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戦場に咲く花のように  作者: 油揚げ
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蜃気楼のキャメロット [ゴビ砂漠通行阻止戦Ⅰ]

「あら、久しぶりね。今日もお見舞いかしら」

ウンベルト一世総合病院の受付の前で、いつもの看護師のおばさんにランは絡まれていた。

任務の都合上、頻繁には顔を出せないが今回はいつもより忙しかったため3ヶ月ぶりのお見舞いになってしまった。

「ええ、なので904号室のカードキーと薬を貸して貰えないでしょうか?」

これもいつものやり取り。

看護師のおばさんからカードキーと薬を受け取り、904号室に向かって歩いている途中、「2年前、能力兵として未熟だった頃に戦い方を教えてくれた先輩がいたんだ」と独りでにイヴに向かって呟く。

「ドーナツが大好きで自信家、能力兵として中尉まで上り詰めた立派な先輩だった。だけど、能力に頼りっきりで自分の利益のために善良な市民に能力での暴行を加えたこともあったそうだ。でもある日、能力の酷使で四肢が爆散し能力が自分の意思で使えなくなった」

驚いて、足を止めてしまったイヴに「走ったら息が切れるように、重いものを長時間持つと疲れるように、能力だって限度がある。その能力が世界の全てだった先輩はそのことを境に、軍から見放され、犯罪の前科もあったから誰からも相手にされなくなったんだ。信頼出来る仲間も世界の一部だった能力も大切な四肢も全てを失ったショックから重度の鬱病になった」と追い打ちをかける。

イヴは自分もいつか同じような目に合うのか、と底が見えない恐怖に苛まれながらも目的の部屋まで着いた。

「君が足を踏み入れようとしている場所はこんなにも残酷なんだ。」

ランはそう言うとカードキーを取りだし、部屋に入ろうとする。

ピッ、「先輩、失礼します」

頑丈な作りの扉を潜るとそこには病院とは思えない、刑務所のような部屋があった。

壁は鉄で出来ており家具の少なくどこか寂しい部屋の奥には、四肢と耳が欠落して口が異様な方向に曲がり髪がゴッソリ抜け落ちた人間の様な"何か"が居た。

「す”つ”つ”と”ま”つ”て”い”た”よ”お”お”ラ”ア”ン”ン”」

「長期の任務で中々顔を出せずに本当にすみません。今日も先輩の好きなドーナツを10個買ってきましたよ。はい、口を開けてください」

ランが"アレ"に向かってエサをあげている様子は酷く悲しく、おぞましい以外の言葉が見当たらない。

2つのドーナツを頬張った”アレ”は嬉しさを表現するために顔を歪ませている。

イヴから見えた"アレ”は、お伽話の悪魔そのものだった。

「あ”は”は”は”お”い”し”い”い”い」

と赤ちゃんのように大声で叫んでいる。

「そ”う”い”え”ば”ラ”ン”の”と”な”り”の”こ”は”た”れ”た”い”?も”つ”と”こ”つ”ち”に”よ”つ”て”は”な”そ”う”よ”お”」

「イ、イヤ・・・」

泣きながら後退りをしていくイヴを見て、"アレ"は何かを表現するために顔を歪ませる。

「お”ま”え”も”お”ま”え”も”そ”うな”ん”だ”な”あ”!!!」

すると、突然部屋に置かれていた少ない家具が宙に舞い、襲ってきた。

「右に避けろ!」

飛んできた家具はイヴの左をかなりの速度で通過し壁に当たって壊れる。左に避けてたらただ事では済まされなかった。

同時にランは華麗な体捌きで飛び交う家具をスレスレのところで避け、空いていた”アレ”の中の口に薬を入れた。

すると、途端に落ち着きを取り戻し空に浮いていた家具は、全て地に落ちた。

壁に当たりバラバラになった木材の家具はどこか虚しい。

大丈夫?とこれまた慣れた様にイヴに向かって尋ねる。

「さっきのは、その・・・先輩さんの能力ですか?」

「サイコキネシス。今は自分の意思では使えないとは言ったが感情が高まると暴発してしまうんだ。すまないね」

とランは謝る。薬を飲んでからぐったりしていた”アレ”は、「ラ”ン”ン”き”て”い”た”な”ら”お”こ”し”て”く”れ”よ”お”」と蠢いた。

「ごめんなさい。それと、今日はドーナツを8つ持ってきましたよ。口を開けてください」

イヴはもう廊下に出ている。



「甘いやつとブラックどっちがいい?」

頭を下げながら苦いのが飲めないイヴは甘い方を選ぶ。

病院の中にある庭の青々と茂っている木の下。ベンチに座っているイヴにランは、自動販売機で買ってきた甘い方のコーヒーを手渡す。

参ったな、と苦笑いしながらランは苦手なブラックのコーヒーを開けてちょこちょこ飲む。

苦いのなんのでむせているランを気にもとめずにイヴは「私もいずれあんな風になっちゃうのかな・・・」と怯えながら呟いた。

ようやくアルバーンの意図が理解出来た。戦場の悲しさ、能力の恐怖、残極なものを見せておくつもりだったんだ。

「このケースは特殊。普通に能力兵として活動している以上はあの様になることはないと思うよ。だから能力兵の先輩として恩師から教えて貰った”俺たち”のルールを教えてあげよう」

と言うと、イヴの方を向き手を数字の1の形に変える。

「その1、軍の仕事以外で能力を使い相手を傷つけてはいけない。これは常識。当たり前だ」

「その2、自分が能力を持っていることをひけらかさない、自慢したりそれだけのことで自分が特別だとは思ってはいけない。能力を持っていたって脆弱な人間だということは変わらないし、能力なんかただの個性のひとつに過ぎない。能力ばっかに頼っていてはいけないよ」

