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#7 年齢の離れた『親友』

「成る程! あの『マヨネーズ』と言うソースのコクは『フラメル胡麻の油』が決め手だったのか!」

「はい。 後、此方の『トマトソース』を煮詰めて濃くした物を『ピューレ』と言って、今作っているのは『ピューレ』に味付けをした『ケチャップ』と言う物になります」

「おお〜っ……!」


 その日、俺は孤児院の台所で『調理』の実演を行い、横では若い眼鏡の男性が手順を見る度に感心しきった声を上げていた。


▼▼▼▼▼


 レイナとの『会話』の翌日、互いに『先生にバレてないか?」と戦々恐々としていたが、特にその様な様子は無く『ホッ』としていた処で、先生の知り合いが訪ねて来たので俺は『応接室』へと向かった。


 『応接室』は文字通り『お客様を迎える部屋』なので、俺も掃除くらいでしか入った事が無かったが、他の部屋の家具より上等な事務机やソファーが置かれていて、机の花瓶には子供達が摘んできた花が飾られていた。

 俺が入室した時には、既に先生と『お客様』が座っていて、柄にも無く少々緊張しながら先生の隣に座った。


「リオン君、此方は私がとてもお世話に成っている商人のセヴォンさんです。

この孤児院の設立等でも、大変ご尽力して頂いたのですよ」


 成る程……、所謂『スポンサー』の様な感じか……。


「リオン君、初めまして。

セヴォン・トレーサーと申します」

「此方こそ初めまして、リオンです」


 と、ちょっと『硬過ぎた』かな……。

 どうも最近、砕けた口調や少し『乱暴』な言葉使いの環境に居たので、畏まった挨拶なんて久し振りだから少々不安に成った。


「うん、先生の仰っていた通り、とても利発そうな子ですねぇ。

職業柄で、つい目を見てしまいますがとても澄んだ良い目をしています。

間違いなく『大成』する器ですね!」


 どうやら話し方は特に問題は無かった様だが、先生がどう言う風に伝えたかは知らないがセヴォンさんは俺の事を相当『ベタ褒め』して来る。

 最初は『社交辞令』かと思ったが、口調や態度を見る限りでは本気っぽく『褒めて貰う』自体は嬉しいものの、むず痒くて仕方が無かった。


 俺も、あまり宜しく無いと思ったが『ざっと』セヴォンさんを観察する。

 年の頃は先生より少し上、金髪で藍色の瞳で眼鏡をしている優男と言う感じで、『前の世界』だったら『IT企業の若社長』的なイメージだ。

 其れに『子供』の俺にも敬語を使う辺り、礼儀作法はしっかりと弁えていると見える。

 そして、左手薬指の指輪で既婚者なのも分かった。

 ぶっちゃけ、先生に少しでも『色目』を使ったら、『『ちょいと』過激な妨害も辞さない』と構えていたが、会話の流れで家族の話に成り奥さんと娘さんをとても大切にしている(所謂いわゆる『愛妻家』兼『親バカ』タイプ)のが強く伝わり、俺の杞憂に終わった。


