父龍神、久しぶりの登場
視界が黒い"何か"が邪魔して、よく見えない。
それに。
______心が、鉛のように冷たくなっている。
よく見えないとはいえ、こんなに暴れているのに、身体中が冷たい。どんなに魔法を使っても、魔力を放出しても、"渇き"は癒えない。
寧ろ、1人、また1人と攻撃する度に渇きは酷くなる。
もっと、もっと、もっと。
この渇きが癒えるまで、殺したい女と殺したい精霊を殺すまで。
殺した後は?
他の人間を殺せばいいの?
そうすればこの渇きは癒える?
___あれ?なんで私は暴れている?
なんで………………なんで…………………
____そうだ、私は"幸せ"を手に入れる為に戦っているんだ。
その為に私はいくらでも殺そう。
その"幸せ"を手に入れる為に、私は_______…………………
「人を殺して得る幸せなんてないよ」
…………………?
懐かしい声が、鼓膜を揺らした。
伸ばしていた手首が温かい何かに包まれた。
この温もり_____知ってる。
この匂い_____知ってる。
この感触___知ってる。
温かくて、嗅ぎ慣れてて、何度も触れられた大好きな…………………
私の視界を覆っていた黒い何かが晴れていく。そして、見えたのは_____
私は、震えた声で言葉を紡いだ。
「ガーラン、ド……………………………?」
私の横には……………………私と同じ長い黒髪の、黄金瞳を持った父親・ガーランドが立っていた。赤ん坊の頃から見ていた父親は全く変わっていない。見た目も、…………この、どこか悲しげで、優しい笑顔も。
「アル____我の自慢の娘よ。お前はとてもいい子だ。でも少し、お馬鹿だね。そこも可愛いけど………………………
今回は、ちょっとオイタが過ぎたみたいだ。でも、大丈夫だよ。
少し休もうね______」
ガーランドはそう言って、もう片手で私の瞳を大きな手で覆った。待って、まだ話したいことが沢山………………
そこで、意識が途切れた。
* * *
それは、突然だった。
死を受けいれ、目を瞑った時……………私の前に人の気配がした。
目を開けると____目の前には大きな、龍神と同じ黒髪を持つ男が立っていて。男かどうかわかったのはその人が低い声を出したから。
そうしたら、ずっとこの部屋に充満していた禍々しい黒い魔法の空気が変わった。
何が起きたのかわからないで戸惑っていると男がくるり、とこちらを向いた。龍神と同じ黄金色の瞳のイケメン。女にさえ見える中性的な顔立ち。その男の腕の中には自分を殺そうとした女が目を瞑っている。先程の恐ろしさを感じさせない子供のような寝顔だ。
「もう大丈夫だよ。………怖い思いをさせてすまなかったね」
「あ、……えと…………」
見たこともないくらい綺麗な男の人に戸惑う。男の人はふむ、これじゃあ謝罪しずらいな、と言葉を漏らして近くにいた青紫頭の男を見た。
「"自由にしていい"から、我の娘を抱いてくれダーインスレイヴ。
あ、抱くって交わる事ではないからな、寧ろそれ以上手を出したらお前を消滅してやるから覚悟しておけ」
「……………久しぶりに会ったというのに貴様は……………」
ダーインスレイヴ、と呼ばれた男は金縛りが解かれたらしい。そして、文句を言いながらも龍神を抱き上げた。イケメンは再び私を見た。
「我の娘がすまなかったな、怖かったろう?」
「は、はい、私、とても怖くて………………」
「然し、だ。全てを見ていたが貴様にも非がある。結果的に我の娘がそれ以上の失態を犯したのだから、君に罰を下すことはしない。聖女を殺すとなると世界の均衡も崩れるしな。
ただ____次、我の娘を侮辱したら現龍神として今日以上の恐怖を与える、努努忘れるな」
「_____ッ、は、はい!申し訳ございませんでした!」
私はすぐさま頭を下げる。
そういった時の黄金色の瞳___蔑んた視線に胸がゾクゾクしたフランだった。