「その3、能力で軍の仕事以外で得れる個人の利益を生み出してはいけない。俺だってやろうと思えば能力を使いカジノで億万長者にでもなれるだろう。だけど、能力を悪用すれば世界の均衡ですら崩しかねない。ちゃんと正規に働いてお給料を貰おう。幸いかなり高いし」

「その4、能力を持つものとして全ての行動において責任を持たなくてはならない。足掻きながらでもいい。もがきながらでもいい。集めた本当の戦う意味を考えよう。これからも道を選び、私達が歩くための未来へと振り返らず迷わず進め」

「最後に!能力は大切な人を守るために使おう」

以上!とランは話を切り上げ、後ろにある少し錆び付いたリサイクルボックスにやっとの事で飲みきったブラックコーヒーを放り込んだ。

もう二度と飲まない、そんなことを考えていたらイヴが振り向き声を掛けてきた。

「ラン少尉。こんな私でも立派な能力兵になれますか?」

「なれるさ、きっと」

2人を隔てる厚い壁は少しだけ薄くなった気がする。

すると不意に2人のスマホが鳴った。

「ゆっくり休めそうにないや」



あの後、軍からの電話を受け取った2人は病院を出て、すぐさま軍の本部にあるアルバーンの部屋に向かった。

「急な呼び出しすまない。文化協商が莫大なレアメタルと石油を数百台の高機能トラックを使い創造組織にまで売り捌きにいくようなのだ。南アフリカから船舶を使いインドで停めそこから高機能トラックを使い創造組織の大本山、旧東ロシア領まで運んで来てくれる」

「それを、非安全地域で迎え撃ち、奪うと言うことですね。」

とランが見越したかのように話すと、笑みを浮かべ「そうだ。馬鹿な文化協商はコスト削減、時間短縮のために安全地域を通らずに、最短距離のゴビ砂漠を通ってくれるとのことだ。」

また休みが潰れると、嫌な顔をしているとアルバーンは「ラン。久々の休みのはずなのにすまないね。能力兵の待遇についてはもう一度会議の方で再度見直すように私から伝えておくよ」と申し訳なさそうにしていた。

そこで話に入りずらそうにしていたイヴがやっと口を開いた。

「えっと・・・次の作戦で組むはずだったチームの方々は?」

「生憎、他の件でまだ戻ってこれていない。今回は能力兵2人として向かってもらう。イヴ伍長は初めての戦場だが、回復に専念してもらう為ベースゾーンからは極力出ないでもらいたい。だから、ラン・・・」とアルバーンが言いかけると、「いつも1人でこなしていたんで対して変わらないですよ。」と答えた。

「それなら良かった。続けるが、こちら側で確認出来る文化協商側の戦力は一般兵が2万前後、能力兵は創造組織から1人能力兵を雇ったらしく文化協商側の能力兵と合わして3人だ」

予想より大きな戦力差に部屋の空気がガラッと変わる。

「相手の能力兵のネームとレートを説明する。文化協商側の2人の能力兵は凛姉妹、推定Dレート、能力不明、主な攻撃方法は遠距離からの正確無比な爆発弾の狙撃。能力が不明なので注意されたし。雇われた解放同盟側の能力兵は、イヴァン=キンレンカ、通称バリアクイーン、Aレート、能力はバリア、能力や爆弾あらゆる外からの脅威を広範囲守ることが出来る厄介な奴だ。」

そこにイヴはそっと、「レートとは一体?」と質問する。

軍の無能な指導部は何を教えていたんだ?とアルバーンは指導部に対してイラついたが「レートとは能力者の能力の強さを上からS、A、B、C、D、Eの6段階に分けて指標したものだ。ちなみにイヴ伍長はレートはCだ」と噛み砕いて説明する。

「そして、先輩のラン少尉のレートはSだ。」


ヘリコプターの窓からイヴは発達した都市を見下ろしている。ここは旧カザフスタン領の首都アスタナ上空だ。いつもより狭く感じる後部座席にランは行儀よく座っている。ボーッとしていふイヴを見兼ねたランは「ゴビ砂漠まで時間があるからスマートフォンとかいじってたり、本読んだりしていいんだよ。」と話しかけた。

「いえ、景色を見たくて・・・ラン少尉はとても難しそうな数学の本を読んでいらっしゃるのですね。」

「ランでいいよ。一々階級名を付けるのめんどくさいでしょ。歳もそこまで離れてないし、何よりこれから作戦を共に行っていく戦友なんだから。あとこれ読んでみる?いい感じの解説が載ってるんだ」と少しウキウキしている。

「いえ、大丈夫です・・・あ、あと、ランさんって呼んでもいいですか?」

もち、とランは笑顔で返した。

「そういえば、ランさんはSレートの能力兵だったんですね。そんな方と組ませていただけるなんて光栄です。」

「確かにSランクの能力兵は世界に28人しかいないけど、その中でも俺は最弱さ。なんならAレート相手にすらまともに戦えないこともある。未来予測は攻撃のための能力ではないからね。だが、5億回の試行の中で最善の未来を選べるということは、まともな武器と装備さえ整っていれば最大の攻撃にも防御にもなる。数十秒より先の安全が確保されてるとも考えられるし」

「それが通用しなかった相手はいるんですか?」

「自慢ではないが、戦果だけみるなら上から評価されている。ただ1人、後にも先にも俺の能力兵人生で勝てる気がしない相手はいる。”盲目のアリア”解放同盟最強の能力兵だ」

「そんな方が・・・そういえば、ランさんもそのコードネーム?みたいなのはあるんですか?」

下を俯き、数秒が経つ。

「”ラプラスの悪魔”」




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