慌ててはいけません
(8)
「♪トュルトュトュトュトュ↑・・・トュッ、トュッ、トュトュトュ♪・・・・はいっ」
ドササッ(木材を置く音)
「よっしゃ!」
「メイコ、あともう少しだよーがんばー」
一つ下の階から、木材を両脇に抱えたアル君が、上って来る。
「はーい、がんばりまーす」
ただいま私たち、『大量木材運搬大作戦』を実行中であります。
「おーいメイコー!!
じゃんじゃん運べ~~!木材溜まってるぞ~!」
「ひゃい~~~~~~~(泣)」
三階に居るエル教官からの声に、
既にヘトヘトになっていた私の身体に、喝が入れられた。
作戦内容は超シンプル、
一階~三階に運ぶのが、エル。
三階~四階に運ぶのが、アル君。
四階~五階に(言霊をつかって)運ぶのが、私。
バケツリレー式の、分担で運んでおります。
作戦を考えたのは、エル教官!
ひと階分の距離なら、私の集中力も十分もつだろう・・と、私の言霊の訓練も兼ねた作戦。
教官さすがです・・・。
はじめは、「浮け」とか言ってたんだけど、浮かぶだけ。
じゃあ具体的にって、「自分で勝手に転がって、上の階行け」と言ってみたけど、階段の段差にぶつかって、停止。
継続して続かない。何で?
声の長さですか?
んじゃ、できるだけ長ーーーく、言ってみるかい?ってことで、
「こーーろーーーがーーーりーーなーーー
コトコトコト(転がる木材)
がーーーらーーーうーーーえーーーにーー……い」
んはっっ(呼吸)
だめ!死ぬがなっ
言い続ければ動くけど、無理っ
え…どうしよう
想像力?イメージが足りないのかな?
イメージ…イメージ、単純なイメージ、
『浮かして→(上の階へ)移動→(床に)置く』
だけをイメージして、繰り返す。
あら、できた!
少しもたつくけど、できたよ!
この調子!
視界に、驚いてるアル君と、
「そのまま、そのまま」と励ましてくれる教官が映るけど、集中集中…
たまにグラッってするけど、テンポよく繰り返す。
「ういて、いどー、おく」
5分後
「うい、いどー、…おく」
15分後
「うい、どー、く」
30分後
「い、とー、く」
1時間後
「♪トュル、トュ、トュ、トュ、」
ひたすらの往復作業、一番負担をかけてるエル教官の為にも、がんばりまってます!
ってことで、歌ってまーす。
「♪トュル、トュ、トュ、トュ、
トュル、トュ、トュ、トュ、
トュル、トュ、トュ、トュ、トュ、
トュトュトュトュトュ↑♪」
大丈夫?ゲシュタルト崩壊してないですか?
歌うと集中できるから歌ってます。繰り返し作業過ぎて歌えます。も余裕です。
トューは、英語のME TOOの、TOOの発音な感じ。
歌は『キュー○ー、三分クッキングのOP』の、伴奏後からです。
最初は、呪文の様に言葉繰り返してたけど、すぐ飽きたんで・・・
何十往復目かの、三分クッキングを歌いながら、木材を上に浮かせていく。
アル君は、トュートュー言いまくってる私を、困惑顔で見てるけど・・・
不思議と集中は途切れないので、このまま行こうと思いますっ!
「♪トュルトュトュトュトュ・・・トュッ↑、トュッ↑、トュ・トュ・トュ♪・・・ほいっ」
カトカトカトッ(木材が積み上がる音)
こんなリレーを、朝から永遠、3分クッキング続けて半日、
五階のバルコニーは、木材で埋め尽くさました。
・・・・
めい「お・・・・オワタ・・・」
アル「あ~~~~~~」
エル「ぐは~~~~あちぃ・・・・・」
バルコニーに倒れ込んで、暫し黙り込む三人。
めい「あのー・・・お疲れ様ですう」
アル「うん・・」
エル「ああ・・」
・・・・
・・・・・・
サラサラと気持ちいい風が三人を包む・・・・
今日も超良い天気・・・
はぁ・・・暖かい・・
なんかもう、このまま眠りそうだわ・・・・
なんて、ウトウトした所で
「メイコ・・・魔力大丈夫か?」
唐突の教官の声
「ふぇいっ!?」
「はは(笑)メイコもしかして一瞬寝た?」
横になったまま、笑ってるアル君。
めい「え?何?なんて?」
エル「魔力切れ起こしてないか?って」
めい「あ――・・・魔力ぅ。
確か、私の魔力は全然減って無いから大丈夫・・・、それより体力の方がね・・・・」
てゆーか、
口しか動かしてないのに、なんで体力が削られるのさ!って話・・。
・・・・なんで?
大の字のまま、空を見上げていると突如、
視界に、二つの影が覆い被さった。
アル・エル「「 はあ?! 」」
めい「うおっ!」
ココで、「きゃっ☆」て言えないのが私。
「ななななに???」
視界いっぱいに、二人の顔が覆ってる!
遅ればせながら「きゃはーーーー(笑顔)」
正確には、逆光のせいで、暗くてあんま見えませんけど~~!