「と、申し訳ありません……。

妻と娘の話に成るとつい……」

「いえ、セヴォンさんが凄く良い人なのが、とても伝わりました。

あ、セヴォンさん、ちょっと緊張してしまうので敬語じゃ無くても大丈夫ですよ」


 セヴォンさんは驚いた様に先生を見て、先生も苦笑しつつも頷いた。


「そ、そうかい? こんな感じで良いかな?」

「はい、僕も正直その方が楽です」

「はははっ、申し訳ない。 商人足る者、礼儀作法は『基本中の基本』何だけど、子供相手にはやっぱり堅過ぎたかな……。

コレは反省しなくては……」


 うん、間違いなく『良い人』だ。

 正直、『お人好し』過ぎて騙されるのが心配に成るくらいに……。

 そう思って、先生に視線を向けると『同じ心配』をしていたらしく、微苦笑をして頷いていた。


「と、いかんいかん。 また話が逸れてしまった……」


 と、頭を掻きながら謝るセヴォンさん。

 『漸く本題か』と釣られて苦笑したが、一度目を瞑って開いた後のセヴォンさんの顔は、先程とは違い『1人の商人』としての顔に成っていた。

 所謂『仕事モード』と言った処で、その真剣な表情に思わず背筋が伸びる。


「(ゴホン)実は以前、商談の帰りに村で食事をした時に『見た事の無い』ソースを食べてね。

其れがとても美味しくて、聞いたら作ったのがノルン先生の孤児院の子で、しかもまだ7歳だって知って驚いたんだ。

残念ながら、その後は『大事な商談』が立て込んで、中々『此方こっち』に来れなかったんだけど、今日漸く君に会えたと言う訳なんだ」


 その話を聞いて、俺は『あの事』を思い出した。

 その日、『何時ものローテーション』で村の食堂で働いていた時だが、料理を作っている時や客が食事をしている時に味付けが『岩塩』や『数種類のハーブ』に『粒マスタード』の様な物のみだと言う事に気付いた。

 調べてみると、どうもフラメル村の存在する『バロール大陸(『前の世界』で言う所のヨーロッパ)には、王室や貴族にしか手に入らない高級な『輸入品』を除いたら、『塩もとい岩塩』や果物から作られた『果糖』や『ビネガー(所謂お酢)』に『ハーブ』、『粒マスタード』くらいしか調味料の類いが無かったし、改めて思い出したら孤児院の食事の味付けも、結構『ワンパターン』だった。


 『人間、塩を振れば大概の物は食える』なんて言うが、幾らかは量や配合を変えて調整しても『ワンパターン』は味気ない事この上無い。

 其処で俺は、休憩時間等で3つの調味料、『マヨネーズ』、『ケチャップ』、『ドレッシング(胡麻)』を自作したのだ。

 『前の世界』でも『マヨラー』や『ケチャラー』なんて言葉が出来るくらいに愛好家を産み出し、『ドレッシング』も『野菜嫌いの人』が野菜をを食べられる切っ掛けにも成る『魔法の調味料』だ。

 材料の方もフラメル村が『旅』や『交易』の中継地点なので入手も楽だし、村名物の『胡麻油』が有ったのも幸運だった(個人的にだが、胡麻油を使った『マヨネーズ』は、サラダ油を使った物よりも香ばしくて美味い!)。


 作った物を食堂の皆に味見して貰ったら、全員が夢中になって舐めたので『手応え』を感じ、早速その日から出して貰ったら、思った通り客も『ワンパターン』の味付けには飽々していたらしく、飛ぶ様に注文が入った。

 おそらく、その翌日以降にセヴォンさんが食べに来たのだろう。


「あの味には、もう本当に感動してね!

