表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

3「魔法戦士ギルド!」

後数話で説明終わって旅立てそうなので初投稿です。



 空には鮮やかな青を背景に綿あめの様なふんわりとした雲が浮かんでいる。リアルと連動した季節は春で、気持ちのいい風が全身を吹き抜ける。


 町には賑やかな音楽が流れており、レンガ造りに混じる木造の家屋、教会、道具屋、裏路地など目につくもの一つ一つがチセの好奇心を刺激する。


 中には市場の様な場所もあり、チセは幾度となく店主のNPCから声を掛けられた。


 チセはそんな場所に引き寄せられる度に何とかして心を律し、目的地へと足を向けるのだった。


(うう……でも気になるなぁ。後で行こっと)


 それでも気になるものは仕方ない。チセは心の中でそう決めると光の方へと歩いて行った。


 そして光の前についたチセ。


「うわー……おっきい……」


 そこにはまるで魔女の帽子の様な屋根の建物があった。外側の木材は所々補修をしているのが見て取れ、随分と長い間使われてきたような年季を感じる。正面の看板には英語で〝Magic Warrior Guild〟と書かれていた。


 外見を眺めていると、到着を確認したらしく青い光が消滅する。どうやらここが魔法戦士ギルドで間違いなさそうだ。


 他の建物とは違い所々に鮮やかな黄色や赤色が塗られており、レンガ造りや木造など、赤や茶色系の色で統一された町にはどことなく異質な存在に思えた。


 また、ギルド内部からは酒臭い臭いが漂っており、人通りも殆どない。チセは少し不安を感じた。


(なんか怪しい……でも、天使さんが言うってことは変な場所じゃないよね……?)


 チセは一通り建物の全容を見渡す。GMである天使のお墨付きなのだ、どれだけ変な場所に思えてもそれはゲームの演出の筈。


 チセはそれでも暫し入るか逡巡していたが、とうとう緊張しながら建物に入っていった。


 スイングドアを通ると、中は酒場のようになっていた。どうやら、食堂も兼ねているらしい。天井は高く開放感があり、窓から入った日差しと吊り下げてあるランプによって全体が明るく照らされていた。


 壁の掲示板には料理のメニューと共に一面に幾つかの依頼が貼り付けており、中には血痕の様な物が付いた物騒な代物もある。


 いるだけで冒険者たちや酔っ払いの怒号が聞こえてきそうな雰囲気。しかし、いくつもある丸机で食事を摂る者は誰一人おらず、まるで景色から無理矢理人だけを取り除いたかのような妙な静けさが漂っていた。


(……お客さん誰もいないって少し変な感じ。でもゲームだから普通なのかな?)


 チセの考えていることはあながち間違いでもなかった。これはHAOの仕様であり、ギルドの登録者数に応じて盛況さが変わるというもの。一応初期のチュートリアル的なNPCは最初から存在するが、他の登場人物(陽気なドワーフパーティ、魔法剣士オンリーパーティ等)はある程度の人数が登録する事でアンロックされる。現在の登録者数は……言うまでもない。


「らっしゃーい……おや、みない顔」


 そんなことを言いながら奥から出てきたのは初老のおじさん。恰好こそそれ程奇麗なものではないが、キリっとした眉毛と深みのある皺が歩んで来たであろう人生の重みを感じさせる。


「こ、こんにちは……」


 チセが恐る恐る話しかけると、おじさんは軽く顎髭をさすりながら答える。


「おう。俺はアレン。このギルドの代表兼店主をやってる。ところで嬢ちゃんがここに来たのは食事目的……ではなさそうだな。魔法戦士ギルドへの登録かい?」


 正直仮想空間での食事がどのような物か気になる気持ちはある。しかし、多分ゲーム内のお金が必要だしまずは登録が先。

 

「はい。金髪の天使さんに言われておススメだって聞いて」


 その言葉にアレンは目を見開いて関心を示す。


「お、てことはリーディか。この名前を出すのも八年ぶりだな」


(あ、あの天使さんリーディって名前なんだ)


