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プロローグ:Holy Ark`s Onlineの盛衰

ブロックチェーン知識がガバガバなので初投稿です。

 Holy Ark`s Online。フルダイブ型(電脳世界に入れるようになったよ! という事)VR黎明期に発表された超大型タイトルのゲームだ。


 魅力的なのは何といってもその自由度。


 キャラクリエイトは目、髪、顔立ちから身長、体重、胸の大きさ、筋肉の隆起具合に至るまですべてがプレイヤーに委ねられる。勿論全てのパーツは色変更が可能だし、違う種族でプレイすることも可能。


 面倒くさい人向けにランダム機能やモデル機能も搭載しており、そこから軽くいじるだけでアバターを作ることも可能だ。


 作成を終えてからもAIが無限に作成するスキルやクエストのお陰でやりこみ要素は無限大。


 更に、舞台はフルダイブを十二分に生かしたファンタジー世界で幾ら見ても飽きないほどの美麗なグラフィックであり、日本の約1.5倍程もある超広大なフィールドという力の入れっぷり。


 当時リリースされていたゲームが教育系統や、ギャルゲー、十八禁と偏っていたことからオーソドックスなMMORPGであるこのゲームは非常に注目されていた。


 期待度が高まる中、千人規模のベータテストは始まりを告げた。


 が、その内容は惨惨たるものだった。


 アバターはぐねんぐねんと折れ曲がり、フルダイブ特有のVR酔い(自身のアバターが自分自身と認識できなくなり、酷い酔いを起こす症状)を併発。病院に運ばれるものも多数出ていた。


 それだけならバグを改善すればいい話だ。そして実際致命的なバグに関しては次々に修正されていった。しかし、ホーリーアークスオンライン(以下HAO)にはそれすら生温いバグが修正が追い付かない程膨大に発見されたのだ。それこそ日本での通称が〝AHO〟で定着する程に。


 一例を紹介する。


・おま種(お前の種族には売らねーよ)事件

 ベータテスト初日に発覚した。仕様かバグかははっきりしなかったが、有色のエルフや白人ドワーフは同じ種族からも嫌われ、町に入れてすらもらえない。特に黒人が人族の町に入れられないのは現代のアパルトヘイトだと酷く酷評され裁判沙汰になった。


・第二次おま種事件

 ヴァンパイアという〝日光に弱い〟種族を選んだ人が昼の始まりの町にスポーン、即死、リスポーンを繰り返すバグが発生。強制終了しか止める手段がなく、しかも脳波登録によりリセマラが不可能という事も相まって事実上プレイ不能に。運営の対応も最悪で、一週間そのバグは放置されたままだった。

 当時のネット上では様々な他作品のヴァンパイアが「人権はないのか!」的なことを言っているコラ画像が大量に作られた。


・なろう(チートスキル)バグ

 過去に流行ったノベルのシチュエーションに似ていることからこう呼ばれる。

 AIの暴走による仕様変更と開発の詰めの甘さが相まって、ハメ技のような手段でぶっ壊れのスキルを手に入れる事が可能に。そのぶっ壊れ具合は一人で数百人レイドのボスを撃破できるほどであり、そのプレイヤーは脳波ごと永久BANされた。(仕様の穴をついただけで永久BANという対応にも批判が集まった)

 後日投稿された赤い背景の中心で斧と鎌を持ったゲームのイメージキャラがプレイヤーを粛清しているパロディ画像は現在も〝ウラーちゃん〟という名でネット上で見かけることがある。



・精神保護解除事件

HAOにはデスした時の精神的負担が和らげられるように精神負担軽減がなされている。それは、一応設定から解除可能だったのだが……。

 ベータテスト中のある日、全てのプレイヤーの保護が強制的に解除された。当然ダメージを受けているプレイヤーは苦しみ、デスしたプレイヤーが現実世界でも精神ショックで病院に搬送されることに。幸い死者は出なかったが、これによってフルダイブがトラウマになる人が続出。開発元は行政指導を受けることに。


・透視スキル事件

 透視スキルは障害物を透過してその向こう側の光景を見ることができる。とある人が冗談交じりでプレイヤーを見たが、当然セクハラ防止の観点からか無効になった。しかし、これには抜け道があった。

