なんとも言えない不安
「おかえり、マイスイート~♪」
「ぶっ、!」
私はいつものガーランドの寝床に転移されたと同時に抱き締められた。今日は女になってた。豊満な胸が私を窒息させる。
「んんん~~~!!!!」
「ダメじゃない、護衛もつけずにアトランティス内を歩き回っちゃ。君はまだ5歳なのよ?階段の段差や岩に頭をぶつけては大変よ。そうなったらこの大空洞改装して危険な場所全部作り変えなきゃなんだから~」
「それはやりすぎかと思われます。しかし、わたくしの不注意でアルティア様を危険な目に合わせてしまったこと、心より謝罪致します」
「いいのよぅ、我こそ非番だと言うのに呼び出してごめんなさいね、リング」
「~~~っ、ぷは!ちょっと!苦しい!」
やっとの思いで胸から脱却した私は大きく息を吸って吐く。……強いて危険を上げるとするならばこの胸だ。人間の姿になるならいっそいつも通り男でいて欲しい。喋り方も迷走していてぶっちゃけ気持ち悪いから。
「気持ち悪いなんて失礼ね」
「心読んだの!?」
「顔に書いてあるわよ。んもう、母親の愛が欲しいのかと思ってわざわざこの姿になっているというのに。親の心子知らずねえ」
「おえ………」
「エチケット袋をご利用になられますか?」
「失礼しちゃうわ!」
そんないつものやり取りを見ながら、ガーランドの玉座に座る。今日は脱走失敗したな。けど諦めてなんてないわ。隙があればこれからもするつもり。……それよりも気掛かりなのは、ガーランドでもリングでもなく、あの男の子だ。私は思い浮かべてみる。
あの時は人間だ!やった!って喜んでただけだけど、かなりの美少年だった。岡惚れしてるわけじゃないけど、人間というより人形って感じ。ガーランドもイケメンちゃイケメンだけど残念だからな。
それはともかく。2人の会話が気になった。男の子ははっきりと言っていた。ガーランドも然り。
「サクリファイス……生贄……自分を殺す………」
ぽつり、そう呟くとガーランドは私を見た。黄金色の瞳が見開かれている。あの男の子が私を見た時のように。けれど直ぐに首を振って私に歩み寄ってきた。
「気になるかい?アル。あの小僧の言葉、我の言葉……」
「……気にしない方が無理」
そう応えるとだよね、と困ったように笑った。
「まだ教えるのは早いんだよね。なんたって"まだ"13年も後の話だから」
このおっさん(今は女だけど)何言ってんだ?13年ってだいぶ未来でしょう。やっぱりいつも言っている5000歳説は本当なのか?けど、普通そんなに長く生きれるものなの?龍って不死?でもそうなると私が後継者になる必要皆無なんじゃない?
そんなことを考えているとふわ、と身体が浮いた。さっきみたいに浮遊しているのではなく、ガーランドに抱きかかえられたのだ。私の髪に顔を埋めながら、言う。
「……これは宿命さ。アルもきっと、わかる。いくら嫌だと喚いても、騒いでも、……その時は来てしまう。
だから、重く考えないで。今はそう、それこそ年齢相応の幸せを噛み締めてね」
「……?ガーランド?」
「なんでもないよ。……ただの、独り言さ」
そう言って優しく笑う。
___また、この顔。寂しい顔。
ガーランドと私と紅銀紅瞳のあの子。そして、この世界。
一体、なんなんだろう。この気持ちは。
私は大人しく、ガーランドの唇を額に受けた。




