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死にたがり英雄と悪しき魔女 04


「オレは、あのとき古代竜を倒すためだけに蘇った。今日だってアイゼンにここに連れて来られなきゃ、死んでたかもしれない。今生きてるのはオマケみたいなもんだ。そろそろ終わらせたって許されるだろ?」


 フォルモントは眉を下げて悪戯をするみたいに笑っているが、その目の奥は真剣だ。


 ルーナは仁王立ちをして、はっきりと答えた。


「絶対にダメ。あたしの心臓代替術式を邪魔者扱いするような真似はさせないわ」


「そんなことしてないだろ。現にオレはルーナの術式があったから古代竜を倒せたし、今だって生きていられるわけだし」


「その生きていられている状態が、あんたは嫌なんでしょ。あたしの術式を不要なものだって、切り捨ててるようなもんじゃない」


 フォルモントはばつが悪そうに頬を掻く。

 ルーナは背をかがめ、項垂れているフォルモントの顔を覗き込むと、彼の高い鼻先に指を突きつけた。


「いい? あたしはあんたを死なせる気はないわ。毎週ここにメンテに来なさい」


「……来なかったら?」


「来なかったらあたしが行くまでよ。悪しき魔女が騎士団本部に毎週来るようになったら最悪よ。

 防衛の要の騎士達は魔女に騙されたのかって、エーゲリアの民は不安のどん底。厄介なこと間違いなし。そんなことになりたくなければ、大人しくあたしの言うことを聞きなさい」


 フォルモントを死なせたくない。

 これはルーナのエゴでしかなかった。

 嫌われてしまうかもしれないが、それでも彼に生きていて欲しかったのだ。


 ルーナの脅しともとれる発言に、フォルモントは噴きだした。


 クスクス笑って彼はルーナの頭に手を伸ばす。

 ぽふぽふと深紅の髪を撫でられると、どんな表情をしていればいいのかわからなくて、つい怒った表情をしてしまった。


「わかったわかった。ルーナがオレのこと好きなのは、よーくわかったよ」


「はっ!? ちがっ、そんなんじゃなくて、ただのファン……、あっ」


(今、あたしなんて言った!?)


 ルーナは真っ赤な顔で小さな唇を押さえ込んだ。


 フォルモントは、ルーナの失言にぱちぱちと瞬きを繰り返す。

 それから、嬉しそうに目に星を宿した。


「ファンなの? オレの? 英雄騎士の?」


「違う! 違うのよ! あんたの顔が綺麗なのが悪いの!!」


(あああ何言ってんのよ、あたし!!)


 人と話す経験が少なすぎて大失敗をしてしまっているルーナは、恥ずかしさに唸りながらフォルモントを睨んでしまう。


 睨まれたフォルモントは、残念そうに眉を下げた。


「なんだぁ、顔のファンか」


 確かに顔のファンなのだが、そうがっかりされた声を出されると責められている気がする。


 気まずくて視線を逸らすと、フォルモントはおかしそうに笑ってルーナの長い髪をくしゃくしゃに混ぜた。


「そんな怒られたみたいな顔するなよ。責めてるみたいだろ? 嬉しいよ。こんな弱々しい英雄なんだって、失望されてるだろうと思ってたとこだ」


 髪を撫でるフォルモントの気さくな手を払うように、ルーナは首を振る。

 こうやって誰かに触れられる経験も、人生でほとんどなかったのだ。


 綺麗なフォルモントと話すのは恥ずかしいし、触れられるのもむず痒い。

 けれど英雄騎士の称号を重たく背負っている彼に、ルーナはきちんと気持ちを伝えたかった。


 薬湯に口をつけようとしている彼に向き直る。

 ルーナがなにか言おうとしていることを察したのか、こちらを見たフォルモントの月色と目が合った。


「……失望なんかしないわ。英雄だって人間なんだから。気弱になることくらいあるでしょ。あんたが死にたがっても、あたしが死なせない。安心して、弱々しい英雄をやってればいいわ」


 励ましたかったのだが、うまく伝わっただろうか。

 ドキドキしながらフォルモントを見ていると、彼は瞳を柔らかな三日月にする。

 薄い唇の端を持ち上げて、フォルモントはこの世のものとは思えないほどに美しい笑みを浮かべた。


「あーあ、そんなこと言われたら死ねないじゃんなぁ。……ありがとうな、ルーナ」


 その微笑みにルーナが見惚れている間に、彼は薬湯を口にした。

 そして、次の瞬間にはむせ込んで、美しい笑みを一瞬にして崩したのだった。


「ああ、もったいない」


「っぶは! なにが!? というか、これ不味くない!?」


「味調整する暇なかったから」


 味に苦しみながらも薬湯を飲みきるフォルモントの表情も、またそれはそれで美しかった。

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