『コレ』を王都等で出したら、絶対『流行はやる』って確信したんだ。

『輸入物』の調味料なんて、一般の人は逆立ちしたって手に入らないし、僕みたいな商人でも年に一回『味わえた』ら幸運なくらいさ。

其れに比べたら、『あのソース』は遥かに安価で作れるし、いやらしい話だけど『儲けに繋がる』って直感したんだ」


 セヴォンさんは、『平静』を装いながらも興奮した口調で力説していた。


「つまり、『市場しじょう』を独占する為に『レシピを教えて欲しい』と言う交渉にですね?」

「話が早くて助かるよ。

他の地域でも徐々にだけど話題になって来てるし、『交渉』ってある意味『早い者勝ち』だからね。

僕はノルン先生とも『繋がり』が有ったから、……まぁ『抜け駆け』には成るかな……。

でも『商人』足る者、『したたか』で無いとね」


 成る程……、『お人好し』に見えて実は相当な『やり手』だな……。

 特に『いやらしい部分』や『したたかな面』を変に隠したりせず曝け出す所に、寧ろ『好感』が持てた。

 正直、この様な人と『パイプ』を持った方が後々の大きな利益に繋がるだろう。


「分かりました。 僕なんかが作ったモノで宜しいのでしたら、喜んで『レシピ』をお教えします」

「! ありがとうリオン君‼︎ 其れと『僕なんかが』なんて言う物じゃないよ‼︎

『アレ』は一種の『発明』から、胸を張って良いよ‼︎」


 喜びを爆発させる様に、セヴォンさんは身を乗り出して俺の手を掴んだ。


「よし! そうと決まったら、先ずは『契約』を結ばないとね‼︎

えっと……、『レシピ』の権利譲渡と其れに対する権利代に……」


 其れから数十分程、俺達は契約に関する打ち合わせをした。


「開発者はリオン君ですけど、契約内容の確認とサインは先生がして頂いて宜しいですか?」

「はい、確かにリオン君もまだ7歳。

流石に『子供』に任せるのは『アレ』ですからね」

「勿論、『商人の誇り』に賭けて、リオン君が不利に成る取引は決して致しません‼︎

公平に乗っ取った適正な価格、内容を提示します。

もし不満や不備が有りましたら、いつでも仰ってください。

リオン君も分からない事が有ったら遠慮なく言ってね」


 セヴォンさんはそう言ったが、俺は『この人なら信用出来る』と直感ながら感じていた。

 其れは先生も同じで、俺の方を向きながら微笑みかけると、セヴォンさんへ向き直し、


「いえ、何も心配していませんよ。

私達はセヴォンさんを信頼していますから」


 柔らかな笑顔ながら力強く応えた。


「ありがとうございます!

では近日中に書面を起こして来ますね。

あ、そうだ」


 セヴォンさんは思い出した様に、俺の方を向いた。


「リオン君、もし宜しいなら『マヨネーズ』とかの作り方を見せて貰ったも良いかな?

実物は見た事は有るんだけど、作り方の方も如何しても見てみたくて……」


 ……成る程、『本命』は其方か……。

 どうやらセヴォンさんは、『インテリな大人』に見えて『好奇心旺盛』な人みたいだな。

 まぁ、『好奇心』は商人に取って『大きな武器』の1つだ。

 俺も彼の人柄は気に入ったし、もしかしたら此れから『末長い付き合い』に成るかもしれない。


「ええ、勿論! 早速始めましょうか?」

「是非‼︎」


 まるで子供みたいに目をキラキラさせる彼に、先生と苦笑しながら、俺達は食堂へ向かった。


▼▼▼▼▼


 孤児院の皆が『何事か?』と集まって来た事も気にならない程、セヴォンさんは夢中に成って『マヨネーズ』等の作り方を彼是あれこれ質問しながらメモに書き起こし、『出来立て』を味見する度に感動に震えていた。