 二つ以上の障害物と一緒に女性プレイヤーを見ると、服を透視することができるバグ。これを〝使った〟プレイヤーは多いだろうが、結果、女性プレイヤーは次々に引退してしまった。

 これによりレーティングが12から15に上がったとまことしやかな噂が流れていたのは余談である。


 このほかにもクエストがずさんすぎてクリア不可能な物や、侵攻するだけで無限ループを繰り返すクエスト、よく分からないアイテムの配置、効果範囲の設定ミスなどバグは湯水の如く発見され、開発元のずさんな体制が紛糾された。


 開発元はこれにより発売を延期。半年後発売予定だったのを更に半年延ばした。


 半年の延長。これだけあれば、世界的なゲーム会社なのだ、バグはきっと無くなるはず。プレイヤーという名のデバッカー達のそんな淡い思いは正式サービス開始と共に壊される。


 バグが改善されていなかったのだ。お前らベータテスト後の一年間何やってたんだよというレベルで。


 一応おま種などは治っていたが、それも他のバグを見ると面倒ごとを嫌ってそこだけ改善したようにしか見えなかった。バランスブレイカーなスキルもベータで見つかった物以外にごまんと発見され、皆で叩くはずのレイドバトルはチートスキルによるラストアタックの奪い合いとドロップアイテムをめぐるPVPでしかなかった。


 さらに追い打ちをかけたのは、同時期に発表、発売された〝Ad Astra Online〟(通称AAO)が非常に完成度が高かったという事。


 こちらはAIが不具合を自動修正する機能を付けており、不具合やバランス崩壊が驚くほど少なかった。その出来たるやレビューサイトが軒並み満点を付けるほどで、とある評論家からは「まるで別の世界に来たようだ」とコメントを残している。


 余談だが、その評論家はHAOについては「丹念に熟成されたクソ」という言葉を残している。


 HAOに向かっていた期待は全てAAOに吸い取られ、HAOは発売から一ヶ月、瞬く間にその広いオープンワールドの殆どがゴーストタウンと化した。


 焦った開発元はこの頃から本格的にバグを修正しパッチを配布するも、もう手遅れ。どうやっても人が多いAAOには勝てるはずがなかった。


 失った顧客はほぼ戻ってくることはなく、粗方のバグが改善されAIの自動修正機能を付けた時にはフルダイブVR自体の敷居の高さも相まってピーク時接続数はベータテスト以下の500人まで低下。


 50万㎢という日本の1.5倍程度の面積に、NPCを除けば1㎢辺り0.001人しか人がいないという世界一の過疎オンラインゲーになってしまったのであった。(そのNPCも他のゲームに比べて異様に少ないので、購入サイトにつけられたレビューは大抵〝人がいない〟だった)


 開発元はサービス終了を考えたが、ブロックチェーン技術でリアルタイム通信を可能にしていた事によってデータが分散、GM権限をうっかりミスでAIに渡してしまったことにより一元的な終了が不可能に。


 こうして公式的にはサービス終了したHAOだが、ユーザー間のチェーンとAIのGMにより公式サービス終了後も課金以外の要素は残り、コアなファンにより〝半永久的にサービス終了がないゲーム〟として細々とサーバーは維持されていった。


 …………


 ……


 そして二十年後。HAOの一週間のアクティブユーザーもとうとう五十人を切った頃。


 とある少女が型落ちの中古VRデバイスを格安で購入し、初期化して脳波を登録。


 そこに入っていたのはあの、Holy Ark`s Online〝初回限定版〟であった。


 少女は内容も知らず嬉々としてアバターを作成、HAOへとログインするのだった。

~HAO一口メモ

二十年の技術進歩で少人数でも維持できるようになったらしい。

コアなファンのお陰でバグも一通り駆逐されており人さえいれば良ゲーといえる。

しかしHAOとAAOが出た後フルダイブ対応VRゲームは爆発的に増え、わざわざHAOというクソゲーをやる必要がなくなってしまった。現物ソフトもプレミア化してしまい現在は幻のゲーム。

配信は十数年前に終了している。

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