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告げられる悪しき魔女 04


 今度はフォルモントが、その月色の目を丸くする番だった。

 彼の瞳を見つめながら、ルーナはどうにか息継ぎをして抱えてきた感情を言葉に載せることにする。


 「えっと」と言いよどみ、緊張で乾く唇を舐めて、ようやっと声を発した。


「あ、あたしは、フォルが好き! 顔じゃなくって、フォルが、フォルが好き!」


「……ほんとに?」


 フォルモントが呆けたような表情のまま、呆然と言う。


 ルーナは力強く頷くと、次の瞬間には彼の胸に頬を押しつけていた。

 何が起きているのかは、全身を包む体温で理解する。


 フォルモントに抱きしめられているのだ。

 驚いて喉が「ひゅっ」と鳴ったが、フォルモントは離してはくれない。

 苦しいくらいに抱きしめられてドギマギしていると、耳元で彼が切ない声をあげた。


「もっかい言って」


「う、え? え、ふぉ、フォルが好き」


 リクエスト通りにボソボソ言うと、フォルモントは身を縮こませる。

 抱きしめられたルーナに許された空間も狭まった。


「よかったぁ。オレの顔が良くて……」


「ちがっ。だから、顔だけじゃなくって」


「じゃなくて?」


「……ぜんぶ、すき、だなって」


 フォルモントにうまく伝わっているだろうか。

 恥ずかしいけれど、伝わってほしい。


 フォルモントはルーナをいつでも大事にしてくれる。

 仕事ぶりも立派で、エーゲリアのために尽くしているし、人々から愛されている。

 死んでしまった仲間のことを気にしているのは、彼が優しいからだ。

 情けない英雄だと自称していたが、ルーナはそんな情けない部分も含めてフォルモント好きだ。

 彼のすべてが大好きなのだ。


 フォルモントは、くすくす笑ってルーナの頭に頬をすり寄せてくる。

 密着度の高さと、彼の肌から感じる香りにクラクラしてきた。


「はあ……。ほんとに、生きててよかった」


 すんっと鼻をすする音がして、彼の声が涙声に聞こえたのは気のせいではなかったことを知る。

 

 好きだと伝えただけで、涙が出るほど喜んでくれる人がいる。

 そんな未来は想像もしたことがなかった。


 彼の胸に身をあずけ、ルーナも過ぎた幸せに涙を滲ませる。

 だが、その涙はフォルモントの次の一言で引っ込んでしまった。


「結婚してくれ、ルゥ」


「へ!?」


「エーゲリアではルゥ人気が急上昇中だ。お付き合いなんてふわっとした関係じゃなく、婚約者になって、とっとと式をあげよう。知ってると思うけど、オレ一応伯爵だから。貴族っぽく、お付き合い期間すっとばして結婚しよう」


 ギュウギュウ抱きしめられながら、ルーナは目を回す。


 好きと伝え合っただけでいっぱいいっぱいだったルーナは、『お付き合い』という単語すら浮かんでいなかったのだ。

 そこに『婚約』だの『結婚』だのというワードが放り込まれて、混乱しないわけがない。


 動揺で返事を言いよどむルーナに、フォルモントがスリスリ頬を寄せる。


「ダメ?」


 甘えた声で言われると、胸の奥がキューンと(せば)まった感覚がする。


 ダメではないし、困ったことに嬉しすぎて溶けそうなくらいだ。

 ルーナはフォルモントの胸に頬をくっつけて、ぽそっと答えた。


「ダメじゃない」


「じゃあ、オレのお嫁さんになってくれるんだ?」


「……うん。なる」


「ありがとう。あー、好きだなぁ」


 感慨深げに言いながら、フォルモントはルーナの額に唇をくっつけた。

 

 髪の毛ごしとはいえ、その柔らかな感触は伝わってくる。

 「ひょあ!?」と奇声をあげたルーナにフォルモントは「しまった」と自身の唇を押さえた。

 恐る恐る彼がルーナを覗き込んでくる。


「ごめん。了承がなきゃ手は出さないって言ったのにな」


「だ、い、じょうぶ」


 顔が今までにないレベルで赤い自覚がある。


 余裕がなさすぎて、真っ赤な顔をさらしながらぎこちなく頷いたルーナの髪をフォルモントが愛しげに耳にかける。

 その手はそのまま、そっとルーナの頬に触れた。


「キス、してもいい?」


 声も出ないくらいに驚いたルーナが、こぼれんばかりに目を見開く。


 フォルモントは月色の瞳を細めて、ルーナを見つめていた。

 余裕のない彼の表情に頭がぼんやりしてきてしまう。

 

 羞恥心を超えたルーナは赤い瞳をとろけさせる。

 こくんとルーナが頷くと、フォルモントはルーナの唇に唇を重ねた。


 子どもの遊びのような軽いキスは一瞬で離れていく。

 ちゅっと鳴った音のかわいらしさと、柔らかすぎる感触に、切なさは増した。


 心臓が飛び出してしまいそうなくらいに暴れている。

 彼の腕にすがりついたルーナは、フォルモントの目を見つめた。


 それはもうねだっているようにしか見えなかったが、フォルモントは律儀に、少し意地悪っぽく首を傾けた。


「もっかい。してもいい?」


「……何回でも、いいから。して」


 その後の口づけは、どちらから唇を重ねたのかは曖昧(あいまい)だった。


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