気のない森の中に自分の泣き声が響き渡る。
理由は1つ。アルティアの"前世"を見たからだ。
病院のベッドの上で好きに生きていた私なんかよりも過酷で残酷で悲惨だった。
言葉に出来ないくらい酷かった。
私は何も知らなかったんだ。
アルティア先輩がどんな気持ちで生きてきたのか。どんなに自由を望んでいるのか。
あの表情の意味を、何も知らなかったんだ______
フランは声と涙が枯れるまで………………アルティアの代わりと言わんばかりに泣いていた。




