奴隷の条理①
その朝のポロロは上機嫌だった、昨日は想定したとおりの上首尾だったので踊り出したいのを我慢している程だった。
今回の転生者は選択も仕上がりも申し分ない、転生させた女神さえも知ることのない仕込みも完璧だ。笑いを堪えているために唇がいびつに歪むのを抑えられなかった。
だが油断は禁物、いつもの様にあいつらには「くびき」を着ける、何をそれに使うか考えたが、やはり奴隷か。
ユラユラと林檎の滲みが左手の甲に降りてきて囁く、それを捕まえて端を噛み切った、すると染みは何処かへ消えた、「ああそうだその通りだ」一人呟く。
テーブルに並ぶ豪華な料理の中から胡桃と林檎の入ったパン一切れを摘むと手早く飲み込む、「あとは捨てておけ、野菜は嫌いだと言っただろ。」そうして、奴隷の差し出す服に袖を通す「さて街に出るとするか。」これは奴隷に向かって言った言葉ではない、どれも自己満足で自分だけのために言っているのだ。
敷地の門を黒い馬車が出て行った、主人が屋敷を出るのを見届けると奴隷達は一斉に安堵のため息をつく、今日は誰も折檻されなかった。
日が上り朝の霧が晴れていく、「意外と冷え込んんだな、そろそろ冬の季節か。」あちこちの奴隷商人を見てまわっても今ひとつしっくりしなかった、この街は王城に近いとはいっても戦争時の捨て駒にするためそれほど大きくないのだから仕方がないが、結局昼刻を過ぎて行きつけの奴隷商人のマサレの所に来てしまった。
「最近サッパリお目にかかってませんぜポロロの旦那様、今日はどんな奴隷をお探しで。」
「まあ適当な、そうだなぁ惨めで安め目でなんてものは此処にはいないよな。」
「どいういう風の吹き回しですか、いつもは有能な奴隷を探してらっしゃるのに、お城の御用奴隷じゃないので?」
「ああ」、面倒なのでおしゃべりに構わず奥に進む
異臭が鼻をつく、酷い匂いだな。
「旦那、ここに入っちゃいけません、穢れますぜ。」
「しかしこの辺りが何か気になるんだよ。」
眼を凝らすと暗がりに慣れたのか何かが動いているのが見える。
「あれはなんだ?人間か、獣人か、獣みたいだが」
「あれですかい、一派一絡げで仕入れた奴隷でっさ、ちゃんとした人間でさ、こいつだけ売れずに残ってて、無駄飯を食わすぐらいならいっそ殺してしまうか悩んでたとこで、そうそう、家畜の中で暮らしていたようでね口もきけませんぜ。」
「それでよく生きていたね、普通なら家畜に喰われるか踏み殺されるか、病気になるかで長生きはできないものだがね、妙に運がいいのかね?」
「ところで、どうして売れないんだね、君は騙して「うる」のが得意じゃないか」
「これはこの小僧は売れませんぜ、見たとおり汚い臭い、痩せて労働ができねえ、汚くて性奴隷にもできねえ、それに。」
「右眼が白いな、何かの呪いか。」
「やっぱりお気づきやしたか、ほらね右眼が見えねえキズものでさあ、左だって見えてるかどうか、もうどうしようもありませんや。」
ポロロは考え込んんだ、右眼・・昔何かあったな、しばらく考えても思い出せなかった。
「よし、これを貰おうか。」
「え!こんなのどうすんですか。」
「気にするな、売ってくれ、文句は言わないから、それと隷属契約はどうなってる?」
「まだでさ。」
「まだ8歳になっていないのかい。」
「いいえうちに来て2年位ですからもう12歳らしいでですが売れないままでこんなことになってまさ。」恐縮して小さくなっている。
「少しは清潔にしておわたししますんでお待ちを。」
マサレは馬用の飼い葉桶に汚い水を汲んでんできた、
その水を奴隷にぶっかける。
「ぎゃ!」
余程冷たかったのか一瞬声を出すがまた隅に行こうとした
しかし首に縄をかけて強引に引きずり出された。
「で値段はいくらだい。」
「いらねえす、でも返品ダメですからね。」
「暴れて触らせもしないやつで、棒で叩いてもいうことを聞かないんでさ。」、言いながら逃げるように店に戻っていった。
やれやれ、眉間に皺を寄せて、こいつがハキの所まで生きて届けられるかを心配していた、しかし凄腕の奴隷商人になぜこの程度の奴隷が扱えないのだ。
ポロロは面倒になって拘束魔法をかけた、がほとんど効かない、こいつ!急に腹が立った、魔法抵抗のある奴隷だと?そんな者がいてたまるか、奴隷のくせにおれを馬鹿にするのか。
怒りで強化拘束魔法をかけ直すとやがてぐったりと動かなくなった。
掛け過ぎか・・・息が止まりそうに苦しい呼吸をしている、まだ生きているか?ああ失敗だ、魔法ではなくて杖で腕の一本でも折っていた方が楽しかったのに、おまけにこれでは自分で歩けんな、不快な臭いのする奴隷をゴザでくるませてずぶ濡れのまま担ぐと、ゆっくりと森の奥に向かっていった、ポロロは自嘲した、いい日だと思ったんだが今日は厄日か。