 そして一通り作った物を瓶に入れ(因みに蓋はコルク栓で、『王冠』や『スクリューキャップ』の様な物は無かった。)、『お土産』として渡したらとても喜んでくれた。


 その後、俺達は再び『応接室』に戻る。


「いや〜、ありがとうリオン君‼︎

『商談』を受けてくれた上に、こんなにお土産を持たせてくれて」


 セヴォンさんは、すっかりホクホク顔で上機嫌だった。


「いえ、喜んで頂いて僕も嬉しいです。

……あの、質問が有るのですけど、宜しいでしょうか?」

「ん、なんだい? 何でも聞いてくれよ!」

「はい、では……。

正直、僕の考えた『調味料』って、『作り方』自体はとても簡単で誰にでも作れます。

最初は『物珍しさ』でセヴォンさんの所から買い求めて来ますけど、いずれは自作する人も出て来る筈ですから、ぶっちゃけ『儲け』には繋がらないかと思うんですけど……」


 そう告げるとセヴォンさんは一瞬目を見開くも、咳払いをして真剣な表情に成った。


「リオン君は本当に聡いねぇ〜……。

いや、全く持ってその通りだ。

確かに、簡単に誰にでも作れるから『大きな儲け』には繋がらない。

有る意味で言ったら、一種の『名誉』みたいな物なんだ」

「『名誉』、ですか……?」


 首を傾げる俺にセヴォンさんは大きく頷く。


「僕達『商人』に取って、1番の『宝』は『信頼』なんだ。

勿論、『この業界』では『騙し合い』なんて日常茶飯事さ。

でも、年端も行かない子供のアイデアを盗んで儲けるなんて、『商人』の風上にも置けない『面汚し』以下の外道だ。

『儲ける』のも確かに大事だけど、『信頼出来る関係を構築して、まだ『この世』に出ていない『商品』を探し出して、『其れ』を誰よりも最初に取引きして『商売』をする』。

『商人』に取って、これ以上無い『名誉』なんだ」


 ……成る程なぁ。

 『商人の世界』の『知られざる部分』を知って、俺は目を丸くした。

 確かに『売れる物』を探し出す『見極め』や『嗅覚』は『商人』には必要な才能だ。

 『誰』も見た事の無い物を見つけ出し『取り引き』したと成れば、其れは後世に残る『名誉』と成るだろう。

 『著作権』なんて物が存在しない『此方』でも『プライドり』を持って『商売』をしているセヴォンさんの姿勢に、尚の事信頼度が上がった。

 ならば俺も『信頼』に応えねば成るまい。


「あの、セヴォンさん。

多少ですけど、『儲け』に繋がる方法が有るんですが試して頂けますか?」

「⁉︎ そ、そんな方法が有るのかい⁉︎」

「ええ。 先ず最初に『材料』を少し変えます。

例えば『マヨネーズ』ですが、僕の作り方では『フラメル胡麻油』を使いますけど、コレは他の食用『植物油』や『動物油』で代用出来ます。

一般に販売するのは『胡麻油無し』の方を、『胡麻油入り』は少し高めの値段で売るんですけど、一般の物を買って頂いて一定の金額に到達したら『オマケ』として『胡麻油入り』を1瓶無料でお渡しすると良いと思うのですけど?」

「ふむふむ……、『オマケ』か……。

確かに、その売り方なら『胡麻油入り』は高級感が出るし『胡麻油無し』の方も需要が有るね。」

「其れと、売り出すのも『少な目』にした方が良いかもですね。

その方が『買う側』も『買っておかないと!』と思う人が出て来やすくなりますし。

後、『マヨネーズ』は『油』を多く使う物なので、あまり使い過ぎると『胸焼け』や『太り過ぎ』の原因に成って、健康を害される場合も有りますから」

「成る程、成る程……。

いやしかし『お客』側の方も気遣うとは、リオン君『目の付け所』が違うねぇ〜。

ホント、僕らも見習うべき処だよ」


「アハハ……、ありがとうございます。

後、セヴォンさんって『上流階級』の方との『繋がり』的な物って有ります?」

「ん? 確かに『先代』の頃から贔屓にして頂いている方は何人も居るけど、どうしてだい?」

「でしたら、『此れら』の利益の一部を上納する代わりに『公印』を頂ける様に交渉して頂けませんか?」

「『公印』……?

‼︎ そうか! 其れなら『この商品』の『独占』は、より強固に成る‼︎

『作り方』が簡単だから、類似品は出ても贋作なんか作ったら、即『牢屋』行きだ。

其れに、『誰も見た事の無い珍しい物』なら王家や貴族が黙っている訳が無いし、何より『オマケ』の相乗効果も有るから、尚の事買い手が付くぞ‼︎」


 『公印』が付くと言う事は、『前の世界』で言う処の『ブランド』の様なモノだ。

 『有名人が愛用している』と成れば、手に取ってみたく成るのが人の性。

 其れに『此方』では『ブランド』と言う『概念』其の物が希薄な為、有効な手段だろう。

 察しの良いセヴォンさんは、直ぐに『有用性』に気付きメモに筆を走らせた。


「いや〜、リオン君は『商人』としての才覚も素晴らしい限りだ。

こんなに優秀なのに、『魔力』が低いのが残念で成らないよ……。

『天は二物を与えず』なんて言うけど、本当なんだねぇ……」

「いえ、そんな……。

あの、因みにセヴォンさんは、どのくらい魔力が有るのですか?」

「ん? ああ、恥ずかしながらB+級は有るかな?

お陰でよっぽどの事が無い限りは、『護衛』とかを雇わなくて済んでいるから『お得』なんだけどね」

「其れにセヴォンさんは『小槍ショートランス』の達人で風属性の持ち主なんですよ。」

「風属性⁉︎ 僕も『風』持ってますよ!」

「お、そうなのかい⁉︎

いや〜、此処ら辺じゃ『風』持ちは少ないから嬉しいよ!

あ、リオン君、『言い方』から思ったんだけど、もしかして『複数持ち』かい?」

「あ、はい。

『風』以外に『火』と『光』を持ってます」


「うわ〜、其れは尚更勿体無いなぁ〜……!

と、いかんいかん。 また話が逸れてたよ(苦笑)。

それじゃ、『ケチャップ』の方はどうする?」

「そうですねぇ……、でしたら……」


 其れから更に3時間程、『商品化』への話し合いを進めている内に、俺とセヴォンさんは『年齢としの離れた親友』の様な間柄に成って行き、先生も『ソレ』を面白そうに眺めていた。


 そして、セヴォンさんが帰宅される際に、『互いの末長い友情と関係』、『商売の成功』を祈る意味で『ガッチリ』と固く握手を交わした。

 ……握った手は、か細くも力強くて温かかった。

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