#1 目覚め
「ん……。」
柔らかな日差しが顔に当たり、俺は『ゆるゆる』と目を開けた。
其処には白い天井が広がり、同時に背中に柔らかい布団の感触を感じた。
其れらを見る限り、恐らく『此処は病院だろう』と容易に想像が付いた。
『マジかよ……。
『あの』状況から助かったのか、俺……。』
全く自分の『悪運の強さ』には、程々呆れかえるモノだ。
まぁ、今までも自分の『巻き込まれ体質』のお陰で散々酷い目に遭っても、何だかんだで切り抜けて来たからなぁ……。
唯、『此れから』の事を考えると気が重い……。
『……指先すら1mmも動かねぇ。
こりゃ、リハビリに相当掛かるなぁ……。』
怪我の影響からか首も全く動かないから、身体全体を見る事は出来ないけど、自分が考えているよりも重傷なのは間違いないな……。
リハビリも年単位で掛かるだろうな……。
『まぁ、先ずは回復が先だな……。』
と、此処まで考えて急に強烈な眠気が襲って来た。
恐らく薬の影響だろう。
兎に角『回復が第一』と、俺は目を閉じた。
どれくらい眠っていただろう……。
ふと人の気配を感じ、薄らと目を開けると誰かが部屋に入って来たのが分かった。
寝起きでぼんやりとしていたが、その人が俺が寝ているベットの横に来ると『女性』だと言う事が分かった。
大変失礼だが、かなり『ご立派』な胸部装甲が目立っていた。
年甲斐も無くドキドキしていたら、その女性は俺の額に翳した。
『何をしているんだろう?』と訝しげに思っていたら、女性は一瞬目を見開き驚愕の表情を浮かべたが、その後すぐ哀しそうな、でも優しい顔をして俺を抱き上げた…………って、ちょっと待て⁉︎
自慢じゃないが俺は、185㎝の85㎏だぞ⁉︎
『其れ』を軽々と持ち上げる何て、この人見かけに寄らずの力持ちか⁉︎
其れに今更気付いたが、女性の服装は所謂『ナース服』で無く、言わば『シスター』の様な服装だった。
そんな俺の混乱を余所に、その女性は俺を抱っこすると赤ん坊をあやす様に背中を撫でながら、子守唄らしきものを歌った。
言葉は分からなかったが澄み切った歌声は、とても心地良いモノだった。
しかし、自分で言うのも何だか俺45のオッサンだぞ?
それなのに何で……?
その答えは、その女性(其処で初めて、女性の頭に猫の耳を見とめ、彼女が所謂『獣人』と言うのが分かった。)が子守唄を歌いながら部屋を歩き姿見鏡の前に来た時に明らかになった。
其処に写っていたのは、女性と抱っこされている赤ん坊だった。
「………へ?」
自分でも、何ともマヌケな顔だと思ったが其れ程までのショックを受けた。
とどの詰まり、俺自身が赤ん坊になっていたのだった。
『な、何だよ、コレ……⁉︎
何かどうなってんだ……⁉︎』
しかも驚く事は続き、女性は窓際まで歩を進めると窓を開けて、俺に外を見せてくれた。
外では子供達が遊んでいたり、何かを練習したりしていた。
そして、その練習風景を見て更に驚愕した。
子供達は、手の先から炎だの水だのを放っていたのだった。
正に『ファンタジー』等に出てくる『魔法』そのものだったのだ。
『本当に………、何がどうなってんだーーーーーーーーーー‼︎‼︎⁉︎』
それから時間は流れ、夕暮れが迫りつつ有る時間帯……。
食事等が終わり、俺は再びベットに寝かされた。(風呂に入れられた時は、(赤ん坊であったとしても)『恥ずか死に』するかと思った……。)
『成る程、コレが所謂『異世界転生』って奴か……。』
『ファンタジー』系の物語や小説、ゲームやアニメで『御約束』の1つである『異世界転生』。
現状を理解するのに、さほど時間は掛からなかった。
やっぱり『童心』は忘れるモノじゃないな……。
『しっかし、『事実は小説よりも奇なり』って言うけど……、まさか自分自身に訪れるとは……。』
しかし、其れと同時にショックも受けた。
やはり『俺』は、『あの後』で命を落としたと言う事だ。
ぶっちゃけ『未練』タラタラだし、テロ連中には怒りが湧いたが、一番悲しかったのは『約束』を守れなかった事だ。
あの娘、俺の料理を楽しみにしてくれてたのになぁ……。
『っと、もう終わった事をアレコレ考えてもしょうがないな!
……まぁ、割り切れない所は確かに有るけど、切り替えないとな‼︎』
何でかは分からないけど、俺はある意味『人生をやり直せるチャンス』を貰えたと言う事だ。
其れに、某赤と銀の巨人が出てくる漫画で『『死』と言う物は存在しない。生きる世界が変わるだけだ。』って言葉も有ったが、今の状況が正に『ソレ』だ。
其れに『『魔法』が存在する世界』なんて何ともワクワクする響きじゃないか!
まぁ、先程の女性の反応を見る限り、所謂『俺TUEEEーーーーーー‼︎』と言う感じにならないと思われるが、其れもまた良し‼︎
やっぱり零からコツコツと成り上がって行くのが王道だし、其方の方が遥かに楽しいってモンだ!
そして、今の俺がするべき事は、ただ1つ。
『寝るか。』
赤ん坊になってしまった以上、身体が成長して自由に動ける様になるまでは、大人しくしている他あるまい……。
其処まで考えたと同時に睡魔が襲って来たので、俺は眠気に身を任せた。
しっかし、45になって『こんな事』を言う日が来るとは、思わなかったな……。
『早く大きくなりたいなぁ……。』