流し人 4
他人を威嚇するときの人間の格好というものは、大体皆似ている。とりわけ、精神年齢が近しい人たち程その姿は似通う。まるで、誰かに教えてもらったかのように。下顎を上げ、背中は丸く、体全体で対象に圧迫感を与える。それが効果的だと、本能で理解しているんだろう。本当に、嫌になる。
自転車置き場の裏側で、彼らがたむろしていた。目線を合わせないよう、そそくさと自転車を停めて立ち去る。ああいう姿を見る度に、律儀なものだな、と思う。どうせ授業に出る気がないのなら、学校になんて来なければ良いのに。彼らはどうして来るのだろう。ああして授業に出ないことが許されるのなら、同じように学校に来ないことも許されるのでは?
僕にもきっと『学校に行かない』という選択肢は残されているのだろうけれども、その道へ踏み出せることはおそらくない。彼らと僕は違う。置かれた立場も、考え方も。
教室に入ると、彼女だけが一人、ポツネンと席に座っていた。手に持って読んでいるのは、昨日と同じそれ色のカバーのかかった文庫本。珍しい、この時間帯、僕以外で教室に来ている人間は基本的に居ないのだけれども。
彼女の後ろを通って自分の席に座る。カタタン、と椅子と机が当たって音を立てた。
「…ねぇ。」
ぼんやりと窓の外を見ていたら、声が聞こえた。
「ねぇってば!」
先程よりしっかりと聞こえた音は明らかに自分に向けられていて、びっくりして顔の向きを変える。彼女はいつの間にか本を置いて、真っ直ぐにこちらを見ていた。
何を言われるかと思って身構えたら、彼女の口から出てきた言葉は予想だにしないものだった。
「次のボランティア清掃っていつ?」
「え、えっと…。来週の月曜の放課後だけど。」
答えるのが遅れたのは思い出していたからじゃない。彼女がそんなことを尋ねてくるわけがわからなかったから、変に身構えてしまう。
「それ、私も参加するわ。」
「え、でも…。」
「別に、ボランティア清掃なんだから有志が参加したって良いでしょ?というかそもそもそういう仕組みでしょ、アレ。」
「そりゃあ、確かにそうだけど…。」
「なに、何かあるの?申し込みとか。」
「ああ、このプリントに名前だけ書いてくれれば…。」
昨日の委員会で貰った紙を、ファイルから抜き出す。どうせ参加希望者なんていないのだから、使うことはないだろうと思っていた。
「シャーペン貸して。」
近づいてきた彼女が言う。黙って筆箱から出して渡した。
綺麗な筆跡がサラサラと紙の上を滑るのを眺める。
「はい。じゃあ宜しく。」
書き終わってペンを置いた彼女はそれだけ言うと、また自分の席へと戻って行った。
残された僕は、じっとその紙を見つめるしか無かった。