 地味に少しだけ気になっていたことが解決したチセであった。


「ともあれそれなら魔法を使って登録をしよう。特殊な魔法陣が必要だから、場所を変える必要がある。私についてきてくれ」


 そう言ってアレンは酒場の奥にあるドアへと入っていく。チセはアレンについて奥へと進んでいった。


 ドアの先には教会の様な場所があった。神か何かをかたどったのだろうか、四体の像に囲まれた中心には魔法陣が描いてあり、いくつもの薄明光線が降り注いでいた。


「さあ、中心に立って」


 言われるがままに魔法陣の中心に立つ。すると魔法陣が白紫色の光を放出し、チセを取り囲む。


 そのまま体の中に何か暖かいものが入るのを感じると、魔法陣はそのまま残光を残して消えていった。


 同時に視界の中心に《職業:魔法戦士を登録しました》《職業を得たことによりレベルが解放されました》と表示される。


「さて、登録は終わりだ。ステータスを確認してみな?」


 チセはステータスオープンしてみる。すると、職業欄に《魔法戦士(F)》、HPの上にLv1の表記が追加されていた。


「出来てる……これで本当に終わりなんですか?」


「ああ。こっちの登録簿にもちゃんと〝チセ〟って名前が載ってるぜ?」


 そう言ってアレンが見せてきた帳簿にはちゃんとチセの名が刻まれており、チセはびっくりした。


 登録、と言われていたからチセは何か書類でも書くのかと想像していたが、何しろここは限りなく現実世界に寄せたゲーム。勿論現実でも全てIDや顔認証を利用して済ますことも出来るが、それでもIDの記入や認識装置は必須だ。HAOではその辺りは全てデータのやり取りで終わらせ、雰囲気を重視しているようだった。


「ギルドについては職業欄を調べれば分かる。

 さて、これで嬢ちゃんも立派な魔法戦士だ。しかし様子を見るにまだ戦闘はしたことがなさそうだな。訓練場である程度の手解きをすることも出来るが、やるか?」


「お願いします!」


 チセはリーディに言われたからここに来ただけで、魔法戦士のことなどこれっぽっちも分かっていない。当然手ほどきを受けることにする。


「と、その前にスキルポイントが余ってるようだな。良ければ魔法戦士のおすすめ振り分けにしておくが、どうする?」


 チセはこれに対しては少し考えるが、どうせ自分で完璧に割り振れるわけでもない。


「お願いします」


(……それにしてもどうしてリーディは、あからさまに職業に関係するポイント振りを職業を決める前に提案したんだろう)


 チセはリーディがあのタイミングで振り分けを提案した事を訝しげに思いながら、アレンにそう答えた。


「じゃあ……ほい! これでどうだ?」


 アレンがそう言うとステータス画面が開く。

――――――


 名前 チセ

 職業 魔法戦士(F)0/50 NEW!

 種族 ヒューマン(女)

 状態 無し


 ステータス

 Lv 1

 NEXT:0/50

 HP ■■■■■■■■■■

       50/50 +30

 MP ■■■■■■■■■■

       25/25 +25

 SP  0

 攻撃 23 +13

 防御 19 +3

 敏捷 24 +4

 器用 14 +4

 知力 23 +13


 スキル

 Null


 称号

 ニュービー 


 装備

 頭部 無し

 顔 無し

 首 無し

 手 無し

 腕部 無し

 胴部 布の服

 脚部 布のズボン

 足部 無し


 所持金

 100G

 (以下略)


――――――


(バランスもよさそうだし……いいかな?)


 おそらく防御が高めなのは装備の影響だろう。見たところ問題はないように見えた。


 もっとも、みる人が見ればかなり無駄の多い降り方だと非難するだろうが、それは一部の廃人にとってであって通常プレイに大きな支障はない。


「これでいいです、ありがとうございます」


「いやいや、これくらいどうってことねぇ。よし、じゃあ振り分けも終わったことだし闘技場に向かうぞ!」


「はい!」


 チセは大きく返事して、アレンの案内で訓練場へ向かっていった。



HAO一口メモ

アレンの仕事も登録者数に応じて減っていく。現在は酒場の店主兼ギルマス兼受付。一見超多忙に煮えるが来る人数がそもそも少ないので仕事量は少ない。一応50人の登録でワンオペは解除され、可愛い受付嬢や酒場の気前のよい店主などのNPCも出現するが、当然過疎状態で出現させることはほぼ不可能。運営のこだわりが仇となったHAOあるあるといえる。

登録の抹消はアカウント削除(五年間ログインなし)と他職業への転職(上位職を除く)以外発生しない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