アル「減って無いって何ですか?どういうことですか?」
エル「減らない訳ないだろ!・・・減らないってなんだよ!?」
て、
全然トキメキが起きてない二人の声に、
瞬時に「きゃー」終了・・・。
「・・・・減らないです。」
ドキドキの展開ではありませんでした。(←当然です)
エル「本当に魔力減ってないのか?」
アル「これも女神の加護ってヤツなんでしょうか?」
エル「え・・・・いや、そんなこと、あり得るのか?」
二人が、私の上でであーだこーだ討論をしだした。
いや、ちょっと・・・あの、顔、近過ぎません?
さすがに恥ずかしいんですけど……も。
いき・・息もっかかるんですっっ!!(恥ずっ)
めい「ちょっと、お二人さん?」
小さめの私の声に、
二人が同時に、私を見下ろす。
その際、二人の目が一瞬キラッっと光った気がした。
エル「めいこのステータスって、どうなってんだろう・・・」
アル「興味ありますね・・・」
二人とも、そのままじっと私を見つめる。
わかったから・・・とりあえず、退いてくれます・・・?
自分の胸に手を置いて、
「あー…、【鑑定発動】。」
―――――――――――――――――――――――――
鈴原 芽依子
HP: 22/120
MP: ∞ / ∞
ジョブ:言霊士
種族:人族
年齢:28歳
性別:女
属性:無属性(言霊)
スキル:言語解読変換(発言・記入可能)、独学護身術、OL知識、鑑定、謎の歌(歌ってる間、集中力UP)
称号:異世界からの来訪者、元OL、巫女、かけだしの発明者
状態:疲労
――――――――――――――――――――――――――
「「 !!? 」」
二人が驚いた顔をしたようだったが、私は気にせず、ステータスボードのMPが、「∞」表示な事を伝えた。
アル「あの・・・いま、サラッと自らを鑑定しました?」
エル「まじか・・・」
二人は、困惑した顔で見られたが、
私はもっと気になってる事があった。そう!
「私、体力が22しかないんだけど、これ0になったら、死んじゃうのかな!?」
ガバッと勢いよく起き上がっ………ちゃった。つい。
ガツン!!とね。
元々、私に覆い被さるような体勢になっていた二人は、
とっさに起き上がった私を避けれず、
私は二人にタックルをかます結果となった。
・・・撃沈して動かない二人。
「やば・・」
私のおでこが、痛い。
うつむいたアル君が、両手で口を押さえていらっしゃるので・・・
どうやら私、アル様の口にデコ攻撃を食らわせた模様・・・。
さらに、そのとなりで、
仰向けで倒れてるエル様が鼻を押さえてる・・・。私、エル様の鼻にヘッドバッドした模様・・・。
「・・・すみません・・・・。」
静かに土下座のモーションでひれ伏す私・・・。
ワザとじゃないんだ・・・ちょっと一瞬あわてて・・・・。
慌てると、周りが一瞬見えなくなる私の悪い癖、発動しました。
「ごめんなさい・・・」
再度、深く謝罪をし、二人を見るが、床に撃沈した二人は、微動だにしない。
「え、
やだ・・・どうしよう・・・・
し・・・死んだ?」
慌てて、二人のそばに掛け寄ると、
二人が、小刻みに震えているのが分かる。
「生きてる!
でも、超震えてる!
え?なに?状態異常!?え?」
二人の肩を揺らしながら、
え?、え?、どうするの?、どうしよう、言いっていると、
「フッ・・・」 「クックク・・・」
二人の口から震える息が漏れ・・・
次の瞬間には、ハッキリ笑い声となった。
「「 アハハハハハハ!! 」」
腹を抱えて笑いまくる二人。
エル教官に至っては、ひーひー言いながら足をバンバン打ち鳴らしてる。
えーと・・・ひとまず、殺ってはいませんでした。
ですけど、二人はどしたんだろ?
しばらく、笑いまくってる二人に困惑しながら、
二人が落ち着くのを黙って待っていると・・・
笑い疲れした二人が、ゆっくり私に視線を向ける。
「はぁ、はぁ・・・・
頭突き一撃で倒すって・・おま・・どんだけ強・・ブハッ!ククク・・」
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・、
笑い過ぎてお腹痛い、口も痛い、フフフフ・・・」
「ぶつかって、すみませんでした・・・」
なんかすごく恥ずかしくて顔が熱い・・・。
エル「はぁー・・・。
メイコは、面白いなぁ・・イテテ」
「予想だにしない事しますもんね・・・フフ」
アル君まだ笑ってるし・・・
かっこ悪い自分に、凹んで・・・思わず
めい「はぁ・・」
キュル~~・・
「あっ」
ため息だけついたはずが・・・
お腹にも力が入っちゃって、空腹のお知らせも出ました。
「は、外さねー。・・・・ハハハハハ(笑)」
また笑い出したエル教官。
「・・ご飯にしましょうか、ッフフ」
私の手を引いて、立ち上がらせてくれるアル君。
笑いを堪え様としてるみたいだけど、
堪えられてないですよ!全然!
やけに暑すぎる顔を、両手でパタパタ扇いでいると、
階段の所で振り返った二人が、私を呼ぶ。
暖かい木漏れ日の中、今日も至っていつも通り。
二人の背中を追いかけた。