#3 深まる疑念
俺は今日も今日とて、授業に参加し勉学に励んでいた。
今日の授業内容は『魔道具』についてだ。
『魔道具』とは、その名の通り魔法が付与された道具の総称で、ポピュラーな物で言えば『炎の剣』や『風の弓矢』が上げられ、その種類は正に千差万別。
例えば『水』属性しか持たない魔導士が『炎』の魔道具を使って戦う等、得手不得手に合わせて様々な使い方が出来る。
只、『魔道具』の制作には材料や『魔法』の付与等で相当な手間が掛かるので非常に希少な為、其れ相応の値段に成ってしまう。
其れこそ初級の魔法しか使えない物でも、下手したら屋敷が買える程だ。
まぁ閑古休題、俺は前々から気になっていた事をノルン先生に聞こうと思い授業が終わった後、先生に声を掛けた。
「ノルン先生、少しよろしいですか?」
「あら、リオン君。 どうしましたか?」
おっと、失礼。
『リオン』と言うのは、『此方の世界』での俺の名前だ。
何でも『六大勇者』の1人で有る人族の勇者から肖ったとの事だ。
響きが良く、俺はとても気に入っていた。
「すみません、ちょっと聞きたい事が有って……。」
「リオン君は、本当に色々な事に熱心に取り組まれますねぇ。
授業で分からない事が有れば直ぐに聞きに来るなんて、素晴らしい事ですよ。」
先生は、そう言って微笑みながら俺の頭を撫でてくれた。
正直擽ったいけど、何だか嬉しい。
「いえ、授業の事で無くて……。
その……、僕も『魔法』が使えるかどうかを聞こうと……。」
そう伝えた瞬間、先生はあから様に『ドキリ』とした顔に成って撫でていた手が止まり、トレードマークの耳や尻尾も『ピーン』とばかりに伸びていた。
おいおいおい、何か聞いたら不味い事なのか……?
先生は何度か口の端を引きつらせ逡巡していたが、やがて覚悟を決めた様に『ハァ〜』と深呼吸をして、俺の目線に成る様に膝を着き、
「結論から言いますと……、リオン君は『魔法』の才能は『無きに等しい』と言わざるを得ません。」
と、重々しく告げた。
「……リオン君がまだ赤ちゃんだった時に調べましたから、間違い有りません。」
(『赤ちゃんの時』と言えば……。
ああ、あの時手を翳してた『アレ』か!)
一般人でも魔力の高さは大体分かるのだが、『魔女』の先生なら尚の事分かると言うモノだ。
あの『手を翳す』のは、恐らくより正確に調べる手段なのだろう。
合点が行った顔を『ショックで固まった』と思ったのか、先生は俺を優しく抱きしめた。
「でも、決して嘆かないで下さい。
何も『魔導士』に成る事だけが、『この世界の全て』だなんて決して有りません!
先生も、この孤児院で沢山の子供達を見て来ました。
中にはリオン君の様に『魔法』の才能を無い子達もいましたけど、そんな子達程『商人』や『職人』として大成したり独り立ちしたりと、寧ろ『魔導士』に成る事以上の幸せを掴んだ子も沢山居ます。
……ですが、『魔導士』の夢を諦めきれず才能が無いにも関わらず無理をして取り返しの付かない事に成った子も見て来ました。
リオン君は良い子ですから、どうか『自分の身の丈』に合った人生を送って下さいね。」
時折り、目を潤ませて抱きしめる腕の力を強めながら先生は俺に語りかけた。
先生の反応から察する限り、その『取り返しの付かない』事に成った連中の末路は相当悲惨だったのだろう。
でなければ、3歳の子に『身の丈に合った人生を送れ』だなんて言う筈が無い。
たった3年だが、ノルン先生の厳しくも優しくて温かい人柄は十二分に分かっているつもりだ。
「じゃあ先生、これは本当に興味本位なんですけど、僕の魔力の級はどれくらいに成るのですか?」
「……そうですねぇ、C-級ぐらいだと思います。」
先生は躊躇なくハッキリと口にした。
C-級って言ったら、下から2番目か……。
「先生、ありがとうございました。
先生の言う通り、自分に合った人生を送れる様に、頑張って行きます。」
「はい、良いお返事です。
あ、私はこれから用事が有りますので、もう行きますね。」
「はい、ありがとうございました。」
先生は、俺を一撫ですると出かけて行った。
「…………。」
先生の前では、ああ言ったものの俺の中では更に『疑念』が深まった。
勿論先生は間違いなく『嘘』は付いてはいないし、俺を心配しているのも本気だった。
でも、(確か先生は23くらいだったか。)こちとら先生の倍以上の人生経験を積んでいるので、『隠し事』等は大体察してしまう。
『あの時』の先生の表情は、間違いなく『予想外』から来る『驚愕』の表情だった。
勿論、だからってアレコレ追求したい訳じゃないし、何か理由が有るからこそ先生も『隠し事』をしているのだ。
『……其れに先生、やっぱり『大きい』し柔らかかった……。』
って、イカンイカン!
前世じゃ『女っ気』が無かった物だから、変な処で反応してしまう!
平常心、平常心‼︎
俺は必死に煩悩を振り払い、丁度昼食時でも有ったので食堂へ向かった。